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(短編・黒の下の続編)
曇り。
すんすんと空気の匂いを嗅ぐと湿気を含んだ匂いがして雨を教えてくる。

(雨が降るなら今日の修行は中止だな)

手元にあった紙を素早く折ると、短く呪を唱える。
見る間に小さな鳥になったそれは、本物と同じようにプルプルと尻尾を振り、指をピョンピョンと跳ねた。
簡易の式神だが連絡くらいには使える。

「弟子に今日の修行は中止、自室で術の勉強をするようにと伝えてくれ」

了解を伝えるように羽を2・3羽ばたかせると少し開いた窓から器用に飛び立った。

「これでよし…」

そう呟いて座りなおし作業を続けようとしたその時、寒くも無いのに背中にゾクリと寒気がした。

(嫌な予感。)

感性の強い妖しの予感、自分の物なら8割方当たる。
そして10割に近い可能性で弟子の事である。
弟子はすこしそそっかしく、よく妙な失敗をして私を驚かせるのだ。
だが、まさかと悪い考えを振り払うように軽く頭を振る。

「ピュリーー!!!」

放った式神が慌てた様子で帰ってきた。
頭を抱えたくなった私を誰が責められようか…。



雨。
まるで僕の心を表しているかのような天気。

「どうしよう〜」

どうしようもない。
自主練習をしようと術式の書を見ながら練習をしていただけなのにどうしてこうなってしまったのだろう…。
何回見ても自分の使った術式は間違っていないし、必要とされる薬剤もきちんと揃っていた。
何が悪いのかすら、さっぱり分からなかった。
鼻にツンとした痛みが走り、自分が泣きそうになっているのが分かる。
掌に力を込めて涙を堪える。

(このままだったらどうしよう…)

もしこのままだったら仲間の天狗から追い出されてしまうかもしれない。
それに師匠だって…、僕の事を嫌ってしまうかもしれない。
それ以前に、僕だって気付いてくれないかもしれない。
その場面を想像したら堪えていた涙が一気に溢れてきた。

「ふ、ふぇ……、ししょー…」

「なんだ、呼んだか?」

思わずビックリして振り返ると、全身をビショビショに濡らした師匠が玄関にいた。

状況が分からずに目を白黒させていると、「少し離れていろ」と言われ反射的に離れる。
黒くて美しい翼が玄関一杯に広がり、勢いよく閉じる。
水滴が師匠の周りで漂っているのが見え、翼についた水を吹き飛ばしたのだと分かる。
片手で漂っている水滴を集め外に投げ捨てる。
今までぷかぷかと浮いていた筈のそれは師匠の手を離れた瞬間、ただの水になってビシャリと落ちた。

「お前、『それ』どうしたんだ?」

師匠が僕を指差す。
突然師匠が来たのですっかり忘れていた。

「あ、あの…あの…」

どうしよう、師匠に嫌われる。
先刻の比ではない絶望に襲われて、涙がボロボロと零れる。
ただでさえ半端なのにその上、『翼の無くなった』僕なんて…!!!

――絶望で目の前が真っ暗になる。

「透過の術使えるようになったのか?」

「え?」



「ほらこれだ、透過の術」

師匠の綺麗な指が書の上を滑る。
先ほど見ていた頁ではあるのだが、混乱してしまう。

「え、え、え?だって師匠この頁『光源の術』だって言いませんでした?」

「光源の術は次だ」

ペラリとめくると見覚えのある頁が姿を現す。

(ま、間違えたー!!!)

術の内容を間違えていたならともかく見るべき頁を間違えるなんて、なんて情けない。

「題字が難しい字だから読めなかったんだな」

師匠の手が優しく僕の頭を撫でる。
その声は意外なほど嬉しそうだった。

「師匠、あの、怒らないんですか?」

師匠は凄く不思議そうな顔をした。

「なぜ?」

「だってこんな不注意な失敗をしたから…」

一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに嬉しそう微笑んだ。
スイッと優雅な仕草で師匠の指が書を指差す。

「見てみなさい、この文。
 『この術は扱いが難しく透過が成功するには強い妖力と薬剤の選定が必要不可欠である』
 とあるんだ」

「???」

「全身は無理だったようだが、翼を消す事に成功したんだよ」

師匠の顔を見る。
僕が、難しい術を成功させた?!
声には出していないのに、僕の考えが分かったらしい師匠がコクリと頷く。

「や、やったー!!!」

思わず師匠の胸に飛び込む。
優しく抱きしめて撫でてくれる師匠の手が凄く嬉しい。
しばらくそうしていて貰いたかったのだが、師匠の言葉で現実に引き戻される。

「ところで解術は使えるのか?」

「え゛?」

外はすっかり晴れていい天気になっていたが、僕があの空を飛べるのはもう少し後になりそうだ。



Y様からのリクエストで黒の下の続編になります。
師匠がとっても胃痛キャラで書いていて楽しいお話です。
リクエストもらえるなんてキリ番という切欠に感謝です!
本館や手書きブログまでチェックして頂いてありがとうございます!人外バンザイ!!

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