[携帯モード] [URL送信]

◆短編
鎖の先1※微グロ
拍手作品車輪の中の続編になります。


1番初めの記憶は甲高い女の悲鳴。
それが自分の母親のモノなのはすぐに理解した。

気持ちはまあわからなくもない。
自分の産んだ子供の半身が化け物だったらそれもなるだろう。

名家に生まれ箱入りで育てられた母親という女は、その無知に付け込まれ、悪魔にレイプされた。
当初はその事自体を悪い夢か何かと思い込んでいたようだが、膨らむ自身の腹にようやく気づいた時には堕ろす事も出来ず、産む以外の選択肢はない。

俺を見た助産婦は気絶し、医師は狂ったような金切り声をあげる室内で、ただ俺だけが冷静だった。
滑稽で馬鹿らしい神への祈りを聞きながら、笑う。


神がいたのならなぜこんな事態になっているのかと。


結局母親という女は人間に生まれた弟の顔を見ずに死んだ。
それが自殺だったのか狂死だったのか、俺は知らないし、興味がない。

当時まだ存命だった祖父という男が、魔物の特性を多く発現していた俺を閉じ込めるように召使いに指示をした。
知られてはいけないとか、一族の恥とか言っていた気がするが興味がないので聞いちゃいない。
生まれたばかりだったが生きる事にすでに飽きていた俺は祖父という男の言葉に逆らう事無く従った。

なぜ飽きていたか?
つまらないからだ。

環境は悪くなかった。
悪けりゃ暴れれば改善された。

1日3回の飯に、いつでも入れる風呂。
俺は綺麗好きで水に入っている時の浮遊感が好きなので、暇さえあれば風呂に入っていた。

一度入浴剤変わりに毒をいれられた事があったけれど、あれはいけない。
すごく臭い。

……毒?
効くわきゃないだろう、そんなもの。

ほぼ同じ時に生まれた弟は俺に近づかないよう大事に大事に育てられているようだった。
ちゃんと会った事はなかったけれど、1番近い存在として幸せなのは喜ばしい。

父も母もどうでもいいが、弟の幸せを俺は願っていた。

「兄さん」

が、何故か弟からやってきた。
弟いわく、生まれた時から兄がいるのは理解していたけれど、自由に動けるようになるまで数年、この場所まで来れるようになるまで追加で数年かかったらしい。
人間とは難儀なモノだ。

ニッコリと笑うあどけない表情の弟は自分の顔とはあまりにも違い、血の繋がりなんてまったく感じさせない。
だが確かに自分の弟だとわかる。
どうしてと説明は出来ないけれど『弟』という存在だと確信を持って言えた。

「こんなとこまで来なくてもよかったのに」

「だって兄さん会いに来てくれないじゃないか」

「めんどい」

会おうと思えばいつでも会う事が出来ただろう。
だが生きる事に飽きていた俺は、ベッドと風呂を往復する怠惰な日々を過していた。

「だから僕が来たんだよ」

ため息をついて弟は俺に手を出した。
その小さな手には何も乗っちゃいない、残念。

「何?」

「握手だよ」

「はぁん? つまらない事をしたがるもんだな、弟殿」

「こういうつまらない事を積み重ねて兄弟になるんだよ、兄上」

「そういうもんか」

「そういうもんだよ」

白くすべらかな弟の手を握りつぶさないように慎重に握る。
他人の熱を感じたのはこの時が始めてかもしれない。

「いたたたた……」

「あ、すまん」

この頃は力加減も苦手だった。



「ファルゴ、これ可愛いと思わない?」

「どれ……っぷ、見えねぇよ!」

弟のヴィクトルが自分の読んでいた本をバッと開くと、俺の前に突き出した。
ヴィクトルが突き出した本は顔から近すぎてページがよく見えず、ちょっとだけ顔を後ろに引いてようやくそれは見える。
それは小さな動物で、多分兎。

多分としか言えないのは俺が兎という生物をこの目で見た事がないからと、ヴィクトルの読んでいる本に描かれた絵が兎が二足歩行していたからだ。
俺の中で兎は四足で移動する動物だったのだが、違ったのか?

そうそう、ファルゴというのは俺の名前だ。

誰も呼ぶ奴がいないので名前がなかったのだが、ヴィクトルは呼びたいと言ったので適当に本を開いてつけた。
誰かから呼ばれるというのは新鮮で、なかなかに悪くない。

「旨そう」

「なんでだよ、可愛いだろ?」

「俺にはあんまり可愛く見えない。俺はもっとこう、……生意気そうなのがいい」

「生意気なのが可愛いのか?」

「そう、その生意気なのの首根っこを押さえて地面に擦りつけるのが可愛い」

「わかんないなぁ、悪魔と人間の違い?」

「そうじゃないか?」

ヴィクトルは俺に悪魔というのをためらわない。
悪意も真意もない素直なヴィクトルの言葉を俺は、まったく不愉快に感じなかった。

むしろ素直な感情は爽快感すら与えてくれる。
一緒にいて特別に何をするわけでもないけれど、ヴィクトルは俺にとっていい暇つぶしと刺激を与えてくれる存在だ。

「ヴィクトル」

「なに? ファルゴ」

「最近生きる事が少しだけ面白い。お前はそばにいてもいいぞ」

俺の言葉にきょとんとした表情をしたヴィクトルは、目をまん丸にして首を傾げる。
自分と違っていていいが、まったく理解されないのはつまらない。

そばにいて不快じゃない生き物は、今のところこの弟だけなのだから。

「僕は可愛いのがあればいいや」

存外図太い弟だ。


[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!