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◆頂き物
沈也様から相互記念4※R18
青年のおぞましい申し出に拒否の声を上げる間もなく、引き千切る様に服を剥がされた。
ブラウスのボタンが飛んで行くのを目の端で捉える。

「ああ、なんて綺麗な肌…」

「ひっやめっ、お前、いい加減に…!!」

「お前だなんて…。クレウと呼んでください、ね?」

「く、クレウ…っ?」

その名前に聞き覚えがある様な気がして疑問混じりで名前を呼んだ。
顔に見た記憶は無い。しかしクレウという名――…。

「ま、まさか」

隣国の王子の名前がそうでは無かったか。
自分より5つ程年上の王子が隣接している国にいると父が言ってはいなかったか。
その事を聞き出そうと開いた口からは言葉では無く、引き攣った悲鳴。
上だけでは無く、ズボンを取り去り下着までをもずらしたクレウと名乗る男が自分の下生えにうっとりとしながら頬を擦り付けたからだ。

「こちらの方が色が濃いんですね…でも美しい金…」

「止めろ、止めて…っ」

ああそれになんて良い匂いなんでしょうと鼻面を埋めるクレウに恐怖で喉が引き攣れた。
クレウはそのまま舌を伸ばすとざりざりと毛を舐め始めた。
ぬるつく舌が毛をかき混ぜ、皮膚を湿らせてゆく。それどころか口に含むと咀嚼し、引っ張り始めた。

「ひっ、いたっ、痛いっ」

クレウが引っ張る度にチリッとした痛みが走る。
他人からそこに痛みを与えられた事は無く、おまけにこの異常な状況の中。ちょっとした痛みだとしてもパニックに繋がるのは容易かった。
王子の両目から涙が零れる。

大声を出しても城の者が駆けつけて来る気配が無い。クレウが言っていた事は本当なのだろう。
クレウを押しのけて逃げ出したいが、体格差的にそれは難しいだろうし何より恐怖に腰が抜けて動けない。

クレウのうっとりと蕩ける赤の瞳の奥の狂気の様な光りが怖かった。
愛情、情欲、崇拝、どれにも似ていてどれでも無い純粋でありながら混沌とした光り。
この男の肩を蹴り飛ばし、逃げればきっと恐ろしい目に自分は会うだろうという確信があった。
そもそも逃げた所であのドアは開くのだろうか。
部屋に呪いを掛け、自らの姿さえ変えられる様な力を持つ男がみすみす逃げ口を作っておくだろうか。

震えながら涙を零していると、クレウは口を離し、頬に口を寄せて涙を舐めとりながら囁いた。

「痛いのも苦しいのも嫌ですよね、セイリア王子…。
大丈夫、私の言う通りにすれば何も痛くない。とっても気持ち良くしてあげます…」

ね?と小首を傾げて覗き込むクレウ。
この最後のこちらの意見を伺う様に「ね?」と言うのはこの男の癖なのだろうか。
自らの今後の運命に絶望しきっていると、そっと頬を大きな手で挟まれた。

「一人は寂しかったですよねセイリア王子…。母親は亡くなり、父親である王様は忙しい。兄弟姉妹もいなければ遊び相手も今まで一人もいない。
………ああ違ったか、一度『衛兵と仲良くなった事がありましたね』」

「!?」

どうしてその事を。

「まだ貴方がこんな籠に閉じ込められる様な生活になる前。貴方は衛兵の一人と仲良くなった。
街の事について楽しく話をしたり、市場で売られているお菓子をもらったり。
貴方は友達のつもりだった。でも相手は…違った」

その罪な程の美しさに囚われてしまったと言葉が続く。

「衛兵に呼び出されたある晩、貴方は犯されそうになった。
貴方の声にすぐに人が駆けつけたから良かった物の、その衛兵は死罪。貴方は出られる場所はおろか喋る相手まで決められてしまった…」

「な、何で…」

「全部知っています、全部…。
寂しかったですよね、窮屈でしたよね。再び同じ事が起こらぬようにと王様目を鋭く尖らせ、使用人達はこの事を恐れて貴方を腫物の様に扱う様になった…。
辛かったでしょう…?」

クレウの言葉が胸に染みわたっていく。
どうしてそれを、どうしてお前が。
そう思うのに、見て見ないふりをしていた傷に触れてくるその言葉を求めてしまう。
寂しかった。とっても寂しかった。悲しかった。
誰も気づいてくれないけど、我慢しなくちゃいけなかったんだ。だって僕は王子だから。

「貴方もこの事で自分の容姿がどの様に相手に取られるのか自覚した。そして他人と慣れあう事を止め、心を見せなくなった。…もう傷つきたくないから。
いえ、相手の為にも止めたんですよね。自分の所為で命を落として欲しくないから…。
優しいセイリア王子…。貴方の優しさが貴方を苦しめた」

「ふ、ぇ…」

甘い言葉が傷に染み込んでいく。
それと同時に涙が溢れて止まらなくなった。
ずっと背負って来た重い荷物をもう良いよと背中から下ろされたような安堵感に包まれる。

引き裂かれた服の間から肌を覗かせる王子をクレウは身体全体で抱きしめた。

「でももう大丈夫ですよ…。私がいるから。私が傍に居ます。もう悲しい思いも寂しい思いも辛い思いもしなくて良いんですよ」

その言葉につられるように王子が顔を上げれば、優しい笑みを浮かべたクレルと目が合う。

「私は貴方を幸せにするだけの力がある。衛兵みたいに殺されたりなんてしません。そして誰よりも貴方を愛しています…。その場限りでの思いなんかではないんですよ…?セイリア王子」

――ずっと、ずっと貴方だけを見ていたんです。
先程まで紡がれると恐怖すら感じたその言葉のなんて甘美な事か。
自分の苦しみを言い当て、癒すような言葉をくれたクレウに王子は並々ならぬ想いを抱き始めていた。

王子の恐怖が薄れ始め、こちらを窺う様などこか甘えた空気を敏感嗅ぎ取ったクレウは優しく言い募る。

「ね、だから私のお嫁さんになってください。王子。もう二度と寂しい思いをさせないためにも……ね?」

戸惑う様に目を泳がせる王子の頬を固定すると目線を絡めた。
赤の瞳に王子が釘付けになる。

「――…頷いて。ね?大丈夫、優しく…とっても、とっても気持ち良くしてあげますから…」

優しいテノールの響きに促されて王子は小さく、僅かに縦に首を振った。

その瞬間、一瞬だけ赤の瞳が怪しく煌めき、奥の瞳孔が人ならざる形に歪んだ事に王子は気づかなかった。


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あきゅろす。
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