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長編小説
9
その頃の東海林邸。

残業を終え帰って来た英雄。ダイニングに行くとテーブルには夕食が乗っている…が、それに手を付けていない楓は、ただイスに座って何やらふてくされている様子。

「どうした?食欲がないのか??」

他人には見せない笑顔を浮かべ、楓の向かい側のイスに座る。

「…別に、ただ兄さんも、悠人さんも同じ事言うんだもん。孝司さんの事悪く言うから、オレ怒ってるんだけ!」

迫力にかける怒りな上、怒った顔も可愛いなどと、ブラザーコンプレックス全開だった。

「目を覚ませ楓、先日話しただろう…山田は手切金を要求してくるような奴だ。現に何も言わず、お前の前から姿を消した。現実に今、悠人が金を渡しに言ってる。どう言う訳か、金の引き渡しは、悠人に来させろなどと言って来た。どうやらオレが恐ろしい見た」

その言葉が楓は引っ掛かった。そして数日前のある事を思い出した。





それは、英雄に山田を紹介しに言った時だった。

その日、英雄に合わせる前に、丁度秘書室に戻ろうとしていた悠人とバッタリ廊下で楓と一緒に来ていた山田は鉢合わせた。

『どうしたのこんな時間に?』

いつも来る時より早い時間だった。

『今日は来年ウチの高校を受験する学生見学があって、早く学校が終わったんだ』

楓はニコニコしながら答えた。いつも以上に機嫌が良い。

悠人は楓の隣りにいる山田の存在に気付く。

『楓くん、隣りの方は?』

悠人は警戒した。

山田を見た時、悠人は嫌な臭いを感じ取る。だが、それを顔には出さない。

『山田孝司さん…そのボクの付き合ってる人』

それを聞いた悠人はやっぱりと思った。

楓ではなく、楓の家の金が目当てと言う、今まで楓に近付く輩と同じ臭いがするのだ。

内心、腹腸が煮えくりかえりそうな怒りが込み上げる悠人だが、何とか自我を押え、自己紹介を山田にする。

『初めまして、楓くんのお兄様の秘書を勤めている柿谷悠人と申します』

心の籠らない営業スマイルを浮かべる。

『へぇ…あんた綺麗な顔してんな』

山田は楓がいるにも関わらず、ナンパ紛いな接し方を悠人した。殴りかかりたい衝動を必死で堪える。

『有り難うございます。でも、楓くんの可愛さには敵いません。では、先を急ぎますので失礼します』

二人に頭を下げて、悠人はその場を後にする。

『…孝司さん。今、悠人さんナンパした』


『焼くなよ。まっそんなとこも可愛いけど』

そんな風に山田は誤魔化した。

何度か英雄を説得しに、楓は山田を連れて、会社に来た。その時、山田は何度か悠人を見ていた。





まだその時は、悠人は本当に綺麗だから、褒める気持ちは分かる。

だが今思うと、恋人が側にいるのにも関わらず、その場で他人を普通褒めるだろうか?本当に山田は楓を好きだったのかと今更考えてしまう。

そして、手切金の受け渡しを悠人を指名している。

そんな悠人を舐めるように見ていたと言う、今まで認められず、否定していた現実に楓は直面していた。

色々と考えていたら嫌な予感が楓を襲う。
それと同時に、山田への熱もサァーっと冷めて行くのを感じた。

「兄さん!お願い!!今すぐ悠人さんを迎えに行って!!!」

弟の突然の豹変に、英雄は驚いた。

「どうした?急に??」

「嫌な予感がするんだ。孝司さん悠人さんを見る目が変だったから…ゴメン、オレ間違ってた」

漸く現実を見始めた楓に一安心だが、また別の問題が浮上してきた。

「どう言う事だ楓?」

初めて聞く話しに、英雄は楓を問詰める。

「説明はちゃんと後でするから!お願い早く悠人さんの所に!!」

楓の剣幕に押され、英雄はフェラーリ乗り込み屋敷を出た。

それを見届けながら、何も起こらないようにと、楓は祈る事しか出来なかった。







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