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◆短編
ビターピロートーク※微エロ
「また来る?」

ベッドの上。
あられもない姿で横たわり、緩く開いた脚の間からトロリと精液を垂らした男が俺に向かって妖艶な笑顔を向けた。

「……そのうち」

短くそっけない答えを返す。
誰が聞いても次など無いだろうと予想するだろう気の無い返事。

「そう、……良かった!」

それなのに男は弾んだ声音で嬉しそうに言うと、しなやかな身体をクッと動かして起き上がった。

視界の端でゆらりと揺れたのは男の尻尾。
機嫌がいいのかゆらゆらと一定のリズムで揺れて、時折ピクンピクンと跳ねた。

男は俗に言う悪魔で、魔法使いである俺にすら見当が付かないほど強い。
出会いは良く覚えていないが、多分偶然。

偶然運命が交差して、偶然欲望が合致して、必然的に一緒に居る。
そんなあやふやな関係。

「俺は君の事を気に入ってるんだ、居なくならないみたいで安心したよ」

悪魔が俺に向き返りにやりと嫌な顔で嗤う。
嘲笑を含んだ笑みは嫌悪感すら感じるのに、その容姿は寒気がする程美しい。
魔性とは良く言ったものだ。

「性交をする度に俺から少しづつ魔力を貰って魔法使いとしての質を上げようとする君。 ほんの欠片、そう、俺にとっては取るに足らない魔力の欠片をありがたがっているなんて凄く滑稽! ふふ、面白い……」

「うるさい、お前が桁違いすぎるだけだ。一緒にするな」

「一緒になんてしてないよ? 君ぐらい下等な虫けらと俺が一緒なわけないじゃない」

「……じゃあ何で下等な虫けらにわざわざ抱かれてるんだ?」

「君が嫌がるからさぁ! あはははっ!」

嫌がっているのも承知でわざわざ抱かれているのか、性格の悪い。
いや、悪魔だから仕方の無い事だ。
弱点を抉る、実に悪魔らしい行為じゃないか。

「たかだか町1つを壊滅させる程度の魔法でへばるなんて脆弱だよね、魔力もだけどもっと体力つけないと死んじゃうんじゃない?」

絶句。

町1つを壊滅させる『程度』と来たものだ。
俺にとっては魔力の枯渇で死ぬ可能性のある大魔法だったのだが、悪魔にとってはこの程度ものの数ではないらしい。

埋め難い能力の差に歯噛みしながら、どうしようもない感情のままに悪魔に悪態をついた。

「死んだ所でお前には何一つ不利益が無いだろう」

完全な八つ当たり。
悪魔と居ると俺はどんどん醜くなる。
精神が黒く染まっていく。

それが実際に自分の中にあった闇だとわかっていながら悪魔の所為にしてしまう程、精神が黒く染まっていく。

棘のある俺の言葉に悪魔は尻尾をしなやかに動かしながら、声を張り上げた。

「あるよ! やだやだ、死なれたら困るからわざわざ回収して回復までさせてあげたのに!」

「なんだ、肉でも食うのか?」

「誰が人間のクソ不味い肉なんか食べるかよ! 俺はね、君の中の黒い感情が好きなの、大好き、愛してると言ってもいい」

「はあ、どうも?」

「……わかっていないのに適当な返事を返すな」

薄い頬をプクリと膨らませて悪魔が不機嫌そうに俺を睨んだ。
その瞳は金色とオレンジの中間でゆらゆらと揺らぐ。
人とは全く違う一定ではない瞳の色彩に、思考もフラフラと揺れる。

「人間は皆そんなに頭が悪いの? こんな簡単な事もわからないなんて」

「感情なんて形の無いものを言われてもわからないだけだ」

「ああ、そうか。視覚や触覚といった五感に頼らないとわからないんだね、本当使えない」

イラッとして何か言おうとするけれど、結局何もいう事が出来ずに終わった。
何を言っても無駄なのもあるが、なによりも何と言って反論しても結局自分が無能なのは変わらないからだ。

(力が、魔力が欲しい)

悪魔を抱くようになったのもそれがきっかけだった。
本当は抱かれた方が効率よく魔力の供給が出来るのだが、数度試してみたものの男なのに抱かれるという異常さが恥かしくてどうしても耐えられない。

悪魔はセックスが上手いから蕩けるように気持ちいいのだが、どうしても組み敷かれ身体を蹂躙される感触はなれる事が無かった。
しかしそれを面白がった悪魔が時折俺を押さえつけて無理やり抱いたりするのだけれども。

「ねえ」

「……は?」

ぼんやりと考えていた俺の顔を悪魔がジッと覗きこむ。
いつの間にこんな至近距離まで近づかれていたのか、全く気付かなかった。

悪魔は長い爪で飾られた指を俺の胸にツゥと這わせ、心臓の上をクルクルと動かす。
ほんの少し指先に力を入れたら心臓を貫かれて死ぬだろう急所の上で指は軽快に踊った。

「何がしたいんだ?」

「見えないんだろう? 見えるようにしてやるよ」

えっ、と思う間もなく悪魔の指が俺の胸から離れ、その指に摘まれた何かが黒い緒を引いて離れていく。
濃く黒に近い紫色のそれは新円で、磨かれた宝石のようにも、水流に揉まれて角の消えた石のようにも見える。

「綺麗だろう?」

「黒い」

「ああ、だがそれだけじゃない。薄く紫がかかって中には激しく拡散する細かな光が宿っている」

悪魔に言われて目を細めてそれを見るが、俺の視界に入る黒い宝石には光など全く見えない。
薄く紫がかっているのさえ辛うじて見える程度だ。

「光? そんなのは見えないが……」

「そうかもしれない。とても弱く儚い光だ、人間には見えないかもね」

悪魔はそれをいとおしげに手の平でコロコロと転がし、指の腹で優しく撫でた。

「これが俺が愛する君の黒い感情」

「本当に黒いんだな、感情」

「視覚化するとどうしてもこういう判りやすい色になる。だけど判るだろう?」

「何が?」

「こんな暗い感情の中にすら、弾ける可能性が幾つも眠っている」

悪魔はまたにやりと嗤った。
相変わらずその顔は寒気がする程美しい。

だが、


「君が様々な事柄を諦め、その可能性消えていく様は実に愛おしく、ゾクゾクするほどの快楽を俺にくれる。……たまんない」


同時に酷く禍々しい。

「……悪魔め」

「はぁい?」

苦々しく吐き捨てた俺の言葉に、悪魔はいっそ清々しいほど綺麗な顔で笑い、手を振った。


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あきゅろす。
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