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◆短編
隣の宇宙人
「こんにちワ、隣に引っ越してきた*****といいまス」

「わっ、宇宙人?!」

チャイムの音に導かれ扉を開いて驚いた、何せ目の前に居たのは明らかに人間とは違う肌色をした宇宙人だったのだから。

とはいえ、最近では外宇宙から地球に訪問してくる人は増えており、外国人位の割合で見るようになっていた。
しかし自分の生活圏で見たのは初めてだったので、俺は口をぽかんと開けたままその顔を見返すしか出来ずにいる。

友好的とはいえグロテスクな外見の宇宙人も多く存在するので眼前の彼が人型の宇宙人だったのは俺にとって幸運だった。
そうじゃなければ多分俺は気絶してる。

ホラーとか、苦手だし。

「あ、えっと、何さん?」

「*****デス」

チリチリと金属が鳴るような発音の名前は綺麗だとは思うけれど、俺には呼ぶことが出来ない。
申し訳ないとは思いつつも、ポリと頭を掻きながら真実を伝える。

「んー、人間には聞き取れないみたい」

「そうですカ? では『イプカタロ』でハ?」

「あ、わかるわかる。イプカタロさんね、よろしく」

「ハイ、なにかと迷惑をおかけするかもしれないデスガ、よろしくお願いしまス」

大きな身体を斜めに傾けて、イプカタロと名乗った宇宙人は俺に頭を下げる。
それはびっくりするほど綺麗な所作で日本的な挨拶をする宇宙人に面喰いながらも、面白い隣人が来た事に、俺は内心でわくわくしていた。



「響さン、一緒にご飯食べませんカ」

コンコンと玄関の扉を叩く音はなかなかにリズミカルで、テレビを見ていた俺はリモコンでテレビを消すと玄関に向かった。

サンダルをつっかけて鍵を外して数秒待つ。
こうしないと玄関に近づきすぎたイプカタロに扉がぶつかってしまうのだ。

……まあ何回かやった結果なんだけども。

「いいよ、一緒に食おう。いらっしゃい、イプ」

「お邪魔しまス」

片手に大皿、もう片手には小鍋を持ったイプは、室内に招き入れると嬉しそうに笑う。
ちなみに玄関を叩いていたのはイプの背骨の先にある尻尾状の物で、チャイムがあるのに使わなかったのはチャイムの位置まで尻尾が届かなかったからである。

イプ達の種族にとって尻尾は第三の手であり、とても器用かつ、滑らかに動く。
勿論のように物を持つ事も出来るし文字だって書ける、この前見た時はジャガイモの皮を剥いていた。

構造上服の裾を持ち上げてしまうのが悩みらしいのだが、不器用な俺からしてみればとても羨ましい。
未だにピーラーがないとまともに皮むきが出来ない。

「まだ一人飯になれないか?」

「いやー、こればっかりは慣れないですヨ。なんで地球人は一人でご飯食べて平気なんでしょうネ」

そういう文化だったのかどうしても一人で食事する事に慣れないらしく、イプは毎日俺の家にやってきては食事をしていく。
食材はイプが用意してくれるし、しかも凄く美味いしで俺にはまったく文句がない。

時々用事があって一緒に食事が出来ない時もあるけれど、そういう時にイプは無理強いをしたりしないのでとても楽に隣人付き合いが出来ている。

「別に一人だって二人だって変わんないだろ」

「変わりますヨ! その日あった出来事や興味のある話題を伝えることが出来ますシ、食事の仕方で健康状態だってわかりマス。それに絶対食事は複数でとった方が美味しいですカラ」

「そういうもんかなぁ」

一人ぐらしが長くなり誰かと食事をする事の方が珍しい俺にとって、イプのいう事はピンとこない。
美味しいモノを食べれば美味しいと思うし、出来るだけ栄養の多いものをとは思うものの、日々の食事は半ば口に食べ物を運ぶだけの作業になっていた。

だけど言われてみればイプとの食事を楽しみにしていた気がする。
日々の愚痴や面白い出来事、たわいのない笑い話にちょっと真面目な話、そういった話をしながらの食事はとても楽しい。

「響さンはもっと食べないと駄目ですヨ」

「そうかな」

「そうデス。仕事が忙しくなると食事をおろそかにするから痩せちゃってるじゃないですカ」

「ぎょわッ!」

テーブルに荷物を置いたイプは大きな手で俺の脇腹を掴み、ボディーラインを確かめるように撫で上げた。
敏感な脇腹を刺激された俺の口からは、カエルが潰れたような悲鳴があがり何とも情けない。

「ひゃはっ、ははっ、い、イプ、やめっ!」

「アバラも浮いてるシ、もっと食事に肉を増やした方がいいかナァ」

さわさわと肌を撫でる指の感触はくすぐったく、どうしようもない感覚に俺は身を捩った。

「く、くすぐったいってば、ひゃはは!」

「ア、これは失礼」

「はー……、ははっ、まだくすぐったい。俺だからいいけど、こんな事女の子にしたらダメだぞ」

「しませんヨ。スキンシップは仲良くなりたい人にするんですかラ」

「はは、嬉しいよ」

目じりにうっすらと浮かんだ涙を指で擦っていると、不意に腹がクゥと鳴った。
笑いすぎて体力をつかったのか、それとも良い匂いに刺激されたのか、とにかく今なら美味しく食事が出来そうだ。



お別れの挨拶をして響さんの部屋から出ると、心地よい温度の夜風が肌をスゥッと撫でていく。
この星の気候は穏やかで突然−200度や+300度になったりしないので過ごしやすい。

(明日はどんな料理を作ろうかなぁ)

今食べたばかりだというのに明日の事がもう楽しみで仕方がない。
元々料理を作るのは好きだったし、食べるのも大好きだった。

だけど今はそれが手段で、目的は変わってきている気がする。

(響さん喜んでくれるといいな)

彼と食べる食事が、一番美味しい。


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