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◆短編
猛禽のススメ1
ふたなり・女性化表現あり
苦手な方はご注意ください



眼下には自分の住んでいた村の傍よりも、もっと深い森が果てしなく続いている。
いままで見た事がない上空からの景色に心が早鐘を打った。

が、それはまた別の理由からかもしれない。

実は現在巨大な猛禽類と思われる飛行物体に捕えられ、滑空中。

身体を掴む猛禽の脚は少し押したぐらいではびくともせず、抵抗した所為か先ほどよりも締め付けがきつくなってしまった。
残念ながら僕には翼がないので、この高さで拘束を緩められても落下してしまうからそれは好都合なのかもしれない。

村からほど近い距離にある森でいつものように猟をしていたのだが、何かが視界を遮ったと思った瞬間にはすでに身体は宙に浮かび、足は地面から遠く離れていた。

(え、獲物かなぁ……)

猟師という仕事はそこそこの危険がある。
森に深く入れば迷う事も少なからずあるし、危険な生物もたくさん住む。

だからいつか森で命を落とすことになるかもしれないという覚悟はしていた。
が、

(こういう奴らって、生きたまま内臓食べるんだよなぁ……)

自分が獲物になって食べられる事までは想像していなかった。

こんな時、半端に知識があるのが恨めしい。
いっその事連れ攫われた衝撃で気絶したまま食べられていた方が幸せだったかもしれない。

永遠に続くと思われた森を抜け、たどり着いたのはぼこぼこと穴の空いた岸壁で、どうやらそこがこの猛禽類の住処らしく、スピードを落とすとくるりと器用に旋回して岸壁の穴に潜り込んだ。

逃げる術もなく、この生き物に勝てる気もしない。
自然に身を置いてきた自分だからこそ、自然の掟に従うべきだろう。

震える身体は正直だったけれど。






―――1年後

バサバサと空を切る翼の音に、慌てて窓まで駆け寄ると勢いよく開いた。

「お帰り!」

両手いっぱいに獲物を抱えた彼は、開いた窓から室内に入ると器用に翼をたたんだ。

「セルジュ! 勝手に窓を開くな!」

眉を吊り上げて怒る彼は、あの日僕を攫ってきた猛禽類で、一般的に女性しかいないとされている種族のハーピーだ。
実際は女性しかいない訳ではなく、男性にもなれる種族らしい。

「いいじゃないか、別に逃げたりしない」

ここに来た当初はなんとか逃げられないかと画策したものだが、今はこの場所が結構気に入っている。
高所のため外を自由に動き回る事は出来ないけれど、岸壁の中は小さな都市になっていて、生活に苦労もない。

ここに住む人間は僕だけで、岸壁に住むハーピー達は物珍しそうに見るけれど敵意はないらしく、戯れに遊びに来たりする。
最近では顔なじみの友達も出来て、自分の順応性にびっくりだ。

「そうじゃなくて! 落っこちたらどうするんだ」

「拾ってくれるだろう?」

「そ、そりゃそうだけど」

今は半分ほど人の姿をしているが、あの日のように完全な鳥の姿にもなれるので、時折背中に乗せて貰ったりする。
脚で掴んで貰った方が安全なのはわかっているけれど、あの体勢は落ち着かない。

詳しいハーピーの生態は知らないけれど彼は多少落ちこぼれらしく、女性体になるのがとても苦手で女性体になれないと子供が作れないと悩んでいたらしい。

そこでなれないのならスッパリ女性になるのはあきらめて、自分の子供を産んでくれるメスを攫ってこよう! という結論に達して僕を攫ってきた。
勿論攫ってきた僕は男なので子供なんて産めるわけがない。

種族が違って男女の見分けが難しいとしても、大分早とちりでちょっと頭の残念な子なのである。

その時のラシャスはこの世の終わりのように打ちひしがれ、立ち上がれなくなるほどショックを受けていた。
その傷つきようと言ったら攫われて来た事も忘れて慰めてしまうほどだ。

同情だったと思う、はじめは。
だけど大きな身体を可哀そうなぐらい縮めて泣くラシャスの頭をなでると、泣いていた顔をまるで子供のように無防備にふにゃりと笑うものだから絆されてしまった。

それからも種族の違う僕たちの間には問題があったのだけれど、今はこうして一緒にいるのが当たり前になった。
ハーピー達の間では僕らはつがいという認識らしく、子供はまだかとせっつかれる。

そんな時は苦笑してしまうけれど、結構悪くないものだ。

「ほら見ろ! いっぱい採ってきたぞ!」

腰から下げた紐の先には丸々と太ったウサギが2匹と魚が入っているらしい魚籠。
甘い匂いは熟れた果実だろうか、とてもいい匂いで思わず鼻を鳴らした。

「凄いな、こんなにたくさん採れるなんて流石ラシャス」

「だろう!」

顔をくしゃりと歪めて満面の笑みで嬉しさを隠さないラシャスは可愛い。
顔立ちはカッコいいのだけれども、この性格と素直さがなんとも言えず可愛いらしい。

勿論可愛いなんて言えば可愛くないと怒るので言わないけれど。

「ん? なんか部屋の中で良い匂いがしないか?」

「ああ、さっき貰いモノの紅茶を使ってクッキーを焼いたんだ」

「クッキー?!」

精悍な顔立ちに似合わず甘いものが好きなラシャスはクッキーという単語にピクリと身体を揺らして反応した。
そわそわと身体を蠢かせ、翼に至ってはバサバサと音が鳴るほどに揺れている。

ちょっとだけ悪戯心が湧いた僕は、ちょっとだけ意地悪を仕掛けてみた。

「みんなに分けちゃったからもうないよ」

「なっ」

ガーンと擬音が聞こえそうな位ショックを受けたらしくよろよろと後退したラシャスは、そのままクルリと振り返ると傍にあった羽毛のクッションを抱きしめて、大きな身体を小さく丸めてしまう。
これで拗ねているんだと主張しているのだからたまらない。

「嘘」

「ふぉあっ?!」

丸まった背中に身体を預けて耳元で囁くと、ラシャスの全身がビクリと揺れた。
あっという間に真っ赤になったラシャスの耳に軽く口づける。

「焼きたてを食べて貰いたかったから、ラシャスの分はまだ焼いてないけど」

「せ、セルジュ、おま、おまっ!」

ああ、可愛い。

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あきゅろす。
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