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企画
もしも魔法が使えたなら(幽帝)

ノックノックノック。
扉を叩く音。

ぼろアパートの薄すぎる扉はそれだけでギシギシといった軋みを生じさせていた。

「んー」

チャットをしていた帝人は生返事をしながら立ち上がる。視線はパソコン画面に向いたまま、億劫そうに「はーい」覗き窓で外を確認せずに扉を開いた。

「こんばんは」

「え…」

淡々とした感情を見せない美声に帝人は硬直し、ギギッと首をそちらに向けた。

「幽さん?」

「うん。そう。入れて」

無表情のままそんな事を言うトップアイドルに帝人は満面の笑みを浮かべて彼を迎え入れた。






「まさか来てくれるなんて思ってもなかったです」

冷蔵庫にストックのあった牛乳でココアを作った帝人はマグカップを簡素なローテーブルの上に置く。

「ありがと」

無表情で感謝を言われても、本心なのかさっぱり分からない。

「どういたしまして」

けれど帝人はそんな事気にもとめずに幽の前に座った。
ぼろアパートのボロい畳の上に敷かれた座布団に座る羽島幽平。
非常にシュールは組み合わせだ。

「ごめん。何も持ってこれなかったんだ。せっかくの誕生日なのに…」

「何も要りません。幽さんと会えただけで嬉しいんです」

本当に楽しそうに告げる帝人を見て、撮影を早く切り上げてきて正解だった。と思いながら幽はマグカップを手に取る。
じんわりとした暖かさを伝えてくるソレに口をつければ、飲みやすい、幽好みの温度、甘さ。

「この時を切り取って、永遠に閉じこめてやろう」

「っ!!な、何ですかソレ!!!?」

「…今やってる『魔法戦士ズンズバズーン〜愛、忘れちゃいました』の台詞」

「あ」

ヤバい。
そう思うより先に幽が帝人の言葉の意味を理解してしまった。

「観てくれてないんだ」

無表情のまま無感動な声を発した幽。
それはいつも通りだったが、帝人には彼の真意が感じ取れてしまった。

"落胆"
今、幽が抱いているのはその感情。
人一倍自分の仕事にプライドを持つ彼だからこそ、恋人にもその結果を観て欲しかったのだろう。

特に今放映中の『魔法戦士ズンズバズーン〜愛、忘れちゃいました』は視聴率30%を超えるとんでもないドラマだ。
主役の幽が今まで以上にカッコ可愛いと話題沸騰中のそれを観ていないというのは完全にワザとに決まっている。

「ごめんなさい」

小さく謝った帝人は伏し目がちに告白した。

「でも…幽さんが他の人と一緒に居るのを見たくないんです」

「え…」

「演技だって分かってても…」

シャツの胸の部分をぎゅうっと握りしめ、帝人は俯く。

「なんか」

言い辛そうに帝人は口ごもり

「此処が痛くなるんです」

バカみたいですよね。
そう言った帝人は泣き笑いを浮かべながら顔を上げる。
自分でも理解していた。
不条理で醜い嫉妬をしていると。

だから、誤魔化そうと「気にしないで下さい。気のせいですから」と言おうとした帝人は目の前の男の表情に固まった。

「帝人」

無表情なのに、顔を真っ赤にした幽。
予想だにしないそんな表情の理由を何となく悟った帝人の顔も真っ赤に染まる。

「それ反則」

動揺を隠しもせずに幽は帝人の細い体を抱き寄せた。
互いの体温が安らぎを生むと知ったのはもうずいぶん前の事。

「俺より帝人の方が魔法使いみたい」

「なんですかそれ」

クスリと笑う帝人に幽は囁いた。

「一瞬で俺を幸せにする」


どんなドラマの主人公よりも甘い甘い告白に帝人は耳まで真っ赤にさせ、自分を抱き締める幽の背に手を回した。


「幽さん」

「何?」

「ドラマ観たいです」

「でも嫌なんじゃない?恋愛ものだし」

「幽さんの格好いい姿、ちゃんと見たいんです。それに………幽さんと一緒なら嫉妬なんてしないですから」

「ホントに帝人は……俺を喜ばせる魔法使いだよ」

抱き合ったまま会話を続ける二人は僅かに体を離し、見つめ合う。
甘ったるい空気が二人の間を流れ

「俺の魔法使いが生まれたこの日に感謝」

「なんですかソレ」

軽口を叩きながら唇を寄せた幽は
「ハッピーバースディ」
と音もなく唇を動かし、そのまま帝人に口付けた。

―――――――――――――――
幽帝ー
初めての幽帝です
ベタなネタをやってみました
そして久々に可愛い帝人が書けたんじゃないかなと自画自賛してみる(笑)
でも幽が完全に別人で困りました…幽難しいですね(-_-;)



『魔法戦士ズンズバズーン〜愛、忘れちゃいました』
がどんな話なのか誰にもわかりません(オイ)
恐らく幽が魔法戦士なんだと思います(テキトー)



[2010/3/19 Up]

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あきゅろす。
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