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◆短編
獣人ペット1
獣人という生命をご存知だろうか?
ファンタジーを好まれる方ならその言葉にピンと来るかもしれない。

読んで字のごとく獣と人と中間のような生物で、獣であり人である。
そしてまたそのどちらでもない。

もともと獣人はこの世に存在していた訳ではなく、人の手により人工的に作られた為『人造雑種』とも呼ばれる。
異常気象や遺伝子汚染で希少種となった動物達が保護されるようになった為、動物の遺伝子に人の遺伝子を掛け合わせ、食料の安定供給を図るために作られた。

食料の安定供給を謳っているが人の因子の入った生命の肉を食べる事は禁忌とされているし、法律でも禁止されている。
そもそもそんな恐ろしい事をするものはいないだろう。


性格は極めて温厚で従順、意思の疎通も出来る為飼育も楽で寿命も長い。
その種族は家畜である動物が主で、鳥類や牛や馬、羊やヤギに馬などさまざまだ。

金持ちの間ではペットとして買う者も多くいる。
肉用にしか出来そうもない豚や乗馬には向かない馬の獣人がいるものペットとしての需要があるからだろう。

そして私もペットを手に入れた友人を羨ましく思い、牧場にペットを飼いにきた1人であった。



「これはこれはハーディ様、ご連絡を頂いてから従業員も皆待ちわびておりました!」

「そんなにかしこまらないでくれ、1人の見学者として扱って貰えれば問題ないのだから」

鍔つきの帽子を取って深々と頭を下げた髪の薄い牧場主に軽く挨拶をすると牧場を案内してもらう。
購入がほぼ決まっているからか、牧場主の声も心なしか弾んで聞こえた。

それもそうだろう、獣人は高価だ。
良い者になれば家が簡単に買えてしまう値段がするし、買うには場所も必要とする。

住み慣れない環境でストレスを与えれば病気にもなるし、病気になれば飼い主としての適正がないとペットを奪われる事もあると聞いた。
もちろん私は可愛がるつもりだし、生活に不自由させるつもりもない。

「えっとハーディ様、確か牛をお求めでしたね」

「ああ。我が家ではすでに鶏の獣人がいるから今回は牛をと思ってね。鶏はどちらかといえば家畜の意味合いが強いけれど、牛はペットとして可愛がりたいんだ」

「そうでございますか、いろいろな種類がおりますからお時間の許す限りご覧くださいませね」

ニコニコと笑いながら牧場主は饒舌に語る。
彼の育てた牛は仲間内でも評判がよく、特に素直でかわいらしいと絶賛されていた。

「お前は小型の動物よりも大型の、そう牛なんかが向いてると思うよ」

兎の獣人の耳裏をなでながら笑う友人の言葉を思い出す。
兎の獣人もその指の感触に気持ちよさそうに目を細めて、もっとして欲しいと甘えるように指にすりついていた。

自分に牛が向いている理由はわからないが、確かにミルクも絞れる牛ならば楽しみは多いだろう。
年甲斐もなくトクントクンと胸が高鳴る、とても楽しみだ。

***

「こちらがピュア牛になります。値は張りますが直接種を仕込まれた事がない初物ですよ」

「種?」

「ええ、牛といえばミルクを出すでしょう? 牛がミルクを出す為には人間の精液を直腸から吸収させる事が必須なんですが、ピュア牛は純潔を守るために小さなカプセルに精液を入れたものを尻から刺してミルクを絞るんです」

「ふむ、ではピュア牛以外の牛は尻が貫通済みという訳か」

「男性器を模したモノを使う事が主で実際の性器を使う事は稀ですが、ペットの処女性にこだわる方は多いですからね。ただピュア牛に使うカプセルは少々高価な上、一度に体内に入れられる精液量も少ないので何度も使用しなくてはいけないんです」

「ピュア牛は少々値が張るという訳だな」

「はい、大変申し訳ないです」

「かまわない」

申し訳なさそうに眉を下げた牧場主に、にこりと笑って安心させてやる。
大事に育てられたペットだからこそ高価なら、彼らの努力に金を惜しむつもりはない。

「ここの牛たちは皆幼い印象だが、若いのか?」

「ええ、若い種を好まれる方が多いですし、なによりもミルクの出がいいですからね」

「ふぅむ」

あごに手を当てピュア牛達を眺める。
牛の耳と尻尾を生やした彼らは皆可愛らしい顔立ちをしており、若く健康そうだ。
獣人らしく裸なので動くたびにペニスがプルプルと揺れている。

柵ごしに隣の牛と楽しそうにおしゃべりをする彼らは、私の方を見てなにやらヒソヒソと話していた。
おそらく誰が買われるかや私に対する印象を話しているのだろう。
同年代の人間とあまり変わらない好奇心旺盛な様子は好感が持てた。

「いい子がいましたか?」

「ん? いや、今の所は特にはないな。皆素晴らしい牛だと思うし、可愛いとは思うんだが」

「ははっ、そうですね。こういうのは飼ってみて始めて個性が出てくるってもんですから。では別の小屋も回って見ますか?」

「ああ、頼む」

いまだ何かを話して楽しそうな年若い牛に見送られ、私はピュア牛の小屋をあとにした。

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あきゅろす。
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