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◆短編
失恋と欠片達
「くそッ、腹が立つ」

イライラとした仕草で机を叩く音は耳障りで、手元で細かい作業をしている僕にまで苛立ちが移りそうだ。

「また振られたの?」

「……」

ブスッとした顔で視線を逸らした彼はある意味とても分かりやすい。
感情を隠そうともしないからすぐに何があったのかわかってしまう。

「大体向こうから告白してきてなんで向こうから振るんだ? 意味がわからん」

「そりゃ合わなかったんじゃない?」

おざなりに返事をしながらピンセットで小さな宝石のかけらを拾いあげ、作り途中のアクセサリに専用の接着剤でくっつけた。

砕けた宝石は価値が低く安価で手に入るので、それを加工してそれなりの値段をつけて売るのが僕の仕事だ。
手先は器用な方だし、同じ事をやる続けるのも苦痛じゃない。

だけど僕にはどうしようもなく美術的なセンスがなく、自分で考えたデザインは奇抜という言葉がよく似合った。
自分でも出来上がった作品を見て、何がどうしてこうなったのか不思議に思えるほどだ。

「合わせる努力もした。好みにも合わせたし、一緒に過ごしている時には財布すら出させなかった。それにプレゼントだってこまめにあげたんだぞ?!」

「そういう所が嫌だったんじゃないかなぁ」

「どこだ?!」

「本当は相手なんてどうでもいい、とりあえず合わせておけって所」

「ぐっ」

図星。
僕は彼が本当に誰かを強く好きになったのを見た事はない。

顔もいいしセンスもいい、性格は強気で高慢な所もあるが基本的には優しいので彼はもてる。
スラッと高身長でしなやかな筋肉に覆われた身体は同じ男から見ても魅力的だ。

「デザイン頂戴」

「お前、俺の話を聞く気あるのか?」

「ないよ、また同じ話の繰り返しだもの。どうせこの後飲みに付き合えって言って飲んで愚痴る、だろ?」

毎度のパターンにも慣れたもの。
彼が僕の所に来る理由は3つしかない。

1つ目は素晴らしい芸術性を持つ彼に僕がデザインを依頼した時。
自分のセンスで作らなければアクセサリー制作も上手くいくので、彼に頼んでいる。
彼のデザインしたアクセサリーはなかなかに評判がいい。

2つ目は彼女にプレゼントするアクセサリーを欲しくなった時。
これはデザインを依頼する関係で彼には安価で譲っているためだと思われる。
多少は僕の作ったものを気に入ってくれているのなら嬉しい。

3つ目は彼女に振られた時、これに関しては説明不要だろう。

「確かに好きじゃなかった。でも付き合って行くうちに良い所が見つかったりするだろう?」

「まあ、そういうのも1つの手段だよね」

「だろ?!」

「でも結局ダメでしょ」

「それは……!」

なおも言い訳を続けようとする彼をキロリと睨むと、手に持っていたピンセットを机に置いた。
こうも騒がれては作業に集中出来そうにない。

「あのね。僕がダメだって言ってるのは、君が『振られて悲しい』じゃなくて『振られて悔しい』って思っている所なんだよ」

「は?」

「結局君は自分のプライドが傷つけられたのが嫌なだけだ。自分が振られた事実に苛立っている、それだけ」

彼は何か言おうと薄く唇を開き、結局言葉を紡ぐ事無く黙る。
それが彼の良い所でもあるのだけど、本当にわかりやすい性格だ。

カロカロと音をさせながら宝石のかけらを探ると、大きめの石を彼の手に渡す。

「なんだよ、これ」

「それが君だ。他の宝石よりも大きく輝きも美しいのに、自分が欠ける事を恐れている」

「……ッ、自分を守ろうとするのは悪い事かよ!」

噛みつきそうな勢いで彼が怒鳴るのも耳が少し痛いだけで怖くはない。
本気で掴みかかられたら確実に負けるのに、そうされない確信が僕にはなぜかあった。

「自分を守ろうとするのは良い事だけど、君がしてるのは相手を責める事だけだ。現に君は相手を追いかけようともしないじゃないか」

「それ、は……」

「とりあえず付き合うのが君には合わないんだよ、ちゃんと好きになってから付き合えばいいのに」

彼は頭も良いはずなのに、これに関しては何度も同じ間違いを犯している。
いい加減学ぶべきだ、そうしなければ痛いのは自分なのだから。

「……でも、好きになるのって怖くないか?」

「さあ、そこまで強く人の事を好きになった事ないから」

「俺がこの宝石ならさ、本当に好きになった人に振られた瞬間粉々になるわ」

彼は親指と人差し指で宝石をつまむと、蛍光灯の光にかざして片目をつむった。
指の中で左右に揺れた宝石からこぼれた光が拡散して部屋を照らす。

「いいじゃん、そうしたら僕が加工してあげるよ」

「あ?」

「僕は小さいかけらの方が使いやすい」

彼が本当に宝石なら、素敵なアクセサリーになるだろう。
きっと自己主張の強い宝石だ。

「お前、……センスないじゃないか」

「だから、デザイン頂戴ってば」

差し出した手を上下に揺らし催促すると、彼は苦笑しながら茶封筒を僕に渡す。
ズシリとした重さは沢山のデザインをしてくれた証だろう。

「ありがとう」

「礼はいいから飲みに付き合えよ」

「えー…、やっぱり行くの?」

回避出来たと思ったのに。
もしかして僕の所に来る理由って酒が飲みたいからっていうのもあるのかな?

「行くんだよ、おら強制連行だ!」

「うぇええええ……」

凄く面倒くさい。
でも彼と飲む酒は、割と嫌いじゃなかったりする。

ちょっと愚痴っぽいのを除けば最高なんだけどなぁ。


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あきゅろす。
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