長編小説
7
悠人は仕事を終えると、山田が指定した場所へと金を持って車を走らせる。
場所は高級ホテル。
金が入るとあってか、スイートルームに宿泊していた。
この状況に、悠人は嫌な予感を拭えなかった。
もし襲って来るようなら、容赦はせず投げ飛ばす…。
悠人は合気道を少々かじっていた。
自分が同性愛者と言う事もあってか、男に襲われる事が悠人は多かった。
そんな時、悠人の兄が合気道を習い始た。
その兄から、身を守る術を教わったのだ。
山田の宿泊しているスイートルームの戸を悠人は叩く。
早く、事を終わらせ帰りたい。
そればかり、考えていた。
すると不意にドアが開く。
風呂に入っていたのか、バスローブを着、タオルで頭を無造作に拭いている。
「どうぞ」
そう言って、悠人に部屋に入るよう薦める。
嫌らしい笑みを浮かべて…。
悠人は下から上へ、冷たいモノが背中を通るのを感じた。
渋々、悠人は部屋に入った。
スイートルームは広く、三部屋…リビング、その右隣りにベットルーム、左は書斎になっている用で、全体的にアンティーク調で纏めてある上品な部屋だった。
はっきり言って、山田には場違いな所だ…。
悠人はリビングのソファを進められ素直に座る。
「要求した物を持って来た…」
逃げそうになる身体を叱責しながら、悠人は淡々と事務的に事を薦めた。
五百万の入ったアタッシュケースを受け取り、中を開けそれを確かめると、山田は嬉しそうに笑った。
胸ポケットから、悠人は一枚の紙を出し、硝子テーブルの上に置く。
「何これ?」
興味なさそうに、山田は訪ねた。
「今後、楓さんや社長に近付かないと言った内容の契約書です」
「…用意周到だな」
そう言って、すんなりサインと拇印押す。
間違いがない事を確認し、悠人は去ろうとすると腕を掴まれる。
「っ…離して下さいっ」
「社長と楓には近付かない…でもあんたはその条件に入ってないだろう?」
すると、ソファに戻されたと思うと、そこに押し倒されてしまう。
「止めて下さい!」
「そんな事言って良いのかなぁ…東海林家最大のスキャンダル…マスコミに話すぜ?」
話が見えない悠人に山田は馬鹿にしたように笑う。
「へぇ…アンタなら知ってると思ったんだけど…知らなかったんだ」
「何の事だ…」
漸く冷静を取り戻した悠人の心を掻き乱す一言だった。
「楓の父親って先代の社長じゃなく、現社長って話…」
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