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◆短編
非日常は笑う(企画もの・短い)
何かと世知辛い時代。金のない僕は悪で、売れない絵本を描く僕が親から見捨てられたのも必然だったのだろう。

鞄一つにまとまってしまった少ない荷物は縋りつくには些か頼りない。ため息は夜の空気を白く染め、悪戯に絶望感を煽っていく。

何かから逃げるように自販機で買ったコーンスープを口に含むと、思いもよらぬ熱さに舌先がピリと痺れた。ああ、やっぱり夢じゃないんだ。

「なあ、アンタ。ちょっといい?」

「ひ、へ?!」

絶望に沈みこもうとしていた意識が突然呼び止められ、背後からかけられた声に弾かれるように振り向く。

底に居たのは仕立ての良いスーツを着込んだサラリーマン風の男で、その口元を笑みで彩り、細く歪められた眼は僕の事を値踏みするようにトロリと月明かりを弾いていた。

(…チェシャ猫に似てる)

悪戯を企んでいるような面白い事を思いついたような、どこか人を期待させ、同時に不安にさせるそんな表情。残念ながらお金ならありませんよ?

「一緒に世界、救ってくれない?」

「は?」

想像もしなかった言葉に思わず聞き返すが、その言葉に返事が来る事は無かった。
男の言葉が終わると同時に何もなかった筈の場所に扉が現れたからだ。

「え……」

扉は軋んだ音を立てて開くと、オーロラに似た色合いの膜を揺らめかせた。オーロラが揺れるたび細かい光が散り、純度の高い金属のような澄んだ音を立てる。

(夢…、だよな)

夢見がちな僕だがここまで荒唐無稽な夢は見た事は無い。それにさっきから舌先がジクジクと痛んで、現実を押し付けてくるんだ。

「あ、時間無いから強制参加で」

にっこりと笑った男が足の裏を僕に向けた。あ、その蹴り方、不良漫画とかで見た事ある。

「え、ちょっ!」

脇腹に受けた強い衝撃に運動の足りない僕の身体が抗う術などあるはずもない。

重力に引かれて倒れていく僕の身体と僕の後を追って扉に飛び込む男。扉は役目を終えたように僕らを閉じ込めてしまっていく。

ちょっと世の中、世知辛すぎない?





【診断メーカーより】
親に捨てられた絵本作家とさらっと人を蹴落すサラリーマンが、不可能を可能にねじ曲げようとする話

ツイッターの企画で規定数RT頂いたのでお礼SS?
参加してくださった方はありがとうございました。

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あきゅろす。
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