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マネジのお姫様
28.立海合宿編〈10〉

「…………」


…30秒前に言ったあたしのセリフ…


あたしの体重を信じろ!


…前言撤回ぃぃぃいい!
何が信じろよ!何を信じろよ!自分の体重なんか信じるんじゃなかった!!
馬鹿みたいに自分の体重を信じて頼りない細さの枝に脚をかけたとたん…


バキッ


「!?」


まあ…物の見事に折れまして…
生命の危機を感じたあたしの身体は、ない反射神経をカラカラになるまで振り絞って
太めの枝にしがみついているかぎりです…


「あっぶなー…」


こわっ!うわこわっ!
こ、これもし落ちてたら死にはしないものの大怪我だったよね!?確実にバイオがハザードしてたよね!?
……てかどうしよう…下、見ちゃった…
た、高い!思った以上に高かった!!
や…やるじゃんあたし…とか言ってる場合でなくて!!
う、うごけな…でも助けは来ないし…
登りきるしか!
よく見れば引っかかってるボールも近いし!


「うっ…うぅ…」


怖いよう…怖すぎるよう…
あと少し…あと少しで…!


パシッ


「や、やったぁ!」


あたしの猫パンチは見事にボールにヒット!
地面にポスッと落ちていった。
その後も頑張って全てのボールを叩き落としてやったぜ!(これだけ聞くと、バレーボールみたいだよね。笑)
はぁ〜頑張った!あたしほんと頑張った!
もう!何でこんなに苦労しなきゃなんないの!なんかイライラしてきたよ!
打ったの自分たちなんだから拾うのも自分たちでやれっての!


「…ここでキレてもしかたないか」


いいや、地上に降りてから赤也に当たろう。
ん?何で赤也かって?そらもちろん後輩が先輩を殴れるわけないじゃないですか。
先輩の全てを背負ってあたしの制裁を受けなさい!とにかく降りなきゃ。


「よい…しょ…しょ…?」


あ、あれ…?
こ…怖い…
なんか、次の枝までだいぶ距離ない…?
お、降りれなくなっちゃたよぉぉおお!!
さっき無残にも折ってしまった枝がポイントの場所だったみたい!
あれを折ってしまったがために、次の枝がかなり遠くに…!
無理無理無理無理無理無理!!
登ることはできても、降りることができない!
どうする!?


「た、助け待つ!?いやいやいや…助けなんてそんないつ来るかわかんないし…」


つかこの木、全体的に枝が頼りないんだよ!こわすぎる!もっと地面から栄養吸い込めや!


「……あ」


……なんか、昔もこんなことあったな…








〜8年前〜


悠太「おい真央ー?お前何やってんねん、早よ降りて来ぃやー」

「に、兄ちゃん〜…、怖くて降りられへん〜!助けてやぁ…」


当時小学校1年生くらいのあたしは、木に登った兄ちゃんと光を追いかけて一緒に登った。そしたら案の定降りられなくなったわけだが…


悠太「お前…せやから下で待っとけ言うたんや!俺らと同じについて来れるわけないやろ!」

「せやってぇ…」


いつも一緒だったのに、幼いながら急に置いていかれる気がした。
兄ちゃんの方ができることは多いのは分かっていた。が、光にできて自分にできないことはないと思っていたのだ。それまで、何をするにも一緒だったから…


財前「悠太兄ちゃん」

悠太「おお、光」

財前「真央降りられ…てないみたいやな」

悠太「せやねん。しゃーないなー、俺がハシゴ持ってきたるさかい、ちょい待ちや」

「早よぉ〜」

悠太「まったくほんま……」

財前「…………」

「…………」


光が細めた目だけで何を言いたいのかは容易に想像がついた。


財前「…お前ほんま何で俺らについてきたん」

「せやって!真央だけ仲間外れとか嫌やもん!」

財前「悠太兄ちゃんは、お前には無理やと思うて待ってろ言うたんやで?」

「せやけど!」


今ならわかる。兄ちゃんはあたしには危ないと思ったからやらせようとしなかった。
けど、それを理解するには当時のあたしはあまりに幼く、ただの仲間外れにしか感じなかった。その点では幾分、光の方が大人だったかもしれない。


財前「しかもそんな高くないし…飛び降りろや」

「高いわアホ!飛び降りれるか!」

財前「もうこれに懲りたら俺らについてくるなや」

「嫌や!仲間外れなんて…嫌や…!……うぅ〜」


突然言われた言葉に涙が溢れた。
ただでさえ、地に足がついていなくて不安なのに…それでも必死に気丈に振る舞っていたのに。その一言で、あっけなく崩れた。
まるで自分を突き放しているようではないか。


財前「な、泣くなや!」

「せやっ…てぇ…」

財前「……しゃーないな……ん」

「? 光、手ぇ広げて何しとるん?」

財前「ここに飛び降りて来ぃ」

「……え!?な、何言うてるん!?」

財前「? ここに降りて来れば安全やろ?」

「そ…そんなことできるわけないやろ!」

財前「せやけど、こうやってたで?」

「誰がやねん!」

財前「母さんが見てた昼ドラの人たち」

「お、おお…おばさん、洒落たもん見るんやなぁ…」


けど、そうか。

当時の幼い脳みそでは、それができてしまうと考えてしまった。だってテレビの人でもできるんだから!と…


「…せやけど、重いで?」

財前「…病院送りは覚悟しとくわ」

「そこまでやないわ!」


今考えると、その木は2mもなかった気がする。まあ、そんな高さでも怖く感じたわけで。


「ほ、ほな…いくで…?」

財前「…おう」

「や、やっぱり怖い…」

財前「大丈夫や」


何故だかとても安心していた。
何を根拠に言っているのかはわからないが
自分を受け止めようとしてくれているその男の子は自分と同じくらいの細さで、自分よりも色の白い子。
だけど、懸命に広げられたその腕にはたくましさが見えた気がした。


「せーのっ」


……ドサッ


恐怖で目をつぶりながら飛び降りた。
かなりの衝撃の後に、そっと目を開けると勢いに負けて尻餅をついてしまったその男の子の温もりが感じられた。妙に落ちつく。
後ろに倒れてしまっても、彼の腕はしっかりと自分を抱きとめてくれていた。
…まあ、痛くなかったと言ったら嘘になるが。


「ひ、光…大丈夫…?」

財前「……おー」


きっとクッションの役をしてくれた彼の方が何倍も痛かっただろう。だから何も言わなかった。


財前「ほら」

「ん?何が?」

財前「言うたやろ?大丈夫やって」

「せ、せやな…」


何と無く、今でもあのあどけない優しい微笑みの光の顔が印象的で忘れられない。


悠太「あー!?何やお前飛び降りたんか?ならもっと早よやれや!俺、無駄やったやないか!」


その後の兄ちゃんの悲痛の叫びも。








「あー…懐かしいー」


今になってみれば光が突き放したように言ったのも、きっとあたしの心配をしたからだよね。わかりづらすぎるが。
手を広げてここに飛び降りて来ぃ。って!
しかも昼ドラの影響って!
光も可愛い時期があったんだなぁ。
今なら死んでもやらへんって言うだろうなー。


「…てか、状況何も変わってないし…」










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