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◆短編
青の風、豊穣の地2
青嵐が手に持っていた小さな包みを開くとそれはたちまち大きく膨らみ、どこにそれだけの荷物が入っていたのか不思議な程大量な品が溢れ出す。
テキパキと音がしそうな程に慣れた手つきで青嵐がそれを並べていくのを俺と蘇芳はジッと眺めていた。

小さな硝子の瓶に詰められた薬が綺麗に並ぶさまはまるで夢を見ているかのようだ。

「ほんならまずは薬からいこか?」

「頼んでおいたのは熱さましと化膿止めだったが、他に傷薬も欲しいんだ」

「ほいほい、まずは薬類は熱さましに化膿止めね。傷薬は良く効く薬草をいくつも煮込んだ特製のと薬師に頼んだ常備薬があるけどどっちにする?」

「違いは?」

「良く効く方は傷の塞がりは良いけど長く持たん。常備薬の方は効きは普通だけど保存薬が入ってる分長持ちや」

「そこまで大きな怪我もないだろうから常備薬の方がいい。使いたい時に傷んでいたではどうしようもない」

「毎度おおきに。オマケに湿布薬つけたるからな」

蘇芳が用意した籐で編まれた籠を開くと、青嵐がチャカチャカと中に薬をしまっていく。
花の赤や空の青に草々の緑、様々な色の薬はパッと見ただけではどれがどの薬だかわからないけれど、瓶の横に貼られた紙には俺には読めない文字で薬の名前が書いてあった。

青嵐がしまう前の1つを軽く持ち上げて光にかざす。
それはまるで奇跡のようにキラキラと輝いた。

「いっぱい種類があるんだな、俺も自分で薬草を採ってきて薬研ですりつぶして塗り薬を作ったりするが、気休め程度の効果しかないからな」

「当たり前やん、鬼の歴史は人なんかと比べモンにならんほど長いし、薬に関してもようさん研究されてるわ」

自分の種族に誇りがあるのか、青嵐は胸を張って自慢げに言う。
鬼の事には詳しくないけれど、そうやって自分が誇れる種であることが羨ましい。

人間は嘘を吐いて欺き同じ種族で争い、戦を起こして殺し合う、そんな人間の価値を俺にはいまいち理解出来ていない。
勿論自分は好きだし誰かに不幸になって欲しいとは思わないけれど、その種を誇れるかと聞かれればきっと悩んでしまう。

「……でもそれだけ薬に詳しいって事は怪我をする事が多いのか?」

「鬼族はみんな血の気が多くて暴力的な奴が多いからなぁ。勿論どの鬼も身内みたいなモンやから殺しあったりはまずないけど生傷は絶えん。俺なんか平和主義な方や」

「ふぅむ、俺の知り合いに鬼は蘇芳しか居ないからみんな穏やかな性格だと思っていたけど、やっぱり乱暴な鬼もいるんだな」

「穏やか、だろうか?」

「「穏やか」」

いっそ見事なほど重なった俺と青嵐の声に、蘇芳は決まり悪そうに頭をポリと掻いた。
困ったような表情にどこか嬉しさをにじませているのがわかる。

蘇芳のそういった控えめで穏やかな性格が、俺はとても好ましいと思う。
鬼のすべてがそうではないとわかった今、なおさら蘇芳の優しさが貴重な物に感じられた。

味方同士で争う事はあっても命の奪い合いになったりはしない鬼の方が、俺を含めた人間よりもずっと平和主義のように思えた。

「あと頼まれたから持ってきたけど、この小さめの着物は真白クンのモンでええのか?」

「ああ」

「え?!」

唐突に自分の名前が出て驚いてしまう。
何しろ青嵐が見せた着物は貴族が来ても十分すぎる程上質で、見るからに高価な代物だったからだ。

「そんな豪華な物貰っても困る。俺はがさつだからすぐに汚して駄目にしてしまうのに」

「だがしかし真白は今まで俺の着物の裾を詰めて着ていたし、自分にあった着物が必要だろう?」

蘇芳の大きな手が着物をつまんで広げると、俺の身体に重ねるようにしてみせる。
蘇芳の身体は大きい為か裾を詰めても腰ひもをしっかり結ばないとだらりと落ちてしまうのだが、いまあてがわれている着物は俺の身体にしっくりとあった。

「そう思ってくれるのはありがたいが……」

「ええやん、貰ってやり。誰かの為になんかしてやれるのが嬉しくてしょうがないんや、この子は」

「せ、青嵐」

蘇芳の顔が見る間に赤く染まっていく。
嘘を吐けない蘇芳は図星をさされたのが丸わかりだ。

「さっきは気づかんかったけど、真白から蘇芳の匂いがしとるっていうのは『そういう』事やろ?」

「匂い? 俺から蘇芳の匂いがするのか?」

自分の腕を鼻に近づけてスンスンと匂いを嗅ぐ。
別段嗅覚が鈍い訳ではないと思うのだが、自分から特別な匂いを感じる事は出来ない。

「自分じゃわからんやろな。もう自分の匂いになっとるから」

「ふぅん」

蘇芳の匂いと自分の匂いが同じになっている。
それは一緒に居た時間の証のように思えてなんだが嬉しい。

もしかしたら俺の匂いも蘇芳に移っているのだろうか?
それならばそれはとても幸せな事に思える。

「蘇芳」

「ん?」

「相手が人間なのには驚いたけど、お前もようやくいい人を見つけたんやな。この穴の中で一人の一生を終えてしまうんやないかと心配してたんやで?」

「俺もそのつもりだった。だが真白が偶然にもここに来て、奇跡のように俺と一緒に居てくれると言ってくれた」

「大事にしいや」

「ああ」

青嵐が腕を伸ばして蘇芳の肩を軽く叩く。
それはとても自然な動作で、彼らが親しい間がらである事を感じさせた。

(兄弟ってこんな感じだろうか?)

それにしても鬼族は男同士であっても気にしないモノなのだろうか?


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