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◆頂き物
沈也様から相互記念2※R18
部屋に戻るなり金の毬を放り投げ、ベッドに転がる王子。

「あーあ、僕が何でカエルなんかと結婚しなきゃいけないのさ。気持ち悪っ」

鈴が鳴る様な綺麗な声音で吐き出した言葉はあの可愛らしい姿からはまるで想像もつかない物だった。

そう。王様が花よ蝶よと育てた結果、王子の性格は自己中心的な物になってしまっていたのだ。
自分の美しさを十分に理解している王子は、人前では見た目に違わないしとやかな態度を演じるが、自室に戻るとやれあの国の大臣は五月蠅いだの、やれあの客は不相応な格好だのと悪口を口にするのだった。

「もうあの毬触るのやだなぁ。ベタベタしてそう」

そう言って枕に顔を埋めていると、ドアがノックされ、乳母が入って来た。

「ばぁや!ねぇ今日はお父様とお食事一緒に――…」

「申し訳ありません王子様。王様は今日もお忙しくて…。今夜もこちらでお食事を…」

「……そう」

乳母がドアを開くと、使用人達がテキパキとテーブルに夕食の支度を始めた。
それを悲しそうな目で見つめる王子。
幼い頃に病で母を亡くした王子は父親である王様をとても慕っている。
けれども王様は忙しい身。中々食事を共にする事が出来ないばかりか、顔を合わせられる事も稀な程だった。

食事の支度が終わると皆下がり、一人ぼっちの食卓。
寂しさに唇を噛みしめながらスープの皿を引き寄せた時。

「お一人だと、寂しいんじゃないですか…?王子様」

「!」

慌てて振り返ると、床にあのカエルが座っていた。
身体が最初見た時よりもぬらぬらと光っているのは今さっき井戸から上がって来たばかりだからなのだろうか。

「お、お前…」

「蓋を押し上げるの、大変で…。ああ、責めてるんじゃないんです。だってわざとじゃないから…。
私が落ちたのに気付かずに蓋を閉めてしまったんですよね。ね?なら仕方ないです…」

目をぐりぐりと動かしながらカエルはそう言うとペタッ、ペタッと跳ねて近づいて来た。

王子様は顔を青ざめさせると思わず身を引いた。
カエルをわざと突き落とし、蓋を閉めたのは誰の眼から見ても明らか。
それをわざとでは無いと言い張り、近寄ってくるカエルに王子様は何か狂気に似た何かを感じたのだ。

人を呼ぼうかとも思ったが、毬を拾った事をカエルに言われては困る。
そもそもカエルに対して侵入者だと騒ぎを起こす事が躊躇われた。

「ね、王子様。お一人の食事は寂しいですよね。私もご一緒します」

「え、あ…いや、」

「夫婦ですから何もおかしな事はありませんよ」

「あ…こ、れ。これ、僕の分しか。一人分しかないから…っ」

「大丈夫、ちょっとだけ分けてくれれば良いです。そんな食べませんから…」


王子様のお皿から。と言うカエルを止める術を王子は持っていなかった。



「…」

テーブルに乗って、皿から直にスープを啜るカエル。
長い舌を何度も伸ばして舐め取る姿は食欲が失せるには十分すぎる物だった。

「僕…もういらない」

「食欲が無いんですか…?体の調子が悪いとか…」

「お風呂入る。それ食べたら今日は帰って」

カエルの言葉を完全に無視すると、王子はよろよろと備え付けの浴室へ向かった。

湯を浴びている間もカエルの事で頭が一杯。

――あいつはこれからもずっと僕に付き纏うつもりだろうか。

まさか部屋の中にまで入って来るとは。
あの滑りを帯びた緑の肌を思い出すだけでぞわりと鳥肌が立つ。

――どうしよう…っ

思い切ってお父様に話して排除してもらおうか。いや、忙しいお父様の手をこんな事で煩わせてはいけない。それに全て話したら庭で遊べなく――でも今のままではどちらにしても庭で遊べやしないだろう。何せあのカエルが…ああ、あいつは部屋の中まで入って来るんだった。

考えすぎて痛み始めた頭を軽く振ると、王子は悩み事をお湯に溶かす様に顔を洗った。


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あきゅろす。
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