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◆短編
動悸の理由
一目惚れってあるじゃない? 1度会っただけでその人の事を好きになっちゃうアレ。
その人と会うとドキドキしちゃって、足とかかっこ悪く震えちゃったりしてさ。思い出すだけで動悸が止まんないの。
これって恋じゃない?

「どう思います? 基さん!」

「……拒絶反応してんじゃねぇの?」

スパーと気持ち良さそうに煙草の煙を吐き出した基さんは、めんどくさい事この上ないと言わんがばかりの態度で冷たい。
当事者なのに、酷い。でも好き。

「基さん、好きです!」

「俺は普通」

「やった、評価上がってる!」

大きくガッツポーズ。

「それでいいのか、お前……」

基さんが指をスイッと伸ばし俺の額に触れた。
その途端、全身から汗が噴き出し意識が遠くなる。
意識が白濁して、上手く立っていられない。

「……拒絶反応だって言ってんのに」

吐き捨てるように言った基さんの声を聞きながら、俺は意識を失った。



「馬鹿の相手は疲れる」

聞く相手のいない独り言を呟いて、ため息を吐いた。
意識を失ったこいつを放っておくわけにいかず、手で呪を結ぶと空に浮かせたまま運ぶ。

布団の上に転がして、服の首元を緩める。
いきなり意識を失ったものの、体調に異変はないらしく規則正しく動く胸元で正常な呼吸が確認できた。

「基さ……す、き」

コイツ馬鹿だ。


コイツ本当に馬鹿だ。

「お前、取り憑かれてるんだよ? わかってる?」

これだから半端に霊感のある奴は嫌いなんだ。
成仏させてくれない癖に、こっちに気付いてしまう。
知らないフリをすればいいのに、生者と上手く区別も付かないから寄って来るし。

「自分の中の防衛反応が近づくなっていってんのに、馬鹿みたいに懐きやがって……」

触れたい。
でも触れられない。
触れたら壊れてしまう。
壊したくない。


壊したい。

「死んでまで理性働かせなきゃならんとは思わなかったな、俺」

胸ポケットから煙草を取り出し咥える。
火をつける必要もないし、なくなることもない煙草。
自分がこの世にいてはいけない存在だとはわかっている。
だけど、

「ま、あと80年もすりゃコイツも死ぬだろ」

それまで成仏する気はない。


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