◆短編
フルーツ吸血鬼
背中に背負った不安になる程の軽さを軽く揺すって起床を促す。
感じる温かさに馴染んだら負けな気がする今日この頃。
「起きろ」
「んん〜……」
耳元で小さな呻き声が聞こえ、背中でモゾモゾと気配がする。
ムニムニと背中に身体を押し付けるような感覚はもう1度寝に入ろうとしている証拠だ。
「起きろッつってんだろ」
グッと背を反らして背中に背負った荷物を振り落とすと、それはふわりと俺の背中から降りて着地する。
俺を見上げる顔は気だるげで欠伸をしたせいだろうか目元が涙で潤んでいた。
鈍くさい奴だが運動神経が悪いわけではないのが不思議だ。
もっと不思議なのは運動神経が悪いわけでもないのに何も無い所で思い切り転んだりする所なのだけれども。
「眠いー……、俺に早起き辛いよー……」
「だから夜間高校に行けっつったのに、普通の高校に通うって聞かなかったのははお前だろ!」
「だってー……」
整った顔立ちをクシャリと歪めて俯くと世間一般では物憂げと評価される表情になるが、幼馴染みである俺にとってはただ単に自分の我を通そうとしている顔にしか見えない。
わがままなのだ、コイツは。
「大体蝙蝠のお前が昼に行動しようとするのがそもそも無理だ」
「こ、蝙蝠じゃない、吸血鬼!」
この世界ではそれほど人外の生物は珍しくはなく、数多くの種が存在している。
世間に認知されるようになるとどこに居たのか一気に増えたらしく、最近では混血児も増えたと聞いた。
その内純粋な人間はレアと言われるようになるのかもしれない。
その中でも吸血鬼は人気のある人外だが、夜のイメージが強い彼らはやっぱり夜行性で、昼の活動はとても苦手だ。
別に日光に当たっても灰になったりはしないけれど、基本は寝て過ごすものらしい。
「果物しか食えない癖に」
「う゛。……だって血、怖い」
決まり悪そうに視線を反らすと、モゴモゴと口を動かし言葉を濁す。
『吸血』鬼という名前の癖に血を吸えないのは詐欺だろう。
「折角世間では吸血鬼のための献血機構まで出来てるのに、活用できないとか勿体無いよな」
「そんな事言ったって、お前だって嫌いな食べ物あるだろ」
「あるけどさ、お前のそれは水を飲めないレベルじゃないか。血液が1番栄養の効率がいいんだろ?」
「それは、そうなんだけど……。口に含んだ時に舌をくすぐる滑らかな感触と鼻をくすぐる甘い香りが苦手なんだよ」
「……それは苦手なのか?」
聞いた感じではまるでそれがいかに素晴らしいかを評しているようにしか聞こえないのだが。
「苦手。飲んだ事無いけどアルコール類みたいな物なんだって、香りを嗅いでいい匂いだなって思うけど飲めるかどうかは別らしいよ?」
「あー、体質的にあわねぇ感じ?」
「そうそう」
コクコクと頷きながら俺の横を小走りで着いてくる。
物凄く身長が低い訳でもないが大柄で筋肉質な俺の隣に居ると、その細さも相まってとても小さく見えてしまう。
昼に活動する事で無理もしているのだろう、多少痩せた気がする。
「フルーツ蝙蝠に生まれたら良かったのにな」
「何、悪口? 虐め?」
「そうじゃねぇよ。もっと小さければポケットに入れて運べたじゃん?」
それなら光も遮れるし、俺も背負わなくていいしで邪魔にならない。
問題はフルーツ蝙蝠に幼馴染みという関係が成立するかどうかだが。
「もし仮にフルーツ蝙蝠だったとしてもポケットには入れるなよ、普通につぶれるわ」
「そうか?」
「そうだよ! それにそんな大きさじゃなくても今だって俺が起きれない時には背負って学校通ってくれるじゃん」
「ま、お前軽いからな」
「じゃああんまり太らないようにするわ」
「いや、自分で歩けよ……」
神妙な面持ちで的外れな事を言う。
人間と人外の違いというよりはコイツの感性のおかしさなのだろうが、いつまで経ってもなれない。
でもいつまで経っても面白いのでこの関係は悪くなかった。
「あ」
「どうした?」
通学途中にあるコンビニの壁に張り付いて、何かをジッと眺めていた幼馴染みがクルリと振り返り興奮気味に喚く。
「これ! これ食べたい!」
「これって、アイス?」
「そう期間限定選べるフルーツ10種類!」
「んなもん朝っぱらから食べたら腹壊すぞ」
「壊さないよ、買ってくるー」
幼馴染みは止める隙さえ与えず、軽い足取りでコンビニに入っていった。
こんな時ばかりフットワークが軽い。
(まあフルーツ好きだからな)
好物だからなのかフルーツを使った菓子類が発売されると、いつもホクホクの笑顔で買ってくる。
俺には甘ったるく感じるだけのお菓子も、アイツにとってはご馳走なのだろう。
美味しそうに食べている顔は見ていてこちらも嬉しくなる程だ。
「ただいま、買ってきた!」
「お帰り、さっさと学校行くぞ」
「うい」
アイス部分を満面の笑みで口に含み、モゴモゴと口を動かして味わう。
口の端に付いたクリームをペロリと舐め取って、この世で一番幸せそうに笑んだ。
が、
「ん……?」
「どした?」
「んんんんんっ!」
口にアイスを含んだまま涙目になって俺の胸元を軽く握った拳で叩き、何かを必死で訴えようとしている。
飲み込めばいいのに何を……、
「もしかして飲み込めないのか」
コクコクと首を上下に激しく振った。
おそらく嫌いで飲み込めない物が含まれていたのだろう、苦手な食べ物が多いくせに確認せずに食べるからこんな事になる。
「ほら、口開けろ」
「ふほ?」
「いいから、ほら」
「んん……ッ!」
口を開けさせると顎を掴んで掬い上げ、素早く唇を重ねて口内を探った。
キィンと冷えた口内は予想していたよりもずっとサッパリとした甘さで、割と好きな味だ。
「ん、ん……、はぁ…」
「ん、ごっそさん」
口移しで貰ったアイスをコクリと嚥下すると、爽やかなフルーツの匂いがふわりと漂う。
2人とも同じ匂いがしているのかと思うと、それはそれで悪くない。
「うぇえええ、なんか変な野菜の味がしたー!」
「よく見ろ、ヘルシー野菜入りってかいてあるじゃねぇか」
「騙された!」
「仕掛けても無い罠に勝手にかかっただけだろうが」
わぁわぁと喧しいコイツが高貴なイメージの吸血鬼とどうしても重ならない。
昼の光の下にいるからだろうか?
昔から一緒に居て距離が近いせいだろうか?
「あれ、……今、キスした?」
それともコイツが鈍感でアホのせいだろうか?
ツイッターのお題から
ガチムチ×魔物(吸血等任意)をR15で書きます!
場所(イベント)は通学路
小道具はアイスクリーム
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