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◆短編
そらまめさん1
朝の柔らかな光がカーテン越しに柔らかく頬を照らす。
まだ起きるには早い時間に目が覚めた俺は、傍らで眠る小さな生き物の気配に薄く笑みを浮かべた。

「すぅ……、くぅ……」

微妙に上下する身体から小さな寝息が零れ、小さな手に握られたシーツを咥えてムニムニと口が動くのは微笑ましい。
緑色の肌を手の平で優しく撫でると流動体の身体は小さく波打った。

この小さな生き物はスライムで、名前はそらまめ。
仮の名前のつもりだったのだが、本人(本スライム?)が気に入ってしまったのでそのままそらまめで確定されてしまった。

もっと可愛らしい名前がいいんじゃないかとも思ったが、そらまめが気に入ったのだからしょうがない。
それに「そらまめ」と呼んで短い足でちたちたと俺の下にやってくるのはとても可愛い。

それはそれは、とても、可愛い。

「むに、……ぃ」

いまだ眠りの中に居るそらまめは時折むにゃむにゃと寝言をいいながら、丸い身体をさらに丸くした。
ほんの少しの悪戯心で身体にかかっていた毛布をずらすと肌寒くなったのが嫌だったのか、シーツの上でモゾモゾと動き俺の身体にピトリと身を寄せる。

「ふ、にゅー」

人肌で温まったからかそらまめの口から零れる安堵の息が肌にかかった。

「……っ」

肌を嬲る息の感触に腰がズクンと重いモノが圧し掛かったように痺れ、情けなくも愚息がピクリと反応してしまう。
性を覚えたての10代の若者でもあるまいし、こんなに些細な刺激で勃起してしまう自分が情けない。

そらまめを起こさないように深呼吸をして自身を静めると、ゆっくりとベッドから身体を起こした。
俺が起きた所為で出来た角度によってコロリと転がりそうになるそらまめの身体を掬いあげるようにして持ち上げると、ムニムニと表情を動かしてそらまめも覚醒していく。

「おはよう、そらまめ」

「う……?」

「まだ眠いならここで寝ているか?」

小さな手を指で下から掬い上げてプニプニの感触を楽しんでいると、そらまめは緩慢に首を左右に振った。

「おき、る……、ぅ」

カクンカクンと頭を上下に揺らし船を漕ぐそらまめは、どうやらまだ眠いらしい。
昨日も夜の10時にはぐっすり眠っていたのだが、そらまめには睡眠時間が足りていないのだろうか?

(後でスライムの生態について調べさせるか)

まだ幼い雰囲気を残すそらまめは子供で、もしかしたらもっと多くの睡眠を必要としているのかもしれない。
それにそらまめを俺に売ってくた商人は、そらまめの事を亜種や変異種と例えていた。
普通のスライムとは全く違う可能性すらある。

「ぷすー……」

俺の腕の中で再び気持ち良さそうに寝息を立て始めたそらまめの身体を優しく撫でると、柔らかな身体はプルンと揺れた。



着替えを済ましそらまめを腕に抱えて食堂に向かうと、俺が起きる時間に合わせて作られた食事がふわりと良い匂いをさせている。
扉の前で待機していたドアマンがうやうやしく頭を下げながら扉を開け、食堂に1歩踏み込むとそこにいたすべての使用人が一斉に俺に向かって頭を下げた。

俺にとってそれらは当たり前の光景で特に感慨ものない。
呼吸をすることや瞬きをするのと同じ、生活の一部に過ぎないものだ。

「おはようございます、セドリック様」

「おはよう」

俺が座る椅子をスッと引いてくれたのは古株の執事で、祖父の代から家に勤めているらしい。
その息子や娘も家や親戚の家で働いていると聞いた事があり、幼い頃父に聞いたら「家族のようなものだ」と笑った。

主人と使用人という立場の違いはあれど理解者である彼の事は慕っている。

彼は心が広い。
なにせそらまめの事まで驚きもせず受け入れてしまったのだから。

「そらまめ様はまだお休みで?」

「ああ、だが起きると言っていたのでつれてきた。起きた時1人では可哀相だろう?」

「そうでございますね。ですがそのままでは食事が出来ませんでしょうから、そらまめ様のベッドを用意致します」

「頼む」

流れるような動作で頭を下げた老執事は、傍に居たメイドに指で小さく指示を飛ばした。
彼の指示で一斉に動き出す人の動きは統制の取れた演舞のような、天才的な指揮者に導かれるオーケストラのような美しさがある。

椅子に座り人の流れをぼんやりと眺めながら、そらまめの足を指でプニプニとつまむ。
プルンとした身体は柔らかいだけではなく弾力もあり、指でフニフニと揉むのはとても心地がいい。

身体を触られると気持ちがいいのかそらまめはフニュリと表情を緩めた。
何故かその平和な筈の表情にドキリと心が跳ね、身体が硬直する。

気を抜いたら大分情けない事態になりそうだ。

(欲求不満か、俺は?)

自慢では無いが俺はもてる。
金はあるし、何よりも顔がいい。

だが俺の顔の良さは自分の功績ではないのも良くわかっている。
金があればそれによってくる相手がいて、その中から顔のいい配偶者を選び子供が生まれるという流れを長い間繰り返した先祖の結果なのは重々承知だ。

現に父も母も世間では絶世の美男、美女と言われているし、その結果生まれた俺も人並み以上にはいい顔をしているのだろう。
生まれ持ったものは当然すぎてあまり興味が無い。

親戚中同じような美形ばかりなのでたまに個性的な顔の奴が産まれると、親戚中のアイドルになったりする。
違うというのはそれだけで注目を浴びるという判りやすい事象だ。

(誰でもいいから適当に相手を探して……)

食事前だというのに性処理の事に思考をめぐらせる。
このままそらまめに性欲を感じるよりは健全な気がした。

が、

(そらまめを夜に1人にする……?)

俺を探して泣いたら?
1人で寂しくて寝られなかったら?
探している内に屋敷で迷子になったら?

そんな考えが頭を過ぎり、すべての考えが白紙に戻る。

「今日も屋敷に居る」

「はい?」

「……ぷー」

俺の言葉に不思議そうに首を捻る執事と、気持ち良さそうなそらまめの寝息がシンクロした。


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あきゅろす。
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