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紅の旋律
第一話 前奏曲は荒野から(Writer:I.Otogi)
いくつもの山に囲まれている荒野。そこに頭にターバンを巻いた少年と、漆黒の狼が町に向かって歩いていた。
少年のターバンの巻き方はゆるゆるで、ところどころ水色の髪が飛び出しており、長い前髪の間からはオレンジ色の瞳が見えていた。木の一本もないこの荒れ果てた荒野で、日の光がさんさんと照りつける中、首をしっかり隠したタートルネックに長袖の服を着ているためとても暑そうである。

「なぁ、クロ…本当にこっちであってるんだろうな?」

そう少年が狼に問いかけると、狼はフンと鼻を鳴らして答えた。

「ああ。間違えないぞ、レヴァ。ほら、もうそこに見えている。」

話す狼なんて、とこの狼を見た人は誰でも驚くだろう。しかし少年にとっては当たり前なのか、何も驚く様子もなく額の汗を袖で拭い、もうすぐそこにある町へと少し足を速めた。

少年と狼が立ち寄ったのは鉱業で栄えた鉱山の町。
鉱石だけでなく宝石もとれるこの町では、多くの商人や旅人が行きかう町だ。観光に来る人も少なくはないようで、あちこちに観光者向けの店があり、店の前では店の者たちが争うように「是非うちの店に!」と呼び込みをしている。少年も小太りの男に声をかけられるものの、適当に流そうとした。しかし、その男は少年の連れている漆黒の狼を見てギョッとした。

「ちょっと兄ちゃん!狼なんか放し飼いしてたら危ないぞ!?」
「ああ、大丈夫です。コイツおとなしいんで。」
「いや…しかしだな…」

男の反応も無理はない。狼は肉食動物。山や森で襲われた人間は数知れず…そんな動物だ。しかし、少年は面倒臭そうに溜息を一つついてから「ほら、大丈夫だよな?クロ…」と言いながら狼の頭に手をおいて軽くなでようとした。が

「痛ってぇ!!何すんだクロ!!」
「ヴーッ!」
「どこがおとなしいんだ!?」

そう、少年は狼に噛まれたのだ。少年の手からは少し赤くなっていて、眼には涙を浮かべている。男はそれを見かね、少年にペット預り所に狼を預けるよう言ったが少年がそれを渋るため、無理やり預り所に連れて行ったのだった。

「全く…狼を放し飼いなんて…。」
「すいません…」

男から話を聞いた預り所の受付の女性にも悪態を突かれた。謝る少年に対して、狼は先程飼い主にかみついたとは思えないほどおとなしい。

「で?君の名前は?」
「レヴァンス・オーフェンです。」
「この子は?」
「クロビスです。」

女性は手際よく書類に書き込み、その一部をちぎって「引き取りのとき渡してください」と少年…レヴァンスに渡した。レヴァンスがちらっとクロビスを見れば、かなり不服そうな顔をしていたので、クロビスに顔を近づけて小さく「暴れるなよ」と言うと、クロビスは小さく鼻を鳴らした。

「あ、そうそう。今ハンターがこの町に来ているそうなので気をつけてくださいね。」

預り所を去ろうとしたレヴァンスに女性が言ったので、レヴァンスは足を止めた。レヴァンスが「ハンター?」と首をかしげて聞きなおせば女性は「ええ」と肩をすくめて答えた。

「何のハンターか、何が目的なのかさっぱりわからないそうだから…」
「そうか…さんきゅ、オバサン」
「オバサン!?」
「あ、いえ!お姉さん!!」

そうレヴァンスはあわてて言いなおし、その場をさっさと立ち去った。

「目的のわからないハンター、か。」

クロと離れたのは痛いな…とレヴァンスはつぶやき、取り敢えず宿をとろうと宿屋の方へ足を向けた。





To Be Continued...

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