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◆短編
25:00※微エロ
子供の頃はなんにでもなれると思っていた。
ケーキ屋さんにも、パイロットにも、警察官にも、芸能人にだってなれるんだって思っていた。

今になればバカみたいな話だけど子供の頃の俺は純粋で、物語の主人公にだってなれると信じていた。

そんな俺がなりたいと母親に訴えたのはシンデレラ。

別にオヒメサマになりたかった訳ではないし、ドレスが着たかった訳でもないけれど、なぜか俺はシンデレラになりたかった。
おそらく俺の中で1番幸せなモノがシンデレラだったんだろうと思う。

そんなアホ丸出しの夢を語る俺に、母親は男の子はお姫様になれないのよ、とたしなめた。

俺の人生初めての挫折。
馬鹿みたいだと思うだろ?

でも小さかった俺はワンワン泣いて、シンデレラになりたいって母親にせがんだんだ。

勿論、なれなかったけどさ。



「今でもなりたいんですか?」

「んあ?」

「シンデレラ」

事が終わった後、ベッドの上でピロートーク。
急に話しかけられて咥えていたタバコの灰が、シーツの上にはらりと落ちた。

相手は最近知り合ったどっかの会社のスマートなエリート社員。
俺は平凡な会社の最近腹が出ないか心配な平社員。

身体の相性は良いみたいで、こうして会って飯食ってセックスする。

チンコはそこそこの太さだけど、長さがいい。
奥までガンガン突かれる感じがたまらんし、張り出したカリで内壁をこそがれると、喘ぐ声が抑えられないぐらいに気持ちがいい。

多分イケメンと呼ばれるであろう彼が、俺みたいなおっさんとセックスする理由はわからない。
俺がタチならまだ納得するけど、俺は基本的にネコの方が好き。

気持ちよくして貰う方が、好き。

「んー…、実際は当時からシンデレラそのものになりたかった訳じゃないんだと思うんだよなぁ」

「なんだか不確かですね」

「確証がないからな。多分俺は一生幸せっていう保証が欲しかったんだと思う」

「シンデレラって一生幸せに暮らしましたってオチでしたっけ?」

「オチっておま、ハッピーエンド台無し」

現実的な彼の言葉にクックと笑う。
でもこういうロマンの欠片もない感じが結構気に入っていたりする。

「最後がどうなったかって、物語の終わりは大体ぼんやりしてて明記されてないんだよな」

「それじゃあ幸せになったかどうかわからないじゃないですか」

「でもさ、シンデレラの話を読んだ後、彼らが不幸になりましたって最後想像するか?」

「……………、しないですね」

「だろ? 幸せであること以外想像出来ないって凄くないか?」

誰もが彼女の幸せを願うから、物語はハッピーエンドだ。
俺はシンデレラになれないけれど、彼女の幸せを妬んだりしない、幸せでいて欲しいと願ってる。

「きっとシンデレラは王子様と幸せな結婚をして、子供も3人ぐらい産んで、苦労もいっぱいしたけど王様になった王子様と2人で頑張って、子供はすくすく成長して結婚して孫が生まれて、そんな大事な家族に看取られながら幸せに死ぬんだと思う」

「死ぬんだ?」

「物語だから死ななくてもいいんだけど、きっと彼女は死んだ事を悲しいって思わなくて、自分の為に泣いてくれる家族が嬉しいって思うんじゃないかな……、っていう希望」

そう、希望。
俺がなれない分、彼女の人生は幸せであってほしい。
まあ俺もなかなか自分にあったチンコ見つけて幸せだけどね。

「んー……」

「どうした?」

くるりと寝返りをうって天井を眺める彼の眉間には深い皺。
さっきあれだけ激しく『運動』していて具合が悪いということもないだろうし、機嫌でも害したかと顔を覗き込むと黒目がちの目がキロリと動いて俺をじっと見つめる。

「結局なにもわからなかった」

「何が?」

「欲しいものとか」

「はぁ?」

なんのこっちゃ。
別に何か欲しいとか、くれっていう類の話はしていないはずだが。

「なに、じゃあお前俺がシンデレラに欲しいって願ったらしてくれんの?」

くすくすと笑いながら2本目の煙草に火をつけようとライターを擦る。
100円の安物ライターは不調なのかいつもなかなか火がつかないけど、何となく愛着があって捨てられない。

「…………したい」

「ん、なにを?」

「シンデレラに」

「は?」

「ガラスの靴、落としてくださいよ」

「なんで?」

「だってそのガラスの靴持って行ったら、貴方がそばに居てくれる権利が手に入るんでしょう?」

「引換券かよ?!」

「違うんですか?」

「お前の読んだシンデレラと俺の読んだシンデレラ違うんか?」

「シンデレラってそんなに種類あるんですか?」

「ねーだろ」

全く持って情緒がない。
そういう所も気に入ってはいるが、俺はシンデレラになりたがるぐらいにロマンティストなのだ。
ちょっとは夢見させて……。

「ん……?」

「あ、灰皿ですか?」

「いや、あれ?」

「どうかしましたか?」

「な、んでもない?」

「はあ。あ、灰皿どうぞ」

「サンキュ」

あれ、ねえ、今、告白された?

「なあ」

「はい?」

「俺たちって、セフレ?」

「今の所は」

「……今後は?」

バクバクと心臓が鳴る。
俺にだって恋人ぐらいいた事はあるし、セックスだってこいつが初めてじゃない。

恋だってしたし、失恋だって何回も経験がある。
行きずりにセックスした事も自慢にならないけどあるわけで、初心さなんかかけらもない。

なのに馬鹿みたいに心臓が跳ねやがる。
自分に都合のいい答えを、期待している。

「今はシンデレラがガラスの靴を落としてくれるのを待ってます」

あ、くそ。
そんな答え、ずるい。

「顔が真っ赤でリンゴみたい、リンゴは白雪姫?」

「知るか、バカ」

俺は照れてて忙しいんだよ、察しろ。
ばか。

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あきゅろす。
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