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◆短編
踊るレジスター2
事態を掴めず呆然とする俺を抱えて狐面達は軽快に空を走る。
確かに揺れを感じるのにその動きは心地よく、現実感を感じさせない。

まだ夢なのかもしれないなんて、甘い事を考えてみるけれど、実際自分に触れてみてこれは確かに俺で、間違いなく現実で、夢なんかじゃなくて……。

「どういう事なんだよ……」

応える人など誰も居ない小さな独り言は、心地よく肌を撫でる風に乗って消えた。





しばらくぼんやりしていると大きな建物が見えてくる。
それは学校みたいな大きさで、和風の寺とか神社とかに似ている。
詳しくはないから寺と神社の違いがよくわからないけど、そんな感じの建物の扉は狐面達が近づく勝手に開いた。

(自動ドア?)

結構ハイテク。

「神がご光臨された!」

「金色の神が我らの元にいらっしゃられたぞ!」

「道を、道を開けよ!」

狐面達が遠くまで届きそうな良く通る声を出すと、そこにいた人が一斉にこちらを向いて道を開けた。
そして皆が俺を見咎めるとパアッと表情を明るくして、うやうやしく頭を下げ始める。

えっ、もしかして俺が神とかここの人達皆で信じちゃってるの?
見た目は確かに綺麗な金髪になっちゃったけど、俺、普通のバイトなんだけど……。

「偽神をその座から引きずり下ろすのだ!」

「然り、然り!」

「に、偽神?」

「そうで御座います、 本来貴方様が居られるべき神の座に偽の神がのうのうと座り、その座を侵しているのです!」

「金色の神よ、我らに御導きを」

長い廊下を走りながらも彼らの息は全くきれず、その言動は不穏だ。
それって誰か別の人がここを支配していて、俺が邪魔になって殺されちゃうフラグとかじゃないよね?

(俺、金髪でちょっと不良風味だけど喧嘩とか超弱いんだけど!?)

こんな若い身空で死にたくないし慌てて止めようにも、狐面達に何を言っていいか全く検討もつかなかった。
神じゃないって言っても信じてくれないし、空を走っちゃう奴らに適う気がしない。

「う、わぁあああ……」

徐々に近づいてきた金銀キラキラ豪華な扉は、ラスボスとか出てきそうな雰囲気だ。
え、ちょ、ゲームオーバーでコンティニュー何回まで?!

バァンと大きな音を立てて扉が開く。
ここの扉は自動ではないらしく、狐面が手で押し開けた。
大きな音が耳にキィンと少し痛い。

「神の座に押し入るとは不届きな奴らだ」

広い部屋の真ん中で煙管を咥えて横になっていた男がのそりと立ち上がった。
髪の毛は金色よりも薄い黄色に近い色をしていて、身長は2メートル近くあるだろうか?

高さが良くわからない。
だって頭の上に耳が生えてる。

猫でも犬でもなくて、もしかして狐?

「黙れ、偽神!」

「然り!」

「偽神? 俺がか」

男は狐面達に向かってニヤリと笑い、そして俺をジッと見据えた。
その顔は嬉しそうにも悔しそうにも見えて、やっぱり少しだけ怖い。

「ああ、金色が見つかったのか」

「そうだ、我らの神はこの方だ!」

「我らを導かないばかりか苦しめた偽神よ、なんの力も持たないお前などもう恐ろしくも無い!」

「然り!」

騒ぎ立てる狐面達とは対照的に男は静かだ。
だけどその静かさの奥底に言いようのない怒りを感じて俺は身を震わせた。

(なんだろう、何で俺の身体は震えてんの?)

多少の怖さを感じているものの震えるほどではない。
男から俺に対する敵意を感じないからだ。

「……勝手に神なんてモンを押し付けておいて、ずいぶんな言い草だよなぁ」

「黙れ、お前は我らの法に則って処刑する!」

「え」

「好きにしろ」

狐面達の残酷な言い草に全く抵抗する素振りも見せず、男はその場にドカリと座りこむと、おもむろにゴロリと寝転んでフワァと大きな口をあけて欠伸をした。
死ぬかもしれないのに逃げる気はないらしい。

狐面達は頷き合うと、偽神と呼んだ男に近づいていく。

1歩、
1歩。

それは男の死が近づいていく証拠でもあり、命が消えるまでのカウントダウンでもあった。



ちょっと待って、
死ぬ?
いや、殺す?

ちょっと、待て、駄目、そんなの


「駄目だ!!!」


狐面の腕から転がるように飛び降りると、男に近づこうとしていた狐面の前に飛び出す。
男を庇うように腕を広げて狐面を睨むと、狐面は不思議そうに首をかしげた。

「何故です? 貴方の座を穢したのですよ、その男は」

「駄目……、駄目だろ。処刑とか、殺すとか……ないだろ」

「しかし我らの法です故」

男が何をしたのか知らないけど、
俺がどの位偉いのか知らないけど、

目の前に居る人が死んで、ああそうですかと納得できる程精神死んでねぇよ!


『俺が駄目だと言っている!』


ぶわり。

自分の身体の底から計り知れないエネルギーの本流が渦巻き、口から言葉となって噴出する。
自分の声とは思えないほど力の篭もった声は、不思議な響を帯びて部屋を支配した。

慌てて口を押さえるけれど声はとっくに出た後で、狐面達は床に平伏しているし、男は目を丸くしてこちらを見ているし、俺はどうしたらいいんだ。

「……まさか、本物か?」

男がジロジロと俺を見て、呆然と呟いた。
そんなの俺が聞きたいよ、馬鹿。

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あきゅろす。
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