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唇から魔法(オパール:ちょー)

オパールの唇は綺麗だ。綺麗なのは唇だけにとどまらず見た目全体なんだけれども。彼女には男兄弟が二人いる。男兄弟二人は三つ子なだけあってオパールと同じく、男とは思えないくらいに綺麗だ。容姿はそれぞれそっくり。男とか女とか関係なくて綺麗。だけど、中でも女の子のオパールはやっぱり綺麗で、折れそうなくらいに華奢な身体だとか、――中身が見た目を裏切って勇ましくてかっこいいことはこの際彼女の素敵な魅力の一つだと思おう、きらっきらの大きな瞳とか、桃みたいにピンクの頬とか。そしてふっくらとして艶々な唇が綺麗な容姿の中でも何より魅力的である。ただしその魅力的な唇と、見た目と同じく澄んでいて高くてかわいくて綺麗な声が形作る言葉は決して綺麗なものばかりじゃなくて、普通の女の子同様に適度に言葉遣いに問題があったり、辛辣の言葉を吐いたりする。

「あー、だるい……。やってらんない…」

時には大人でさえいい負かすほど口達者な彼女の口から今ついて出たのは辛辣な言葉ではないが、綺麗な言葉でもなく、ただの怠惰の言葉だった。ぐでっと机に預けられた顔と彼女の下敷きにされた詩集に金色の真っすぐな髪がかかる。

「またそんな事言って…。ダイヤモンド様と先生に叱られるわよ」

オパールの母親であるダイヤモンド様はオパールに輪をかけて美しく、その美しさは一種の恐ろしささえ伴うほど強烈なものだが、話すときさくで楽しい方だ。そして怒るとめっぽう怖い。言い出したらわりときかない性質であるオパールに言う事を聞かせられる数少ない人の一人だ。

「でもさぁ〜、だってさ〜、詩を作ったからってこれからの生活の何かの足しになるわけ?こういうのはやっぱり才能がある人が作るべきものであり、才能のない人は大人しく読む専門になるべきだと思うのよ」

ちろっとうらみがましい目で見上げられる。美少女のふくれっ面は表情を崩していてもかわいらしい。子どもが拗ねた顔と同じで思わずほだされてしまいそうになるのを自制できたのは付き合いの長さからだろう。同性で付き合いがそれなりに長いのに、ほだされてしまいかける。オパールの美貌はそれだけ影響力が強い。

「でもオパールは読むことさえしないじゃない。詩歌は子女のたしなみです。マナーです。生活の足しにはなりませんが、身につけていて損するものではありません。といようよりも、自分を高めるためのものであって、別に役にたたせようとかそういう目的で学んでるわけじゃないでしょう」

わざと敬語でぴしゃりと言えば、オパールは舌を少し出して「ばれたか…」と呟いた。

「分かってるけど、比喩とか回りくどいって思っちゃうのよね〜。だって…、ストレートに言った方が物事って伝わるじゃない?わざわざ長く、分かりにくく、例えたりしなくたって。たとえば……」

なんて即物的でロマンがない言い方だろうかと、呆れるより先に、不自然に唇を閉ざしてオパールが机から身を起こした。オパールは見た目だけじゃなく立ち居振る舞いも綺麗だ。背筋を伸ばすだけで雰囲気が変わる。気だるそうな雰囲気が瞬時に凛と張ったものになった。髪よりも強くて透明感のある金色に見える榛色の瞳が真っすぐに私を見つめた。

「私は」

彼女の唇から言葉が一つ一つこぼれ落ちていく。

「あんたが」

顔に熱がどんどんと集まっていくような気がした。

「好きよ」

ドキリと心臓が大きく跳ねる。まるで魔法にかかったみたい。同い年の、友達の、女の子からの言葉にこんなに動揺するなんて。恋に落ちたみたいに。違う違う。私はノーマルだ。オパールのことは好きだけどそれは普通に友達としてであり。

「やっぱりさ、こんな風に言った方が伝わると思うのよね。伝わりやすい分衝撃もあるみたいだしさ。今みたいに」

言い終わって私の反応に気付き、オパールがニターっと嫌な笑みを浮かべた。

「なになに、ドキッとしちゃった?や〜だ、かっわいい〜」

「オパール!!」

からかうような彼女の言葉に動揺していた私は図星を指されて声を荒げた。ドキッとしたのは本当だから否定できない。それもこれも彼女の女でさえ見惚れるような容姿と真面目に勉強しない性格が悪いのだ。そもそもどうして私が彼女と二人っきりでいると思っているのか。

「真面目に勉強しないなら私帰る!!」

「あー、ちょ、待ってよ。ごめん!ふざけて悪かった。そんなに怒らないで」

怒りに任せて乱暴に立ち上がろうとすれば彼女の手が慌てて私を掴む。情けなくへの字になる口元、うかがうような上目遣い。あー、もうかわいいなぁ。無言で見降ろせばうるんでいく目元に負けたのは私の意思が弱いからではない。相手が美少女だからである。オパールだからである。オパールにこんなことをされて、折れない輩がいるだろうか。少なくとも私の意思はぽっきりと折られた。

「……少しは真面目に勉強の続きをすること。早くしないと今度こそ帰っちゃうから」

ドカッと、立った時と同様に音を立てて座ればオパールが手を離しながら顔を明るくさせた。先ほどの憂い顔はどこへやら、変わり身の早さを仕方がないなと思いつつ見つめれば、彼女はいたずらっぽい笑顔をその唇に浮かべた。んふ、と色っぽくもかわいらしく笑う。

「これだから、あんたが好きよ。だーい好き」

調子のいい言葉だけど、怒る気にもなれず、私はただ微笑んだ。







唇から魔法



(私もオパールが大好きよ、なんて言ったら騒ぎだすだろうから勉強終わるまでは言わないでおこうっと)

原作終了後、詩の勉強中なオパールとその親友な学校の子。百合っぽく見えなくもないけど、健全だと私は言い張る。



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