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◆短編
慣れる生き物
校舎裏の人気の無い場所。
目の前にいるのは黄色い髪の毛のどこからどう見ても不良と言われる人種で、平凡極まりない僕には全く接点のない人のはずなのにどうしてこうなったのだろう。

そして物陰に隠れているつもりなのかもしれないが、明らかにはみ出して存在をチラチラ覗かせる赤とオレンジ髪の仲間。
怖い、なにが怖いって眉毛ない。

「おい……」

「は、はいっ!」

(ああ、どうしよう。お金ないし、喧嘩売られても勝てる気しないし、なにより怖い。特に目立った所もないし可も無く不可も無い平坦な人生を送っていただけなのに、何故絡まれているのだろ)

「お前……」

(生意気なんだよとか言って殴られて、財布を取られてしまうのかな。でも本当お小遣い前でお金ないし、外国でお金を出せって言われた時に出せないと殺されちゃうんだっけ? なんでよりにもよって今これを思い出したんだろう)

「俺と、付き合え!」

「はい! …………はい?」

「やったじゃねぇか、よかったな!」

「おめでとう!」

首を傾げる僕を置き去りに、目の前の男の仲間が駆けつけて何かを祝福し始めた。
なんか色々やばい事になった気がする。



「ヒロ、帰んぞ!」

「あ、うん」

力いっぱい開かれた教室の扉が壁にガアンとぶつかり、部屋の中に音が響く。
ビクリと身体を震わせたクラスメイトは可哀相な物を見る目で僕を見た。
見た目はどう見ても不良に絡まれる一般生徒なのだからしょうがない。

「お待たせ、つっ……筑波君」

初めの頃はビクビクしていた彼のぎろりとした鋭い眼光にも慣れた。
人間は案外図太いものなのかもしれない。

「ま、また明日な」

「うん、また明日」

仲のいいクラスメイトが詫びるように別れの挨拶をするのを、出来るだけ明るい声で返した。
彼が悪い訳でもないのにいらぬ心配をさせてしまっているのはわかっている。

だけど言うわけにはいかない。
黄色い髪の毛の不良が自分の彼氏などとは。



「ただいま! ほら、ヒロも入れよ」

玄関一杯に乱雑に置かれた靴を邪魔だといわんばかりに足でどかし、スペースを作った彼はニマリと笑んだ。
やり方は雑なのだが、彼なりの気遣いらしい。

「あ、うん、ありがとう。お邪魔します」

「お、ヒロも来たのか!」

ヒョイと奥から顔を覗かせたのは眉毛のない赤とオレンジの髪。
あの時怖いと思った彼らだ。

「っ! 来たのかじゃねぇよ、何勝手に入ってんだ!」

「い〜じゃん、ダチだろ?」

「ま、まあまあ、いいじゃない」

「だってヒロ……!」

「つっくんの友達でしょ」

「う゛……、クソ」

顔を赤くして口ごもる、筑波=つっくん。
知り合い方こそ悪かったが、今ではなんとなく恋人をしている。

「さっすがヒロ、あの喧嘩っ早い筑波を黙らせちまうんだからすげーよな」

「そんなことないよ。ちょっと気は短いけどつっくん優しいし」

「「やさしいぃいい? コイツがぁああ?」」

「お前ら!」

「きゃー、やめてぇえ」

「ゆるしてぇーん」

殴るフリをして腕を振り上げたつっくんを、2人はわざと高い声で悲鳴をあげて囃子立てる。
本当に仲がいい友達って感じだ。

「しかし初めはどうなるかと思ったけど、意外とヒロは肝据わってるよな。男ってだけで引くと思うのにその上筑波だろ?」

「なんだよ、俺になんか文句アンのか?」

不満そうに彼らを睨むつっくんは、どうみてもメンチをきってる不良にしか見えないが、実はあれが疑問に思っている顔なのだと最近気付いた。
俺より長い付き合いの彼らはそれを熟知しているらしく怯えた様子も無い。

「だってお前顔怖いじゃん。……俺も人の事言えないけど」

「あー、初めはつっくんの事怖かったかな。カツアゲかなぁって思ったし」

「カツアゲ、……それだ! あはは、言われてみればカツアゲにしか思えない!!!」

「うるせえ!」

物事の対応が苦手でつい怒鳴ってしまうし手も上げるが、本気で叩かれたり怒る事は少ない。
顔を赤くして怒鳴るつっくん、実は照れている。

初めの頃どうして向き合ったらいいかわからずに、恋人らしい事と手を繋いだ時の反応は忘れられない。
指と指が触れた瞬間ビクンと身体を跳ねさせて、コンクリート壁に激突し、その場にヘナヘナと座り込んでから真っ赤な顔で何か言おうとしているけれど言葉にならずもごもごしているつっくんは、今思いだしても可愛かったと思う。

怖いはずのつっくんが可愛いと思える程度に恋人。

「あ、やべ。俺バイトだ」

「っと、俺もばーちゃんに買い物頼まれてんだ」

「とっとと帰れ帰れ」

「ひっでぇの。また邪魔しにきてやんよ!」

「本当に帰れ!」

つっくんが傍にあった座布団を掴んで投げ、それをひらりと避けて彼らは帰る。
見慣れた光景の中、僕は手を振った。

「くそ、お邪魔虫め!」

本気でイラッとしたのか肩を上下しながら少し息を荒げているつっくんを、宥めるように軽く肩を揉む。
目がいい所為か全然こってないのがうらやましい。

「でも友達でしょ?」

「まあ、そうだけど、さ」

実際の所男同士という関係を茶化したり嫌悪したりする方がわかりやすい反応なのに、彼らはそれを気にせず応援してくれる。
まだ誰にも言えない僕にしてみたらとてもいい友達だと思う。

……顔は怖いけど。

「……でもヒロとの時間を邪魔されるのはヤダ」

「そんな事言って……」

頬に軽くキスをすると過剰なほど身体を硬くして、飛び上がるみたいにつっくんは僕から離れた。
真っ赤な顔に真一文字に引き結ばれた唇。

「2人になったら緊張しちゃうくせに」

「ば、ば、……おま、いきなり、っ!」

どもりながらも何かを言おうとしているが、意味のある言葉にはならない。
そんな所も可愛いとか言ったらきっと怒るから言わないけれど、本当に可愛い。

顔は怖いけど優しくて、平凡な僕がビックリしてしまう程純情な僕の恋人。




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あきゅろす。
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