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#2009
(ほたるとせつな)

誕生日。
正直彼女に誕生日なんてものがあるのか、それすらも分からない。
誰かの胎内から生まれて来たのかもわからず、祝われたこともない。
長年一人でいるからか、生まれて来た事に対する感謝、ありがたみがよく分からないのである。

「せつなもまた一つ歳を重ねるのねえ」
「言葉を選びなさい言葉を」
黒髪の少女は聞き捨てならない言葉をしみじみ呟いた。
誰に似たんだか。どう考えても海の人です本当にありがとうございました。
しかし、そう言う彼女もせつなから見れば目まぐるしいくらいに歳を重ねて今や高校生。
顔は大人びていて、昔見た幼さはそこにはない。
ほたるは改めて目の前のせつなを見ると、
「おめでとう」
祝福の言葉を述べた。
「ありがとうございます」
「何でそんな無感動なのよ?」
「……別にそんなつもりはないのですが、どうもしっくりこなくて」
首を傾げるほたるにせつなは苦笑しながら話す。
今日がその日かなんて真実は分からず、いまいち誕生日という日に対する思い入れがない事を。
今でこそ友人もたくさんいるが、
黒い月の一族が未来から来る前などは、時空の扉に近づく者なんてごく少数。敵か主人かでしかなかった。
孤独の彼女には祝う、なんていう概念そのものがなかったように思う。
それゆえ、この時代に来て同居人達から祝われた時は心底驚いたものだ。

話を聞いていたほたるが、聞き終えると同時に言った。
「……そんなの考えなくたっていいと思うけど」
「え?」
黒紫の瞳がせつなを捉える。
「誕生日は自分が生まれた事に感謝するだけじゃないわ。
家族や友達が、その人が生まれてきてくれた事に感謝する日でもあるんだから。
せつながしっくりこなくたって、私はせつなが生まれてきて今ここにいる事に感謝したいのよ」
「……」

「こう言えばいいかしら。

生まれてきてくれてありがとう。




一瞬、辺りがしんとした錯覚に捕われた。
そして、全く役を果たさない自分の脳。
恥ずかしい台詞を言ってしまった事に気付いた沈黙の戦士がその沈黙を破る。
「あ、待って、今の無し」
「……しっかり聞き届けましたよ。最高の贈り物です」
「っ!違うってば!違う!気の迷い!気の迷いよ!」
慌ててせつなに飛びかかるも、彼女はひらりとそれを避ける。
「もう!」
なおも顔を赤らめてポカポカと体を叩いてくるほたるを見ながら、せつなは思った。

「(そうか……)」

はるかの誕生日も、みちるの誕生日も、ほたるの誕生日も、
全て彼女らが生まれてきてくれてここにいてくれることに喜びを感じた。確かに感謝の気持ちがそこにはあったのだ。
誕生日は自分だけの日ではない、皆の日。
そう思うと、祝われた自分はとても幸せではないか。


───なるほど……。


「だからー、…せつな、聞いてる?」
「聞いてますよ。ありがとうございます」
「聞いてないじゃん!忘れてって言ってるでしょ!プレゼントあげないよ!」
「まぁ。それは困りますね」

くすくすと笑った。
プレゼントなら既にもらっているけれども。

「……調子狂っちゃった。鎌の手入れでもしようかしら」
拗ねたような表情でこちらを見る少女の頭を撫でて、
せつなは笑いかけた。

「ありがとうございます。これからもよろしくお願いしますね」






おまけ
「せつなって本当に誕生日10月29日であってるの?」
「私の星が発生した日から数えて逆算して、現在の西暦に合わせたらあってますよ」
「暇だったの?」
「まぁ」


*****

どうみても去年のプー誕のリメイクです本当にry

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あきゅろす。
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