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◆短編
ああしたい、こうしたい
ああしたい、こうしたい。
やりたい事はいろいろあるはずなのに、具体案が見当たらない。

「ああしたい、こうしたい」

いつものようにだらりとした空気の俺の部屋に、幼馴染の太一と二人。
俺はベッドの上で枕を抱きしめながら天井をうつろな視線で見つめながらポツリとつぶやいた。

「いきなり何言ってんだ、尚樹?」

ベッドに背中を預けた太一は読んでいた週刊マンガの雑誌から顔を上げて、眠そうな目をこちらに向ける。
目元に涙が浮かんでいるから欠伸でもしたのかもしれない。

「さあ?」

「投げっぱなしかよ!」

具体的に何かという訳ではないけれど、後ろから柔らかい物で引っかかれるみたいに、下からグイグイ押されるみたいに急かされる。
十代の有り余る体力がそうさせるのか、今何かをしなければいけないような気がしてならない。

「何かって明確な答えはないんだけどさぁ、何か、なんかしたいんだよ」

「……トイレで抜いてこいよ」

「ちっ、げーよッ! 下ネタじゃねえ、下品ッ!」

確かに性欲はあるし、以前より一人で抜く回数は増えたけどそうではなく。
いや、そういう事ではないと否定も出来ないのだけれども。

「じゃあ運動とか?」

「俺が運動神経悪いの知ってるだろ」

「そうだな、尚樹はありとあらゆる球技を顔面で受ける天才だからな」

そう、そうなのだ。
何故か球技に参加すると顔面にボールが当たる。

ドッジボールをはじめ、バレーボールにバスケット、テニスに卓球にサッカー。
野球の硬球がミット越しに顔面にぶつかった時は「あっ、死んだな」って思ったりもした。

……なんとか今も生きてるけど。

「わざとぶつけてねぇよな?」

「俺だけがぶつけてるんならわざとって言われてもしょうがないけど、お前別の奴が投げた球だってぶつかってるじゃん」

「だよなぁ、あれ、本当不思議」

「引力じゃね? ボール限定の」

「嬉しくねー! どうせなら金を引き寄せてくれればいいのに」

「無理だろ」

ボールが引かれてくるなら金だって大丈夫そうなのに、何故か金にはとんと縁がない。
俺達の通う学校はバイト禁止だからしょうがないといえばしょうがないのだけれども、いつか金など気にせずにゲームセンターでゲームがしたいものだ。

「んー、じゃあ勉強は? そろそろテストも近いし」

「勉強はほどほどにしてるけど」

「げっ、してんの?」

「してるよ、大学行きたいし。それに成績落ちたら母さんすげー怒るし」

頭は決して良くはないけど勉強は嫌いじゃないので、継続して予習復習はしている。
一気に覚える事が出来ない俺にとって、コツコツ積み上げていく方が楽なのだ。

「マジか、俺全然してねぇわ」

そういう太一は俺と逆で一夜漬けでもそれなりの成績が取れてしまう。
実際身につくかは怪しい所だが、一度に記憶しておける量が多いのかテストでは俺と大差なくて悔しい。

「ちゃんとしないと同じ大学行けねぇぞ?」

天井を見たまま太一の頭をポフポフ叩くと、突然太一が俺の手首をギュッと握る。
ギュッとされても痛くはないけど、腕が動かない程度に強い拘束に一瞬心臓がドキリとした。

「……、同じ大学行くって何?」

「あれ、どっか行きたい大学あったっけ、お前?」

「特にないけど尚樹が当たり前みたいに言うからさ」

「ああ、そっか。なんか今までずっと同じだったからなんかそんな気がしてた」

約束をした事はないけれど一緒に居るのが自然で、そうなんだと思い込んでいた。
太一だってやりたい事があれば別の道へ進むだろうし、俺だってそうだ。

だけど、なんかずっと一緒に居るような気がしていた。

「なあ、恋愛とかは?」

「え、何が?」

「何がって、やりたい事だよ」

「恋愛……」

ポツリとつぶやいた言葉は口の中でくぐもって消えた。
恋愛って未体験なエリア過ぎてとっかかりがない。

「恋愛、した事ないなぁ」

「じゃあそれなんじゃないか? さっき尚樹が言ってたのに似てるし」

「さっき言ってたのって『ああしたい、こうしたい』?」

ふと横に居る太一に視線を落とすと、太一はニヤリと不敵に笑いながら得意げに言う。

「そうそう。愛したい、恋したい、な?」

ああしたい、こうしたい
あいしたい、こいしたい

「マジだ! 太一、お前天才じゃね?!」

「まあな! ま、あとは相手だけだな」

「えっ」

「だってそりゃお前、一人じゃ愛も恋もないだろ?」

「う、うん、そう、だよな」

今、俺、何を思い浮かべてた?
今、俺、……誰を思い浮かべてた?

「尚樹、顔が赤いぞ?」

「な、なんでもない!」

「別にそんならいいけど」

具体的に何かをしたいという訳じゃないけれど、押し上げるように俺を急かすエネルギー。
俺の自覚していなかった何かを伝えるように激しく高鳴る心臓の音は、目を背けようとする俺を叱っているみたいに聞こえた。

ああしたい、こうしたい。
あいしたい、こいしたい。

いつもと変わらない太一なのに、白い首筋が妙に色っぽく見えてくる。
伏せた目元を彩る睫毛が長いなんて知らなかった。

俺は誰を愛したい?
俺は誰に恋したい?

(やべー、俺、変態だったのかも)


俺は
誰に

恋してる?



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あきゅろす。
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