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◆短編
ジェネレーションギャップ
小さな町の小さな交番、それが俺の勤め先。
派手な事件や凶悪な犯罪とは無縁で、地域の人との交流が深いここの平和を守るのが俺の仕事だ。
町のパトロールをしたり、おばちゃん達の愚痴を聞いたり、迷子の猫を探したり、1人暮らしのお年寄りの家を回ったりして日々は過ぎていく。
のんびりとしているけど、大事な日常を守る事に俺はやりがいを感じていた。

だからそれも平和な日常の1ページで終わるはずだったのだけれど。

「拾った」

ぶっきらぼうに突き出された小さな手の、少しつり目の気の強そうな小学生。
口をキュッと結び、緊張した面持ちで差し出されたそれは10円玉。

大人なら拾うことを面倒くさがったり、あるいは悪気無く財布にしまってしまうその小額の硬貨が、小さな少年の手の中で光り、まるで宝石のように見えた。

良い事をするのが恥ずかしい年頃だろう、拾ったとしても無視することも出来た筈だ。
少年の前に跪くように座り、柔らかい髪の毛をそっと撫でた。

「ありがとう」

ビクンと身体を揺らしビックリしたように目を見開いた少年に、にこりと笑いかける。
傍の机に置いてあった来客用の飴玉を2・3粒掴み、彼の小さな手の平にころりと乗せた。

「よく出来ましたのご褒美」

照れているのか少年は頬を赤く染めて目をキョロキョロと動かし、そしてコクンと頷いた。

これが俺、笹乃正惟と彼、日高宗司との出会いだった。



そして月日は流れ、10年後。
当時25歳だった俺も35歳になり、町の人からも信頼してもらえる立場になった。
もう新人とは言えず、一層気を引き締めていかなければいけない。

「……よしっ」

「なにがいいの?」

「宗司。また来たのか、お前」

「ひでぇの。ほら、落し物」

ぶっきらぼうに俺の手の平に落とされたのは、小さなブローチ。
少しだけ汚れてはいるものの高価な感じのするそれはきっと誰かの落し物で、それを探しているだろう。

「ありがとう、それじゃあ書類に記入してくれ」

「あいあいー」

「はい、だろ」

来客用の飴玉を口に放り込みながら、慣れた仕草で宗司は書類を書き始めた。

初めて出会った時懐かれたのか、宗司はよく交番に遊びに来るようになっていた。
友達が少ない訳でも無いようなのだが、警察という職業に憧れでもあるのだろうか?
そういえばよく落し物を拾って交番に届けてくれた。
正義感も強いし、警官に向いているのかもしれない。

「宗司、お前警官になりたいのか?」

「は? あ、なに俺と一緒にいたい?」

「冗談じゃなくて」

「俺も冗談じゃないんだけど」

「お前昔から正義感強いもんな、向いてると思うけど」

よくここに遊びに来ていたから、町の人達にもよくこまごまとした事を頼まれてたりする。
嫌な顔をしつつも、断らない。
もし本当に警官になりたいのなら、推薦したいくらいだ。

「向いてない。俺は良い奴じゃないもん」

「そんな事無いだろう。いつも皆に親切じゃないか」

「そりゃいい所見せようとしてるだけだし」

「そうか? 理由はあっても人に親切にするのは良いことだと思うぞ」

小さな子供の頃と同じように頭を撫でる。
身長も俺より大きくなって体格も良いけれど、ふわふわと柔らかい髪の毛は昔のままだ。

「……そうやって俺の事、いい人にするの止めてくんない?」

「ん?」

宗司の頭を撫でていた手を掴まれ、強い力で引き寄せられる。
いつの間にこんなに強くなっていたのだろう?

「怒ったのか?」

「呆れてんの」

呆れるような事を言ってしまっただろうか?
確かに俺の希望で将来を押し付けるような事を言ってしまった、それで気分を害したのかもしれない。
だがそれなら嫌だと言っていたし……。

「いい加減気付かない?」

「何にだ?」

困惑する俺の身体を引っ張り、宗司の顔が近づいていく。
まだまだ子供だと思っていたけど、しっかりと大人の顔になっている。
でも、近い。

ほのかに、苺の味。

……味?

「……? …………!!!???」

「本当に鈍い」

「な、なぁあああっ?!」

いま、いま、キスした?!
え、事故? わざと?
そんな嫌がらせする位嫌われてたのか?!

「落し物だなんだって、わざわざ交番まで来てるの何の為だと思ってんだよ」

「落し物は交番に届ける物だろう!」

「わざわざ探してまで持ってこねぇよ!」

「わざわざ、探して?」

「……俺はもう、こんな飴玉のご褒美じゃ満足しねぇからな」

再び重なった唇から香る甘い匂いと、強い言葉で脅すように言うくせに真っ赤に染まった宗司の顔。
混乱する頭でわかるのは、俺に宗司を突き飛ばす事は出来ないらしい事だけだった。



ツイッターでH様からネタを頂きました。
ありがとうございます。

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