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◆短編
旦那と弟君の話2
結局彼に合うサイズの服は無かった為、上は俺の上着を無理やり着て、下は新しいパンツとバスタオルを巻いただけという奇妙な格好になってしまった。
高い身長と派手な顔立ちにミスマッチ過ぎる格好に、笑いを噛み殺すのに必死だ。

「お前気持ち悪くないの?」

「え、何が?」

お客さん用のカップで出した温かいコーヒーを飲みながら、彼はポツリと呟いた。
確かにその微妙な格好は笑ってしまいそうになるけれど、別段気持ち悪くはない。

「いきなりでかくなってるのになんにも思わないのかよ」

「そういえば大きくなったね。……ふやけた?」

「俺はカップラーメンか」

「じゃあ成長期!」

「こんなに短時間で成長してたまるか!」

「ヒントヒント!」

「クイズじゃねぇから!」

ヒントを求めてテーブル越しに身体を乗り出した俺の頭にチョップをして制する。
軽くコツンとぶつかった手は、凄く優しく額に当たり全然痛くない。

「明らかに人外だろうが」

「へぇ……、初めて見た」

居るらしいとは聞いた事があるけれど、実際に見るのは初めてだ。

外見だけなら俺とあんまり変わらない。
もしかして色が白いのはそのせいなのかな?

「俺もお前みたいな変な反応をする奴は始めてだよ」

「えへへ〜」

「褒めてねぇから。お前人外の事を何も知らないのか?」

怪訝そうな瞳で彼は僕を見た。

「人外の悪い噂は俺も聞いた事があるよ? 人に害を成すとか、闇に潜んで悪さをするとか、そばに居るだけで損をするとか」

「わかってるなら……」

「でも実際に知らないのに悪い噂を鵜呑みにして、出会いを無駄にしちゃうなんて悲しいもの」

よく知らない人の事を悪いと決め付けるなんておかしい。
分かり合う機会を永遠に無くてしまう。

それならば俺は自分の目で見て、肌で感じた事を信じたい。

「……本当に危機管理がなってねぇ」

「そんな事ないよー」

「あるだろ」

「ないよ。だって君優しいもの」

「あ゛?」

ニコリと笑った俺を彼が睨みつける。
口元は歪に歪んで折角の綺麗な顔立ちなのに、悪い人のようだ。

「俺の危機意識が低いと思ったから忠告してくれたり、自分から距離を取ろうとしてくれる。それにさっきのチョップも全然痛くなかったから」

彼の行動は優しい。
まだ出会って間もない俺を心配してくれている。

「……変な奴」

フイッと顔を背けると、彼は口をへの字に曲げた。
眉間に皺の寄った表情は不機嫌そうだけど、その頬は少しだけ赤みが差している。
意外と照れ屋なのかもしれない。

「大きさが変わる君に言われると複雑だなぁ。ねえねえ、他には何か出来る?」

「時間によって姿が変わるのと、後は力が馬鹿強いだけ。何の役にもたたない、むしろ邪魔」

「時間? なんかシンデレラみたいだね」

シンデレラにしてはちょっと、……いや、かなりごついけど。

「ガラスの靴持って探してくれんの、王子様?」

軽い口調で俺に尋ねた彼に質問で返す。

「探して欲しいの?」

「……さあね」

短く言葉を紡いだ彼は、少し、ほんの少しだけ彼が寂しそうに見えた。
これ以上答える気はないらしい彼に、もう1つ気になった事を尋ねる。

「力はどの位強い? リンゴを手で絞れる位?」

「説明し辛いな。おい、あの缶潰していいか」

「いいけど」

彼は使い終わって洗っておいたホールトマトの缶をヒョイと掴むと、紙の箱を潰すみたいに片手でそれを握り潰した。
バキバキと破壊される音が次第に止み、次に開かれた彼の手から転がり落ちたのは原型を止めていない金属の塊。
きつく圧縮された所為なのか円に近い形になったそれはテーブルの上でコロコロと転がる。

「凄い……!」

「使い道が無い」

「凄いよー、これなら空き缶潰すのに凄く楽じゃない!」

丸くなった空き缶をつつきながら俺が言うと、彼はふうとため息を吐いた。
呆れたような、感心したような声音に悪意は感じられない。

「お前にかかると何でも平和利用されそうだな」

「平和なのが1番だよ〜」

誰も皆幸せな方がいい。
知らない誰かだって幸せな方が安心する。

「髪の毛乾いたぞ」

「え?」

彼が指先で毛先を弾くとふわりふわりと触り心地の良さそうな髪の毛が、まるで誘っているみたいに揺れた。

「結ぶんだろ?」

覚えていてくれたんだ。
やっぱり彼は優しい。

「……うん!」

彼の髪の毛は俺が思っていたよりも硬くて、思っていた以上に触り心地が良かった。

でもツインテールにしたら怒られちゃった。
何でだろう?


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