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◆短編
二乗の事情2
普段どおりの格好に戻った2人を交互に見る。

髪の毛をツンツンと立てて、シャツの前を少し開いた洋介に、清潔感のある髪型で、ネクタイをきちんと巻いた啓介。

(見慣れてるからこっちの方が落ち着く…)

そう思いつつため息をつくと、恐る恐ると言う声で啓介が聞いてくる。

「いつから気付いてたの」

「朝から?もっと言うなら、3日前の体育の時から」

「あの時も気付いてたんか!」

洋介が感嘆の声を上げる。
だから見分けがつくって言ってるのに、信用してねーのかこいつら。

「なんで黙ってたの?」

「何かする気なのかなーと思って」

2人は今でこそ優等生だが、小さい頃は幼稚園の先生をどちらだクイズで困らせていた問題児だった。
あの時の熱が再燃したのかと思って、生暖かく見守っていたのだ。

「俺に迷惑が掛からなきゃ問題なしだし…」

「ひでえ」

そういって洋介はケラケラ笑う、さっき啓介の真似をしてた時はクスリとも笑わなかった奴だとは思えない。
姿を変えたのも、なんか理由があるのだろうか?

「昭人には僕らがわかるんだ」

自分に言い聞かせるように啓介が呟くと、洋介も真剣な表情で啓介を見て頷いた。
2人が何かを隠しているような空気に俺の方がいたたまれない。
なんか勉強どころじゃなさそうだし帰ろうかとテーブルに手をかけると、その上から啓介の手が重なる。
逆の手には洋介の手。

(なんだこりゃ)

普段とは違う緊迫した空気に顔を上げると、両頬に柔らかい何かが触れた。
それは確実に体温を持っていて、少し湿っている。
認めたくないだけだ。
2人にキスされているなんて…。
ゆっくりと唇が離れ、綺麗な顔が俺の眼前に並ぶ。
色々言いたい事はある筈なのに声が出ない、2人の顔は泣きそうだ。
泣きたいのは俺のほうだ。

「好きなんだ」

口火を切ったのは啓介。
好きって俺もお前らが好きだけど…同じ意味ではなく、「そういう意味」なのか?

「昭人が好きだ」

続いて洋介。
長い睫毛が不安そうに揺れているのが見え、普段の不遜なまでの明るさと違う。
緊張してるんだ…。

いまだに俺の手の上には2人の手が重ねられているけど、逃げられるような強さで、2人が逃げ道を作っていてくれる事がわかる。
でも俺は不思議と逃げようとは思わなかった。

「なんで…、俺?」

最大の疑問を口にする。
顔も良くない、頭も良くない、性格だってこの通り。
嫌われるならまだわかるが、好かれる理由がわからない。

「気付いたら」

「自然に?」

疑問系か。

「勘違いじゃないか?」

そういうと2人はフルフルと頭を振る。

「「好きなんだ」」

理由は無いけど、そこだけは譲れないらしい。
俺もこいつらの事は好きだ。
だがそれが恋愛感情かと言うとわからない。

「悪いけど、わかんない」

2人の表情が落胆に変わる。
他の人が見てもわからない些細な変化。
でも俺にはわかる。
俺はわからないを理由に2人を突き放す気にもなれなかったんだ。

「だからさ、考えるよ。頭悪いから時間かかるかも知れないけど」

両手に力が篭る。
少しの変化、それが俺にはわかるくらい俺たちの距離は近い。
俺はそれが嫌じゃないんだ。

「昭人ありがとう」

そういっていつもよりずっと柔らかく笑う啓介。

「一生悩んでてくれたら一生一緒だよな」

照れ隠しなのか、そう言ってからかってくる洋介。

結果がどうあれこの手がずっと繋がっていたらいいと俺は思うんだ。



「昭人わかってくれたね」

「うん、流石昭人だよね」

隣り合ったベッドで天井を見ながら双子は話す。

「何も言わないからわからないと思ってた」

「気付いてて言わないなんて人が悪いよな」

悪態を吐きつつ声は嬉しそうだ。
自分たちを双子としてではなく、完璧に別れた個人として理解してくれる。
その人が昭人であることが本当に嬉しい。

かつて1人であった自分に安心をしていたが、2人を意識したら今度は確信が欲しくなった。

自分が啓介であることに。
自分が洋介であることに。

見かけに騙されず、本質だけで見分けてほしい。
そう思った時からずっとお互いを真似する練習をしてきた。
口癖、立ち居振る舞い、僅かな動き。
親すら気付かない完璧なコピー。
それを見破れる誰か。
昭人なら良いと思ってた。
かなり分の悪い賭けであるのはわかっていたが、賭けずにいられなかった。

2人とも昭人が好きだったから。

「昭人の返事が良いといいよね」

「俺たちは運がいいし大丈夫じゃないか?」

楽観しすぎていると言われればそうかも知れない。
だが、自分達の運命を賭けたといってもいい賭けに勝った2人は負ける気がしなかった。

「明日はいい日だよな」

「今日もいい日だったよ」

2人はくすくすと笑い合う。
生まれてきてから1番幸せな日かもしれない。

「寝ようか、おやすみ」

「おやすみ」

握った昭人の手の暖かさを反芻しつつ、ゆっくりと目を閉じる。
俺達の手はあの日からずっと昭人の手と繋がっている。

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