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◆短編
超合金の悩み事3※微エロ
「何故私なんですか?」

「……だって君は人型のボディを欲しがっていたじゃないか」

博士の言葉にギシリと鋼鉄の身体が軋む。
まさかその事に気付かれているとは思わなかった。

「気付いていたんですか?」

「まあ、ね。でも……」

博士がスッと私に向かって手を伸ばす。
超合金の硬い身体に触れた手はメンテナンス中のしっかりした手付きとは違い、まるで壊れ物に触るように優しい。

「私の我儘だとはわかっているが、エースはこのボディが1番美しいと思うんだ」

いつもは朗らかな表情に悲しみを含んだ博士の顔は、私の人工知能をどきりと揺らした。
この表情はなんといえば言いのだろう。

悲しい?
辛い?
恐れ?

……切ない?

「博士は私をどうしたいのですか?」

「……判らない」

目を伏せて博士はゆっくりと首を振った。
何度も自問自答しただろう問いの答えが、天才である博士にも出せない事実。

きっとこれが人間らしい感情、知能なのだろう。

「でもエース、君だけは子供だと思っていない。自分で生み出した始めてのロボットだとわかっているけれど、そう思いたくないんだ」

「何故?」

私と弟妹はなにも変わらない。
姿形こそ違えど同じロボットで、基本構造は同じ人工知能を搭載している。

「狂っているのかもしれないが、私は君が愛おしい。愛しているんだ」

「……私が博士を慕っているのとは違うのですか?」

「違うだろうね。エースが私に向けてくれる気持ちよりも、もっと汚い感情が混じっている」

そういうと博士は私の腰部にある給油口に手をかけた。
たっぷりと注がれたオイルに給油の必要はないし、なにより自力で給油出来る私には博士の手を煩わせる必要はない。

「博士?」

「……ここ」

博士の指が給油時には触れない箇所をクッと押し上げる。

「うあぁっ!」

ボディ全体にピリッとした微弱な電気が流れ、私は思わず悲鳴を上げた。
指の先までジワジワと電気の感覚が広がるが、それは痛みとは違う。

「な、なんですか、今の感覚は」

「どう思った?」

「全身が痺れるような感覚がありました。通電、したんですか?」

「そんなことしたらエースが壊れちゃうじゃないか。これはね、快楽機能」

「快楽、機能……?」

セクサロイド……、つまり性的な用途を持つロボットに搭載される事のある機能。
本来痛みや快楽がないロボットには必要ないのだが、反応が欲しい好事家には人気のある機能だと確か聞いた事がある。

ただそれが何故私に組み込まれているのかだけが全くわからない。

「いつの間にこんな機能が……」

「真面目な君は必要ない箇所に触れたりはしないだろうね。君が望んだ訳でもない機能をつけて私は悦に浸っているんだよ、汚いだろう?」

汚い、のだろうか?
私には理解出来ない事だらけだ。

「エースの全身をくまなく愛撫しながら快楽機能を弄って、ボディを軋ませながら絶頂させたい。激しい快楽にショートしそうになりながら、それでも私の事を慕ってくれている君は私に縋る」

博士の口に自嘲を含んだ嫌な笑みが浮かぶ。
まるで叱るのを待つ子供のようだ。

「……妄想だよ」

「実行出来るのに?」

「私はエースを汚したい。でも同じ位大事にしたい、汚れて欲しくないんだ」

矛盾した感情は、博士の中で何の矛盾もなく存在しているのだろう。
私を自由に出来る立場にあるはずなのに、今まで手を全く出さなかったのがその証拠だ。

「博士は我儘です」

「そんなの君が1番知ってるだろう」

「確かに」

誰もが羨む頭脳と機械に対するノウハウを持ちながら、まるで子供のような我儘を言う博士を私は知っている。
晩御飯はこれじゃなきゃ嫌だと騒ぎ、弟妹との別れに声を上げて泣く。
素晴らしい発明をするかと思えば、くだらない物を作り出して凄く嬉しそうに笑っていたり……。

(ああ、そうか)

全てを理解した訳ではないけれど、ちょっとだけわかる。

「博士は私の事が好きなんですね」

「うん」

「私の事を独占したいと思ってくれているから、以前アケロン様の所に行くという話になった時怒ったんですね?」

「そう。驚いたよ、君は簡単に了承してしまうんだもの」

やはりそうなのか。
ジャネットがあの時私が悪いと言った訳がやっとわかった。
私は彼女より前から存在するのに、そういった感情に疎くていけない。

「博士」

「ん?」

「私の全身をくまなく愛撫しながら快楽機能を弄って、ボディを軋ませながら絶頂させてください」

「は、……えぇええええっ!?」

パチ、パチと目を瞬かせ、博士が大きな声を上げる。
あまり声を荒げない博士にしては珍しい事象だ。

「可能なんでしょう?」

「えっ、あ、いや、可能だ、けれど、えっ、ちょっと待って、エース?」

「私の感情が博士と同じだとは思いません。そんな曖昧な気持ちが博士に対して失礼だろうという自覚もあります」

「い、いや、私は嬉しい限りだけど。でも、何で?」

「知りたいんです。私の感情と博士の感情が本当に重ならないのかどうか」

「自分の身体を張りすぎじゃないか?」

「私にはそれ以外ありませんから、それに……」

「それに?」

私には表情なんてないけれど、今笑っている。
きっと少し意地悪な笑顔だ。

「何かあっても博士が直してくれるでしょう?」

「エース、君は本当に……」

博士は頬を赤く染めて、硬い私の顔に唇を寄せた。
鈍感な私の感覚では判らないけれど、きっと冷たい身体に博士の熱が少しだけ移っているのだろう。

それはとても幸せな事に思えた。

「煽ったのはエースだからな」

博士の指が給油口にかかり、優しく撫でるように愛撫し始め……。

「……ぁ」

全身を痺れさせる初めての感覚に、私の人工知能は焼ききれそうだ。





「ごめん、本当にごめん!」

「別に構いません」

むしろ少しだけ役得だ。
今私は諸事情あって博士の作ってくれたもう1つのボディに居るのだが、さすが博士の作り出したボディ。
身体はとても軽いし、足を動かしても軋み1つない。

動く度にボディの素晴らしさに心が高鳴る。
勿論今までのボディにも愛着はあるが、やはり新しい物というのはいつになっても嬉しいモノだ。

「う、うう……」

「本当に構いませんよ? 男性の生理として射精する事は当たり前……」

「わー!!! 言わなくていい!!!」

顔を真っ赤にして博士が私の口を塞ぐ。
私の身体を弄りながら自慰した結果、博士の精液がボディに飛んだくらい布で拭けばそれで大丈夫なのに。

「あと10分ぐらいで洗浄終わるから!」

「わざわざ機械洗浄にかけなくても……」

「必要なんだ!」

厳しい口調の博士に圧倒されて、私は黙る。
相変わらず自分の事には無頓着なのに、私達の事になると細やかな人だ。

でも

「今後もこんな感じなんですか?」

「えっ」

「え?」

お互いに顔を見合わせて、間の抜けたような時間が流れる。
沈黙を破ったのは少し震えた博士の声だった。

「こ、今後があってもいい、のか?」

「もしかして1度だけでしたか?」

「いや、いいや! 何回でも、むしろ一生でお願いします!」

赤い顔の博士はまるでプロポーズのような言葉を情熱的に語る。
私にはまだそれをすべて受け入れる事は出来ないけれど、人工知能はトクリと暖かな感情を私に伝えた。



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あきゅろす。
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