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◆短編
瞳に映る真実1
小さな獣の番外になります。



「やめっ、触るなぁッ!」

身体を這う指の感触に鳥肌が立った。
なぜ私がこんな目に合わなければならないのかと思うと涙が浮かんだ。

「すまない、だが確認だけはさせてもらう」

「い゛、あ゛っ!」

服の隙間から入り込んだ指が直接肌を嬲り、背筋がゾクゾクと嫌な感触を伝えてくる。
なまじっか気を使って触れるものだから指の感触をクリアに感じてしまうのだ。

いっそ乱暴にしてくれたら気持ちは楽なのに。

「あっ、あ゛ぁ、アアあッ!」

「……すぐに終わらせる」

(やだ、いやだ!)

ようやく弱い自分とは決別出来たと思っていたのに、周りの素晴らしい人達と自分を重ねた所で全然私は変われていない。
ただ自分を騙していただけだと今更思い知らされる。

(助けて……)



「え、私が、側近……ですか? え?」

幻獣王の側近を学園から選ぶと噂になった時、学園はにわかにどよめいた。
幻獣王といえば異形達の憧れであり雲の上の人で、その姿を遠目に見ただけでも信心深い老齢の異形など涙を零す存在だ。

だけど私は自分とは無縁の話だと興味をすぐに無くした。
勉強は好きで上位にいたけれど決して1番などではなかったし、戦闘能力は下から数えた方がいいほどに弱かったからだ。

弱いモノが幻獣王のそばに居られるはずもない。
分相応不相応というものがあるのなら、私には不相応なのだから。

なのに、なぜ?

「あの、何かの間違いではないのですか? 私は力弱く幻獣王の側にお仕え出来るほどの能力は……」

「間違いではない。君の持つ遠見の能力を幻獣王は高く評価されていてね」

「あ……」

遠見の能力。
私の身体に存在する数多の瞳はどんな遠くの状況でも見通す事が出来る。
種族的な能力ではあるのだけど、一族の中でも私は特に多くの瞳を持っていた。

普段の生活で遠くを見る必要はあまりなく、使う機会と言ったら離れて生活している家族の様子が気になった時ぐらい。
日常的に使う能力でもないので、自分の力だというのにすっかり忘れていた。

「私の力を幻獣王のお役にたてられるのですか?」

「勿論、聡明な王がおっしゃるのだから」

もし自分の力が幻獣王の力になれるのなら、こんなに光栄な事はない。
自分には無関係だと思っていたのに現金なもので、降って湧いた最上の機会に私の身体は震えた。

「来てもらえるね?」

「……、はいっ!」

返事など決まりきっていた。



「う……、」

いつの間に眠っていたのか、ゆっくりと意識が覚醒していく。
覚えのないベッドと見慣れない部屋、そして自分の置かれた状況を思い出せず、身体を少し身じろがせて辺りの様子を探った。

「気づいたか?」

「ひぃっ!」

突然覗きこまれた男の顔にぼんやりしていた意識が一気に覚める。
反射的に身体が逃げようとするものの、寝転がって居た為に逃げ場はない。

「くっ、来るなっ!」

「なにもしない」

「嘘を吐くな! 汚らしい手で散々私の身体に触れた癖に」

人など平気で嘘を吐くし、同種でも殺し合う野蛮な生き物だ。
どんなに言葉を飾ろうと信用出来る訳がない。

「危険な物が無いかの確認だけだ。警備を担当するものとして異形を確認しない訳にはいかないからな」

男は何もしないといった事を証明するように私から離れると、直ぐ傍にあった椅子に腰かける。

身なりや体つきから見るに丸腰ではあるもののかなり強い。
戦闘能力に長けた異形なら問題なく倒せる相手だが、悔しい事に私は弱く対峙すれば十中八九負けるだろう。

「……ただでは殺されない」

「物騒だな、殺さないよ」

「どうだか」

距離を取る為に身体を起こし、相手の様子を観察しながら擦るようにしてシーツの上で体勢を変える。

「……ん?」

不意に肌寒さを感じ、警戒しながらも自分の身体に視線を落とした。

「ほわっ?!」

我が目を疑う光景に思わず変な声が出てしまう。
なぜ私は裸なんだ?!

「な、なんで服、私の服は?!」

「落ち着け。ボディチェックの際に脱がせたんだ」

「だからって裸のままで居させる必要はないだろう! 辱める気か!」

「気絶してしまったから無理に服を着せられなかっただけだ。恥ずかしくない様にわざわざ毛布も提供していただろう?」

確かに毛布のお陰か寒さは感じていなかったし、今まで服を着ていない事に気づいていなかったくらいだから恥ずかしさはなかった。
だけど、だけど……!

「お、おい?! なんで泣く?!」

屈辱だ、人間にこんな姿を見せるなんて。
だけど情けないと思うのに、涙で視界が歪む。

「見たんだろう」

「は?」

「私の身体、見たんだろう?!」

「そりゃ見たが」

溜まっていた涙がポロポロとこぼれた。
よりにもよって人間に見られるなんて最悪だ!


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