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◆短編
運命の恋人1
俺の恋人は凄く頭がいい。
頭の悪い俺にはよくわからないけど、なんたら賞とかなんとか学会とかそういう奴の常連なんだって。

特許とかいう奴のお陰で一生働かなくても大丈夫な位お金もあるし、普段は趣味で実験しながら俺と一緒に暮らしてる。
しかも料理上手だし、優しいし、凄く俺に気配りしてくれる最高の恋人。

たまに作った薬の実験を手伝うけれど、いつも途中でエッチな気持ちになってしまう。
気持ち良くなっちゃうと実験は中止なのに、千紘君は心配する事ないって許してくれる。

あ、千紘っていうのは恋人の名前。
名前まで可愛くて素敵。

俺、千紘君が大好き。

「ういち、どうかしたか? ぼんやりして」

「え、ぼんやりしてた?」

ういちっていうのは俺のあだ名。
惣一だからういち。

千紘君が俺をういちって呼ぶ声は凄く優しい。
愛されてるなぁって幸せな気持ちにしてくれる。

「……なに考えてた」

「なんだろ」

俺は馬鹿だからすぐに考えてた事忘れちゃう。
いろんな事を長く覚えてられなくて、人の名前とかすぐに忘れて怒られてた。

あ、でも千紘君は怒らない。
それに千紘君の名前は絶対に忘れない自信があるもん、俺。

「許さないよ、他の何かに心を奪われるなんて」

千紘君の手が俺の両頬を包み、座っていた俺を強引に上を向かせると、ガラス玉みたいな綺麗な瞳と目があった。
その瞳に光が当たってキラキラ綺麗。

千紘君はなにか疑っているみたいだけど、俺は嘘とかつかないしつけない。
だってすぐに顔に出ちゃう。

「んー、多分千紘君の事考えてたんだけど、いつも千紘君の事考えてるから忘れちゃった」

「俺の事?」

「うん、だって俺、千紘君大好きだし」

俺の頬を押さえたままの千紘君の手に自分の手を添わせて頬に近寄せると、千紘君の手の平に頬を摺り寄せる。
綺麗な綺麗な千紘君の手はすべすべで、頬に触れる感触は心地いい。

「ういちはしょうがないな」

そう言って千紘君は微笑むと、俺の頭を撫でてくれる。
優しい手つきで嬉しい。

俺はあんまり人に優しくされてなかったから、優しくしてくれる千紘君が好き。


俺の親は頭の悪い俺の事が嫌いだった。
兄弟も学校の友達も先生も俺を馬鹿だって言った。
俺も自分が馬鹿なのを知ってたから、そういうものなんだなって思ってた。

恥ずかしいから高校ぐらい出てくれと親に頼まれて頭の悪い奴でも入れる高校に入ったけど、そこでも馬鹿にされて俺はあんまり学校に行かなくなった。

千紘君と会ったのは学校をサボったもののやる事なくて、何の気なく入った国立大学の学園祭。
お金あんまりないから出店の美味しそうな食べ物もほとんど食べられなかったけど、見てるだけでも楽しかった。

その時の千紘君は外国で大学をとっくに卒業していて博士で、その日は大学の研究発表会にゲストとして招かれていた。

俺は勉強には興味がないから研究発表なんて見に行かなかったけど、迷子になって迷い込んだ空き教室で千紘君と偶然会った。
千紘君は大勢の人がひしめき合う雰囲気が嫌いらしく、人に酔ったのか顔を青くしてしゃがみ込んでいた。

「あの、大丈夫ですか?」

「大丈夫な訳、ねぇ、……だ、っう゛」

胸元を押さえ苦しそうにしている千紘君にどうしていいのかわからず俺はただオロオロするしか出来なくて、誰かに助けを求める事すら頭に浮かばなかった。

「えっと、えっと……」

頭が悪いとこんな時困る。
どうしたらいいのかを必死で考えた。

(そういえば昔、具合の悪かった俺の背中を爺ちゃんがさすってくれたっけ?)

あれは確か咳が止まらなかった時だったと思うけど、でも凄く安心したはずだ。
小刻みに身体を震えさせる千紘君の背中を手の平でゆっくり撫でる、俺は無駄に力だけ強いから、痛くない様に、優しくやさしく。

「大丈夫だよ、大丈夫、大好きだよ」

俺の事を馬鹿にしないで優しくしてくれた爺ちゃんの言葉を思い出しながら、震える身体を労わるように撫でる。
まるで魔法の呪文のように大丈夫になるんだって俺は知ってたから、繰り返し繰り返し同じ言葉を続けた。

次第に落ち着いてきたのか冷たかった肌はほんのりと赤く染まり、身体の震えは治まったようだ。

「大丈夫?」

覗き込んだ顔は耳まで真っ赤で、あんまり大丈夫そうじゃない。
だけどその時の千紘君はなんだか子猫みたいで凄く可愛かった。

「ベッド行く?」

風邪かもしれない。
俺は馬鹿だからあんまり風邪ひかないけど、風邪ひいた時は寝るのが一番。

「それは、……そういう意味か?」

「え?」

ぎこちなく動いた千紘君の顔が俺をジッと見つめる。
薄く開いた口からハッ、ハッと荒い息が漏れた。

「そういう意味なんだよな? それだけ熱烈に人を追い詰めておいてそれ以外ないよな? それならこれから先他の奴を見たら駄目だし、俺の作る料理以外食べたら駄目だし、俺の傍から離れたらどうなるかわかってるよな? あ、生活費なんて心配しなくても特許で幾らでも稼げるし、ずっと一緒に居られるから安心していいぞ」

「ん、んん?」

「やばい、やばいやばい、コレが恋か。今まで実験以上に楽しい事なんてなかったけど、コレたまんない。髪の毛一本まで俺のモノだよな? いや、そうに決まってるし、日本に長く居るつもりはなかったから用意してなかったけど新居も探さないと、いつ引っ越してこれる? 明日、いやそんなの待つ必要ないよな、今日これから引っ越そうか」

「えっと」

「……、嫌なんて言わないよな?」

千紘君の指が俺の腕をギュッと掴む。
細い指のどこにそんな力があるのかと思う位痛い。
たぶん風邪をひいて力の調節が上手くいかなくなってるんだろうなぁ、可哀そうに。

「えー……と、ずっと一緒に居て、ご飯の用意してくれて、一緒に住んで、お金も稼いでくれる?」

千紘君のいう事は難しすぎて俺にはよくわからないけど、自分のわかる範囲で考えてみる。

えっと、物凄く親切さん?

「さすがに食材の育成・調達を俺1人でするのは無理だけど、調理は俺が全部してやる。お前が口にするモノは全部俺が管理してやる」

「なんでそんなにしてくれるの?」

「そりゃあ恋人の為だから」

恋人?!
いつの間に恋人になったんだろう。

あ、でも昔テレビで見た事がある、運命の恋人とかって見ればわかるって。
確かに具合悪そうで見てすぐ特別な感じがした。
あれって恋なんだ、知らなかった!

「そっか、じゃあ一緒に住むのは普通?」

「馬鹿、普通じゃなくて当然だろ? 恋人なんだから毎日俺が優しく起こして、おはようのキスをして、2人で向かい合って朝食を食べなきゃ。あ、でもたまには並んで食べるのもいいかもしれない」

「そうなんだ」

知らなかった、知らなかった。
知らなかったけど、恋人ってなんだか素敵。

「俺、高校生だけど大丈夫かなぁ?」

「そうなのか? ああ、心配しなくていい、俺がなんとかしてあげるからな」

心配そうに首を傾げた俺に笑いかけ、千紘君がなでなでしてくれる。
それに千紘君の満面の笑みは優しくて、俺は凄く安心していた。

「うん!」

心がどこにあるかわからないけど多分胸辺りにある。
だって今とても胸の辺りがきゅうんとして幸せだって思うから。


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