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◆短編
二乗の事情1
小さい頃から一緒にいるのが自然で、2人でいれば悲しい事や辛い事は何も無いと思っていた。
俺の事を1番わかる相手が生まれながらに傍に居る。
それ以上の安心なんて無い、そう思ってたんだ。
そう思っていたのに…。

「一緒に遊ぼうよ」

そう言って差し出されたキミの手は暖かくて、優しくて、いつの間にかキミは僕の、僕達の中心になったんだ。

だからキミに全てを知ってほしい。
僕達を受け入れて欲しいんだ…。



「わっかんねー!」

そう言って俺は持っていたペンを放り投げた。
ペンは鈍い音を立ててベッドの上に落ちると、緩やかなカーブにそってコロコロと転がり、やがて止まった。

「昭人、ペンに当たったって問題が解けるわけじゃないだろう?」

そういって諭すような口調で話しかけてくるのは、洋介。
片手には教科書を持っていて、頭が良く見える銀縁の眼鏡をかけている。
実際頭が良いんだけれどさ。

「ちゃんと教わんねーと赤点だぞ」

その横でからかうような声を出して笑うのは啓介。
手には漫画を持ってお気楽そうにしているが、コイツも頭がいい。

「双子で頭がいいとか卑怯だろおおおお!!!」

2人から同時に攻められて、凡才の俺の脳みそは煮え返る。

洋介と啓介は双子だ。
見分けをつけるために格好を変えているが、顔をちゃんと見ればそっくりなのがわかる。
2人とも高身長で頭が良く運動も出来るという超人だし、何より美形だ。
幼馴染の俺は引き立て役として大活躍だった。

俺は十人並みの身長、運動は得意だが頭は悪い。
こいつらに勝っているのなんて、誕生日が早い事と飯を食うのが早い事くらいだ。

顔は……まあついてる。

悪いよ、どうせ悪いですよ!
ガリガリの体に、ネコだってここまで釣り目じゃないっていう位の釣り目、で不細工の部類だってわかってるよ!
父ちゃんも母ちゃんも普通なのに、兄ちゃんなんか美形なのに俺だけ凄い不細工だよ!

(あ、自虐で心が痛い…)

双子といると元々不細工な顔が一層不細工に見える。
それでもこいつらといるのは楽しいから、なんとなくずっとつるんでる。
一緒にいるのが自然な仲で、明らかに見劣りする俺にもこいつらは優しい。
テスト週間だというのに、赤点が不安な俺のために勉強を教えてくれる。
持つべき者は幼馴染というものだ。

「俺が努力して無いとでも?」

洋介の声が怒気を帯びる。
俺のほうを冷たさを含んだ目で睨む、意味がわからない。
洋介は授業で全部覚える派、啓介は復習派だ。
努力ってお前…、それだったら俺だってしてるっつーの。

「洋介は努力しないじゃん、努力するのは啓介だろ?」

「「え?」」

2人の声が重なる。
よくわからない2人の遊びに付き合う気はない。

「今日はなんなんだよ、洋介は啓介の真似して、啓介は洋介の真似して何の遊びだよ。」

そういって2人を睨もうとすると、洋介も啓介も美しい顔が台無しなあっけに取られた表情でこちらを見ていた。

「な、なんだよ」

「「どっちがどっちだか、わかるの?」」

2人の真剣な声音に思わずたじろぐが、どっちがどっちだかちゃんとわかるのでコクンと頷いた。
2人は顔を見合わせて、そして笑った。


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