◆短編
秘密の部長さん2※R18
「……は?」
ありえない言葉に聞き返す。
色々あった所為で耳がおかしくなったのだろうか?
「あ、いや、ブラジャーとか、胸とか」
「な、何故?」
「えー……と、後学の為?」
えへへと笑う男に、自分の口がヒクリと歪に曲がったのがわかる。
小学生でもないんだからそんなのは自力で何とかしろと……、ああそうか、自力で何とか出来ないのか。
「童貞」
「い、いいじゃないですか、放っておいて下さいよ!」
「風俗にでも行け、何なら金出してやるから」
「別にそういうんじゃ無くて、なん、か……」
ググッと近づいてきた部下の顔に後ずさる。
男らしい顔立ちだけど意外に睫毛が長いとかどうでもいい情報を知ってしまった。
そんな事を考えている私の腕をグッと掴み、部下は身体を近づけてくる。
近い、近い近い。
「お、おいっ?!」
「部長、なんかエロイ」
部下は器用に服の裾から手を差し入れ、ブラジャーの隙間からするりと指を滑り込ませた。
「っ!」
「うわ…、本当に胸がある。スゲー柔らかい」
「やめ……っ、あぁ…っ!」
指がブラジャーの中で蠢き乳首を掠めると、ゾクリと腰に響くような快楽が湧き上がる。
入浴時以外では触れる機会のないそこは敏感で、少し触られただけでも身体がビクンと跳ねた。
男の指で感じてしまう自分の身体に眩暈を感じながらもこれ以上触られまいと必死で抵抗するが、年齢的なものか体格的なものか、押し戻そうとした部下の身体はピクリとも動かない。
焦る私を知ってか知らずか、部下はシャツ越しに背中に撫でた。
「あれ、どこだろう?」
「なぁっ?! も、もう止めろ」
「だって、ほら、1度はやりたいじゃないですか、抱きしめたままブラジャー外すとか」
「彼女作ればいいだろう! お前ぐらい顔が良かったら直ぐに彼女くらい出来るだろ……、ひっ」
締め付けられた胸部が緩む感覚がして布地が肌を滑り、
ホックが外された所為でスルスルとブラジャーが緩んでいく。
「あ、外れた。ここなんだ」
「ひっ、やめ……っ!」
ホックを外せたことに満足したのか、胸全体を確認するように指で弄られる。
指がクニュリと蠢き、大きくはない胸をふにふにと揉みあげた。
「……ぃっ、…うぁあ」
私の反応に気を良くしたのか次第に触り方が大胆になっていく。
外的刺激で勃ちあがった乳首を親指で転がしながら爪で刺激し、柔らかい触り方で乳輪をなぞる。
性器に対する刺激とは違うもどかしい刺激を、私は確かに快楽として感じていた。
だけどこんなの受け入れられるはずが無い。
「や、……めろっ!!!」
腕を振りって傍らに居た部下の身体を振り払う。
小刻みに震える身体を引きずるようにして壁に身体を寄せると、半分ほどまで脱げかけていたYシャツをかき寄せた。
「冗談でも、やっていい事と悪い事があるだろう」
同性の胸を触る事にどれ程の罪があるかなんて知らないが、間違いなく上司と部下でするような事ではない。
太っていた頃に腹をつつかれた事よりもっと屈辱的な事をこの年齢になってまで受けるとは思わなかった。
「……部長」
「私も忘れるから、お前も忘れろ」
家に帰ったら辞表を書こうと固く決意しつつ、重い身体を起こそうと身体に力を入れた。
パシャッ!―――
「え?」
聞き覚えのある音に反射的に視線を向ける。
無表情でこちらに携帯を向ける部下に血の気が一気に下がった。
「しゃ、しん、……お、まえ……」
キィンと耳が嫌な音を立てて、足がガクガクと震える。
可笑しくもないのに、何故か口が笑みの形で固定された。
脅されて人生も、プライドも、なにもかもめちゃくちゃにされるのだろうと頭を過ぎる。
ただ1度の失敗が、こんなにも自分を大きく変えるなんて笑う以外に何が出来るのだろうか。
だけど部下は携帯と私を交互に見て、困惑したような表情を浮かべた。
妙に頭が冷えている私よりもよっぽど混乱した顔に、私の方が心配になるくらいだ。
「俺、部長、……あ、の」
切れ切れの言葉、泳ぐ目線。
過呼吸1歩手前の荒い呼吸で、部下は胸元を抑えた。
「何が望みだ?」
私の言葉に部下はビクンと大きく身体を震わせ、うつろな視線で私をジッと見つめる。
「また、触れ、たいで、す」
「何言ってるんだ、お前」
「俺も、わかんない、けど……、部長、いやらしくて、綺麗で、柔らかくて、気持ちよくて、わ、かんな……」
目元に涙を浮かべて何故か部下が泣き出しそうになっているのを、俺は呆然と見ていた。
秘密がばれるし、情けない姿は見られるし、部下に脅されている、泣きたいのはこっちだ。
「胸触りたいだけなら女の子の所に行け」
「違う、違くて、部長が恥かしがってるのとか、アンバランスなのが、凄く……。…上手くいえな、い」
良く見れば部下は勃起していて、私に触れる事で欲望を募らせていた事を如実に感じさせる。
自分自身を上手くコントロール出来ないのか、小刻みに身を震わせる姿はまるで何かに怯えているように見えた。
「ゲイなのか?」
ブンブンと首を振る部下は嘘をついているようには見えない。
まるで初めて見たエロ本で勃起して、病気じゃないかと慌てる中学生のようだ。
(初めての刺激に勘違いしているだけなのに)
とはいえ写真という人質を取られている私に選択肢はない。
「誰にも、言わないんだな?」
小さな声は広い部屋に妙に大きく響く。
私の声に顔を上げた部下は、泣いているような、笑っているような微妙な顔をしていた。
「……はい」
部下はゆっくりと手を伸ばすと、服越しに私の胸を手の平で優しく触れた。
温かい手の平でやわやわと揉み解される感触に身を震わせながら、ギュッと目を閉じる。
その手から言いようのない心地よさを感じてしまう自分から目をそらすように。
今日、私の秘密は2つに増えた。
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