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◆短編
酩酊アレグレット2
「昨日の事、覚えています?」

「俺は駄目だって言ったし、何度も警告したからな!」

涙目になりながらこちらを睨む視線に、罪悪感で身体が千切れそう。いや、うそ、ちょっと勃起しそう。

「はい、私がしつこく誘いました。覚えています」

そう、覚えている。へべれけに酔った私が、彼に対して一晩の誘いを申し込んだ。それはもう軽率に、しかししつこく誘った。

当然のように拒否され「なにを言っているんだ、コイツは」と言外に責める視線も覚えている。その失礼具合と言えば、殴り飛ばされなかったのが奇跡だっただろう。

だけど彼はとても理性的だった。

彼の種族にとって身体の繋がりを持つという事は『番い』になるという契約であり、軽率に身体を許すのはご法度という事。一度でも裏切れば愛情はそのまま憎悪へと変貌し、どちらかの死を持ってしか止まらない事。

子供に教え諭すように彼は私に説明してくれた。一つ、一つ噛み砕くように、酔っぱらいの戯言と蹴り飛ばしても良かったのに、だ。

「じゃあ一生愛し続けます」

真摯な説得を一蹴するように手を取って跪き、指先に口付けながら誓ったのは私である。その場でミンチにされても、悪いのは私になったのではないだろうか?

どうして彼がこの馬鹿に絆されてしまったのかはわからないが、こうして寝床を共にしているあたり私達は『番い』になってしまったのは疑いようもない。

「引き返すなら今のうちだ」と警告する彼の唇を奪い
「男の胸なんて触ったって楽しくないだろう」と身じろぐ彼の乳首を指の腹で撫でさすり
「初めてだから怖い」と震える身体を抱きしめた。

行為は性急で、乱暴で、独占欲の塊のようで、毛先からつま先まで全身くまなく自分のモノにしようと抱いた。零れる涙の一粒まで逃すまいと舐めた頬はしょっぱかった。

昨日の自分を思い出し、後悔に駆られる。軽率すぎる自分の行動に眩暈を覚え、眼元を覆った私の首に冷たいものが触れた。

「裏切るのなら殺す」

真直ぐに突き出された黒い爪が喉に触れる。硬く鋭い獣人の爪は人間の皮膚など容易く引きちぎれるだろう。

「後悔しています」

私を見据えていた視線に剣呑な色が混じり、尖った爪の先端が皮膚に刺さる。しかしその微かな痛みは、私の後悔の痛みには勝らなかった。

「……たった一度の初めてをあんな形で終わらせてしまった事に」

「なに?」

「だって初めてだったんでしょう? もっと時間をかけて丹念に身体を慣らす事だって出来たし、挿入の痛みがないように潤滑油の準備だって出来た! それなのに酔っぱらってタガが外れていたとはいえ、自分だけ気持ちよくなるとか最低じゃないですか!」

突き動かすような性欲に駆られ、大した準備もなく彼を抱いてしまった。早くその身体に触れたくて、奇跡のように手の平に転がり落ちた幸運を自分のモノだと確信したくて、焦っていたのは否めない。

だけど初めてなのだからもっと大事にしてあげるべきだった。彼の種にとって『番い』が特別なものならば、それに至る行為だって大事なはずなのに、そんな気すら回せず貪るような行為、人間だというのに私の方が獣のようだ。

「じゃあ、その、抱いた事に後悔はないのか?」

「え、何一つありませんが?」

酒癖はよろしくない方だが記憶を無くしたりはしないし、気持ちが高揚していつもより大胆になりはするものの、彼を誘った事自体は間違いなく私の意志だった。

一目惚れだったのだ。

振られるだろうと思っていたので、受け入れて貰えたのは嬉しい誤算だったが…。

「お、おう?」

困惑顔の彼の喉から、クゥンと不思議さをにじませた声がする。親を呼ぶ子犬の鳴き声を思わせる甘い声は、ちょっと可愛い。

「初めては上手く出来なかったかもしれませんけど、これからは必ず満足させるように頑張りますから!」

「う、ん、うん?」

私の勢いにつられるように頷いた彼は、心底不思議そうに首を傾げた。まだ夢を見ているかのように目を瞬かせる彼の指に口付けて、出来うる限り真摯に囁く。

「一生愛し続けます」

まだ名も知らぬ彼は、尻尾をボワッと膨らませ、だけどしっかりと頷いた。

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あきゅろす。
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