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◆短編
SOS
SOS、SOS、誰か助けて下さい。

誰か私の声を聴いて下さい
誰か私に気づいて下さい

寂しいのです。
悲しいのです。
怖いのです。

もう一人でいるのに耐えられないのです。

SOS、SOS。
誰かこの孤独から救って下さい。


***


「なあ、邦光。俺、……宇宙人かもしれない」

「ふぅん」

いつも突拍子もない事を言い出すアホの時生が、今日もキレのいいアホを言い出し、本を読んでいた俺は顔をあげる事なく適当に返事をする。
まともに相手をしても疲れるだけなのを俺は経験でよく知っている。

「真面目に聞いてよ! てか聞いて下さい!」

「地球だって宇宙の一部なんだから、俺達はみんな宇宙人だ、な?」

「な? じゃねぇ! 宥めんな、馬鹿ぁ!」

ベッドの上で自分の身を守る様にギュッとクッションを抱きしめていた時生は、持っていたクッションを振りかざして俺に向かって投げつけた。
時生の行動パターンなど完璧に読めている俺は、無駄のない動作でそれを避け、柔らかいクッションは壁にぶつかりパサリと床に落ちる。

「俺はマジで悩んでるんだからな」

「んな事言ったって、宇宙人ってお前」

「変な夢、見るんだ」

「夢?」

コクンと頷いた時生の顔は俺が想像していたより真剣で深刻そうだった。



時生の話をまとめるとこうだ。

時生は夢の中で黒くてぶよぶよした生き物に変わっていて、その姿を見た家族や友達、そして俺は時生を嫌って居なくなってしまう。
誰も居なくなって寂しい時生は誰かと話したくて、誰かの傍に居たくてオイオイと泣いた。

泣いた事によってぶよぶよの身体からは水分が消え、次第に大きく膨らんでいた身体が小さくなる。
だけど宇宙人である時生はどれだけ小さくなっても消える事なく孤独に耐えなければならない。

暗く寂しい絶望の中、必死で手とも指とも紐ともつかない長い触手を伸ばして誰かを求める。

と、そこで毎回目が覚めるらしい。



「どう、思う?」

「夢じゃん」

「そ、そりゃそうだけど。もう何回も同じ夢を見続けてるんだ、おかしいだろ?!」

「お前がずっと気にしてるから夢に見るんじゃねぇのか? あんまり気にしすぎると身体の方が参っちまうぞ」

「そう、かな」

「お前が宇宙人かどうかより、お前が健康かどうかの方が俺には大事だし。それに今更お前が黒くてぶよぶよになったところで嫌いになんかならねぇよ」

「黒くてぶよぶよなんだぞ? すげぇ、気持ち悪い見た目の奴」

「でもお前なんだろ?」

「う、うん」

いつもなら馬鹿みたいに素直なのに今日の時生は、シーツの皺と俺を交互に見ながら口をもごもごと動かして、なにかを言い辛そうにしている。
チラチラとこちらに向けられる視線は、まるで許しを乞う子供のようだ。

「あ、あのなっ! さすがの邦光も引くかもしれないけど、あの……」

「なんだよ、今更お前の奇行じゃひかねぇよ」

「う、あのな、腹が変なんだ」

「トイレ行けよ」

「そうじゃなくて!」

俺のアドバイスを一蹴すると、時生は目を吊り上げて俺を睨み付けた。
どうやら俺のアドバイスはお気に召さなかったらしい。

「なんかいるみたいなんだ。別の生き物が住んでるみたいな……」

「何かにつかれたって事?」

「わかんないけど、子供、とかだったらどうしよう。俺が宇宙人だから子供出来てたりしたら……」

少し顔色を青くした時生は不安そうにシーツを握る。
小刻みに震えている時生の手を包み込むように握ると、一瞬びくりと大きく震えた。

本当に不安だったのだろう。
いつもは子供みたいに温かい時生の手が、軽く汗ばんで冷たい。

「……、あのさぁ時生。俺の他に身に覚えあんの?」

「え?」

俺の声に弾かれたように顔をあげる。
うっすらと目元が赤いのは気のせいではないだろう。

「俺の他にてめぇの尻穴でセックスしてますかって聞いてんの」

「するわけねぇだろ、馬鹿っ! お、お前とするのだってすげぇ勇気必要だったんだからな!」

「じゃあ腹に子供が居ても俺の子じゃん」

「……、そっか」


・・
・・・

「そっかぁ! 問題ねぇじゃん!」

「そうそう」

ああ、本当にアホの子。

人間の男の腹に子供は出来ないし、この状況には問題しかない。
普通の人間である時生にとって、これはもの凄い異常事態だ。


『普通の人間』である『時生にとって』は。


この星に不時着してから数百年、本星からは距離が離れすぎていた為か、私のSOSの声はどれだけ頑張っても届かなかった。
文明もまったく本星の技術に届いていない為、宇宙に戻る事すらままならない。

私はただひたすらに寂しかった。

初めはただ自分の場所に戻りたい、本星に帰りたいと思っていただけだったけれど時間が経つにつれ、誰でもいいから私に気づいてほしいに変わっていた。

誰からの返事もない、存在すら証明出来ない。
もしかしたら自分など居ないのではないかと狂うほど考えた。

ほんの偶然、なにかの奇跡。
1人の少年が私に気づいた。

それは恋だったのかもしれないし、強い憎しみだったのかもしれない。
ただ1つ言える事は私はその少年、時生に強い執着を持ったという事。

素直で愚かで可哀想な、愛おしい時生。
どうか事実に気づいても、私の事を捨てないで。

俺の傍に居て。

「あ、でも産まれた子供が黒いぶよぶよだったらどうしよう」

「持ちにくそうだから籠に入れてあげればいいんじゃね」

「そっか、邦光頭いいな」

そうじゃないだろ。
本当にお前ってお馬鹿。


好き。


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