◆短編
踊るレジスター4
俺が神になってしまう世界に迷い込んで数か月。
慌ただしくも日々は淡々と過ぎていく。
元の場所に戻りたい気持ちが無い訳ではないのだが、どうやって帰ればいいのか検討もつかない。
それに一度周りからチヤホヤされてしまえば、この場所は凄く居心地がいい。
ま、それに胡坐をかいてちゃイカンと思うけど、ちょっとはね。
基本的な種族としては狐と人間が混ざったような生き物らしく、多くの者が黄昏のような耳と尻尾をもっている。
大まかに階級を分けるとこんな感じ。
特に能力を持たない者を『赤狐』
人間で例えるならば一般人。
一番人数が多く、この世界を支えるのは彼ら。
種族柄なのかつり目の者が多く、美男ぞろい。
しかし子供は見るものの、女性を全くと言っていい程見ないのだが、深く突っ込んで聞くと怖い答えが返ってきそうで聞けないでいたり……。
神力を持つ者は持っている能力に合わせて名前が変わる。
『青狐』は水源の管理人。
この国は水源が豊富なので水に困る事はほとんどないものの、外界から水を奪いに来る略奪者などから水を守っているらしい。
略奪者というのがどういう存在なのかはまだ聞いていないけど、狐の敵ってなんだろ?
『緑狐』は森林の番人。
外界から国を守る為に森の木々を移し替え、道を覚えさせないようにするのが役目。
どうやって木を運んでいるのかと思ったら、神力で手で運べる大きさにまで縮小し、それを植え替えて元に戻すという魔法のような事をしていた。
青狐と緑狐は一緒に行動する事が多いみたい。
植物を育てるのに水が必要だからかな?
『白狐』はお告げを聞いて、それを周囲に伝える役目を持つ神職。
本来なら俺は、この人を通じて話をする存在らしい。
でもそんなまどろっこしい事は好きじゃないし、会話するのが好きだから、伝えたい人に直接話しかけるようにしている。
と、言いつつ実はまだ会った事がない。
どうやら俺の次に偉いという事になっているらしく、そのうち挨拶しなきゃいけないのかと思うと緊張する。
そしてちょっと特殊なのが『銀狐』
銀狐はここに来た日に俺を運んでくれた狐面達の事で、彼らには狐の耳も尻尾もない。
その存在の特殊性は一言では語りきれないが、なにより目立つ特徴は神に絶対服従という事だろうか。
主な仕事は神殿の警備と清掃に手入れ、そして俺の世話係。
銀狐の能力は他の者達に比べて戦闘に特化しているらしく、昼夜を問わず身辺警護をしてくれている。
青、緑、白の狐はほぼ家柄で能力が決まるのだが、銀狐はどの階級からでも生まれる可能性があるようで、銀として生きられる事はとても光栄な事のようだ。
教えてくれた銀狐は、どこか幸福に酔ったような顔で語っていた。
……ちょっと怖かったデス。
そして問題の『黄狐』
実はコレ、俺が作った階級だったりする。
そこに属するのは今のところ『黄昏』のみ。
強い神力を持っているものの、青にも緑にも白にも銀にも合致しない能力は一部の銀狐の間で『神を害する為の力なのではないか』と心配されているようだが、その心配は杞憂だと思う。
だって……
「あの、黄昏……」
「なんでしょう、幸平様」
「なんでしょうって、この状態が何なんでしょうだよ?!」
何故なら俺は黄昏の膝の上、後ろから抱きつかれた体勢で座っている。
幼稚園や小学生ぐらいならこの体勢でも疑問に感じないのかもしれないけれど、健全なもうちょっとで成人する男子にこの体勢は辛すぎた。
「この国の仕組みを教えて欲しいと言ったのは幸平様ですよ?」
「仕組みを教えて欲しいとは言ったけど! この体勢は絶対必要ないよね? ね?!」
「俺のモチベーションが上がります」
「どうでもいい! 勉強するならさ、向かい合わせとかの方が」
「こうですか?」
スッと伸ばした腕で俺の脇腹を掴むと、黄昏は座ったまま俺の身体を持ち上げて反転させる。
ちがう、そうじゃない。
「ああ……、こちらから見る幸平様もいいなぁ」
生まれたばかりの子供を見る親馬鹿のような視線を向けられて、がっくりと肩の力が抜ける。
この世界にカメラやビデオがあったなら、間違いなく常に撮影会をされていただろう。
黄昏は半ば、俺のストーカーと化していた。
仕事では筆頭の従者として人一倍働いてくれる切れ者で、その仕事ぶりたるや文句が出た事は一度もない完璧さ。
周囲に対する指示も的確で、本来なら俺がしなければならない仕事を一任してしまっている。
しかし、ひとたび仕事が終わると凛とした態度はどこへやら、こうして俺の傍から離れない。
流石に風呂と便所はついてくるのを禁止しているが、止めなければついてきたような気がする。
おそらく神としての重圧から逃れられた事や今までの不平不満を俺が解決した事、そもそも狐達にとって神が絶対的な存在だった事などが複雑に絡み合い、結果としてストーカー化したのではないかと考えているが定かではない。
これと言って精神的に微妙なダメージが来る以上の実害はないのだが、どうせ抱きつかれるなら女の人がいい。
「机ッ! 挟んでッ! 向かい合うだろッ!」
「えっ、それはつまり……、俺に机になれと?」
「言ってねぇーッ!」
困惑の表情を浮かべながらも実行しそうな所がとても怖い。
親身になってくれるし悩んでたら相談の乗ってくれる良い奴なんだけど、どうしてこうなってしまったのやら。
「幸平様の髪の毛、スベスベ」
「ヒギャァアッ、頬擦りすんなぁああああ!」
この世界の為に頑張ろうと決めた俺だけど。
ごめん、ちょっとお家に帰りたい。
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