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◆頂き物
沈也様から相互記念3※R18
湯から上がり、部屋に戻ると使用人が片付けたのか食器は既に無かった。
そしてカエルの姿も。
その事にほぅっと一息を吐くと、王子は疲れた表情をしてサイドテーブルに置かれた小さな灯りだけを残すと、ベッドに潜り込んだ。

「ああ、疲れた…最悪…」

身体よりも疲れたのは心。
そんな心を体ごと上質な柔らかい布団が包み、癒していく――その安らぎの時を首筋にぴとりと張り付いた気持ちの悪い感触が叩き壊した。
奇声を上げて飛び起きた王子の目に映ったのは、夜の闇の中小さく光る灯りに照らされた…カエル。
それがちょこんと枕際に…多分寝ていた自分に寄り添う様な形になっていたのだろう…いた。

「王子様、私も一緒に――…」

カエルが口を開く前にとうとう頭にきた王子はむんずとカエルを掴み上げると、壁に向かって思い切り叩きつけた。
響くべちゃりという悍ましい音と、ぐぅという潰れた声。
くらい為に叩きつけた壁とカエルがどうなっているのか分からないが、王子は金切声でそちらに向かって怒鳴り付けた。

「気持ち悪いんだよ…!!!!お前何しているのか分かっているのか?!図々しいにも程がある…!!!
誰がお前なんかの花嫁になるもんか!寂しいだって?!お前なんかと食事をするくらいなら一人でした方がマシだ!!!」

怒鳴り終った後、さぁあ…っと王子様は青ざめた。
激情に任せて大声を出してしまったが、この声ではきっと城の者に聞こえたに違い無い。
独り言や胸の内ではあったとしても、今まで自分以外の存在にこんな口を利いた事は無い。こんな言葉使いをしていると知れてしまったら自分は一体――…。

「大丈夫、この部屋には防音の呪いを掛けておきましたから…。誰も、聞こえていません」

「ひっ」

闇にぼやける部屋の隅、叩きつけた壁から穏やかで低い声が響いて来て王子は悲鳴を上げた。
何故。あんなに強く叩きつけたというのに、何故まだ喋れるのか。どうしてそこまで穏やかな声が出せるのか。

「ふふ…流石王子様。呪いを解いてくださるなんて…。凄いです」

ゆらりと暗闇の中で影が立ち上がり、近づいて来る。
それはカエルなんかではありえない大きさで、恐ろしさにガチガチと王子は歯を鳴らした。
しかし、その影が灯りに照らされると恐ろしさに勝る驚きに震えが止まり、唖然と口が開く。

何故ならそこに立っていたのは一人の人間――…。
それも美しく凛々しい容姿の青年だったから。

「か、か、カエルは…?」

「王子様…私がそのカエルです」

「え、ええ…?」

思わず呟いた疑問に返されたとんでも無い答え。
どちらかというと小柄である自分は勿論、父親である王様よりもずっと背の高い青年は微笑みを浮かべながら近づいて来る。

近づく程小さな光の近くに来るので、彼がどのような姿をしているのか段々分かった。
身に纏う服は貴族でも中々手が出せない程上質な物。自分と違い緩やかに波打つ髪は薄い茶色。凛々しい眉とすっと通った高い鼻は意思が強そうな印象を与えるが、垂れがちの柔らかい笑みを浮かべた瞳がそれを緩和して――…

――あ、あ、目が、赤、色…。

そこだけカエルの時と同じ色の瞳を見て、本当に彼がカエルだったのだと理解した時には、カエルであった青年は手を伸ばしてベッドの上で腰を抜かしている王子の頬に触れていた。

「ずっと会いたかったんです…。2年前、お城の大きな舞踏会でちらりと貴方を見てから忘れられなかった…。
でも何度頼んでも貴方のお父様は貴方に合わせてくれなかった。だからこうやって自分に呪いを掛けて会いに来たんです…」

そろりと頬を撫でる手は何故か酷く冷たく感じて鳥肌が立った。
伸ばしてくる腕から逃れようと後ずされば、青年はベッドに上がってその間合いをじりじりと詰める。

「や、や、止めろ…。出ていけ…っ」

「王子様…ああ、セイリア王子…。本当に何て愛らしくて美しい…」

「出て行けってば…!」

「貴方が良くいるあの庭…あの庭に入るにはどうしても小さな動物になるしかなかった。でも一度自分に掛けた呪いは自分で解くことが出来ない。口にする事も許されない…。
解く方法は、他人にその変身した身体を脱ぎ捨てる手助けをしてもらう事…。これは賭けだったんです、セイリア王子。そして私はその賭けに勝った…。運命でしょう?そうは思いませんか?ね?」

出ていけと繰り返すが必死の余りその声はか細く、小さな物にしかならなかった。
そんな自分にうっとりと夢見る様な眼差しが向けられている。
その蕩けた赤い瞳が灯りに照らされてちろちろと光るのが酷く恐ろしく感じた。

もうベッドの頭まで追い遣られて、これ以上逃げる事が出来ない。
それを細身ではあるが高い身長の青年が見下ろせば、まるで覆い被さっている様に思えた。

「だ、誰か…ぁ!!!」

「言ったでしょう、この部屋には音を一つも漏らさない呪いが掛けてありますと。
大声を出しても誰も私達の邪魔をしに来ない…。嬉しいでしょう。
……ずっと傍で見たかった。ずっと貴方に触れたかった。貴方の声を、肌の感触を、体温を、匂いを、全てを感じたくて、私は気も狂わんばかりだったんです…」

吐息が掛かるほど顔が近づき、赤い唇からてろりと舌を出すと青年は頬を舐めた。
滑る感覚はあのカエルを思い出させるが、それよりも熱く濡れている。

「ひぃ…っ」

「甘いんですね、セイリア王子…。ああ貴方が私の花嫁だなんて夢の様…」

「ち、違…っ」

「夫婦になったらする事は一つですよね。ね、王子…。

………愛を、確かめ合いましょう…?」


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あきゅろす。
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