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◆短編
金と権力の間違った使い方
「寄るな、変態!」

「はうんっ!」

近づいてこようとする変態の脛を思い切り蹴ると、変態は奇妙な悲鳴を上げた。
変態は無駄に綺麗な顔を歪ませて涙目でこちらを見るけれど、俺は男だからコイツの面になんか興味はないし、泣いたって心はチクリとも痛まない。

「ひ、酷い、僕たち夫婦なのに……」

変態の言葉にピクリと俺の眉が動く。
そう、コイツの言うとおり、なぜか俺達は夫婦な訳で。

勿論の如くコイツも俺も男だ。
そして俺にコイツと結婚する意志は、

まったく
ちっとも
欠片ほども
一ミクロンも

ない!

「あのさぁ、なんで法律の壁越えちゃった訳?」

「えっ、金の力?」

「賄賂!」

「……世の中大概の事は金でなんとかなるモノだよ」

「自慢げに言うな」

誇らしげに指で金のマークを作り微笑む変態は無駄に良い笑顔で俺に笑いかけるが、腹立たしい事この上ない。
もげろ。

この変態は容姿端麗の上、いらん行動力の持ち主で自称俺のストーカー。
本人が何の仕事をしているのかは知らないが、金に不自由をしない立場の大金持ち。
ああ、神様って本当不公平。

以前コイツが困っている時に俺が助けたのが初対面らしいのだが、俺には全く覚えが無い。
詳しく説明されてもわからない位日常的な事だったからというのもあるのだが、野郎の顔なんざそうそう覚えちゃいないというのが1番の理由だろう。

「というか、俺、家に帰りたいんだけど帰っていい?」

そう、ここはコイツの家。

見るからに高そうな家具に、見たことも無いような細かな細工の食器、テレビは目が逆に疲れてしまいそうなくらいの大型。
高級品が並ぶ室内で量販店で買った安物の服を着る俺だけが異彩を放つ。
ぶっちゃけ部屋の豪華さに圧倒的大差で負けてる。

何故変態の家なんていう怪しい場所にいるかといえば、寝ている間に勝手につれて来られたという犯罪すれすれ……、いや直球で犯罪か。

「えっ、ここが僕たち2人の愛の巣じゃな……、ヘブッ」

鼻っ面に向かって裏拳を食らわすと、また奇妙な悲鳴を上げて仰け反る変態。
そのお綺麗な顔に拳をめり込ませなかっただけ感謝して欲しい。

よくよく考えれば普通に誘拐だから、これ。

「大体俺は部屋で寝てた筈なのに、一体どうやってここまで連れて来たんだ」

「普通に部屋に入って連れて来たよ?」

「はぁ?! どうやって普通に入れるんだよ。鍵かかってただろ!」

「えっ、だって合鍵持ってるし」

「いつの間に勝手に部屋の合鍵作ってやがった?! それ犯罪だから!」

「愛の力です」

「な ん で 誇らしげなんだよ?!」

バッと腕を左右に広げ、うっとりと自分に酔った表情で目を細めた変態にため息が出る。
つかため息しか出ねぇ、話してるだけで気力と体力がゴッソリ持っていかれるんだけど。

「そもそもなんで俺なんだよ! お前ぐらい顔が良けりゃ相手なんて幾らでも居るだろ!」

「それ」

「は?」

綺麗な指でピッと差され、ギクリと身を竦ませる。
それが唐突な仕草だった所為もあるが、なによりも真剣な表情は俺の内面まで見透かしそうなほど澄んでいた。

が、

「その冷たいが態度たまんない! ああ、勿論それだけじゃないんだけど、等身大の僕をちゃんと見た上で全力で嫌う態度が本当にツボ、好き、愛してるっ!」

「きもい!」

真剣な雰囲気はあっという間にかき消され、いきなりクライマックスまで上がった変態のテンションに思わず掌底打ちで応対してしまう。
ゴッと鈍い音を立てて見事に決まった掌底は割と本気で痛そうなのだが、2・3度顎を摩っただけで変態は復帰した。

だけどやはりやせ我慢なのか目が赤い、涙目だ。

「ハグゥッ、……ふ、ふふ、照れ屋な所も可愛いよ」

「可愛かねぇよ、目が腐ってんじゃねぇの?」

「だって僕の目には他の何よりも綺麗で可愛く見えるし、なにより顔よりその素敵な性格を好きになったんだもの」

「……ドMか」

「それもある」

「あんのか」

ガックリと肩を落として深いため息を吐く。

「あのさ、俺はお前の事そういう意味で好きじゃないし、全っ然理解も出来ないんだけど。むしろ考え方はわからなさ過ぎて宇宙人かってレベル」

「うん、いいんじゃない?」

「……へっ?」

酷い言葉に諦めるかと思いきや、返って来た返事は意外すぎる返事で、俺は思わず素っ頓狂な声を上げた。
会話の流れから聞いていない訳でもないだろうに、この返事は一体どういう事だ?

呆然とその顔を観察するが嘘をついている様子はなく、俺の視線を感じるとコイツはにこりと笑った。
それはそう、とても綺麗な表情の笑み。

「別に君からの理解は求めてないし、僕が勝手に君の事が好きなだけだから」

「………………、じゃあなんで戸籍弄って婚姻届だしてんだよ」

「そりゃあ他の奴に盗られる前に先手を打たないと! 行動力には自信がありますっ!」

「矛盾してんだよ、馬鹿!」

額に向かって思い切りチョップを落とす。
たかがチョップと侮るなかれ、本気でやると悶絶出来るぐらいに痛い。

はずなのだが……

「ヒギィッ! ……あん、でも気持ちいい」

「順応し始めた、怖いっ!」

腕に凄い勢いで鳥肌が立つ。
額を押さえながらも嬉しそうに身体をくねらせる美形はとても怖い、顔が良い分なんか妙に怖い。

「怖くないよ! ピュアだよ! 純愛だよ!」

「ピュアに謝れ! せめてそのハアハアと荒い息を抑えてから言え、このストーカー!」

「えっ、そうですけど?」

「開き直るなぁあああああああああ!!!」


広い室内に俺の怒号が虚しく響く。
目の前にはむやみやたらに綺麗な戸籍上は俺の夫のストーカー。

あれ、俺の人生詰んでない?




モデルのSさん掲載許可ありがとうございました。


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あきゅろす。
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