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◆頂き物
沈也様から相互記念1※R18
ある日、ある国の王子が庭で毬をついて一人で遊んでいました。

何故一人かというと、この国の王様は一人息子である王子をそれはそれは可愛がっていて、人の目に晒す事を拒まれたのです。
なので王子はいつも一人っきり。この庭も王子の為だけに作られた庭。
白い可愛らしい東屋が置かれた庭には四季折々の花が咲き乱れ、蓮の華が浮く噴水のある池、小さな井戸まであります。
その庭に木漏れ日を浴びながら佇んでいる少年は確かに美しく可憐としか言いようがありませんでした。
光りを弾く絹糸の様な金の髪に、緑柱石の色の大きな目。肌は白く、頬はバラ色。ツンと尖った鼻は愛らしく、唇はまるで花びら。上質な絹で出来ている服から覗く華奢な四肢。
まるで生きているビスクドールの様な容姿の王子様だったのです。
故に王様の可愛がり様も一入。籠の中の小鳥を愛でる様に大切に大切にされているのでした。



その白魚の様な美しい指から毬が転がり落ち、跳ねると、あろう事か近くにあった井戸に落ちた。

「あ…っ!」

鈴が鳴る様な声を上げて慌てて井戸を覗き込む王子。
いつもはこの井戸は板を被せて蓋をしてある。しかし今日に限って庭師が水をやった際に忘れてしまったのか、板が横に立てかけて口が開いている状態だったのだ。
いくら小さいと言えど井戸。底は深く、遠い水面にぷかりと毬が浮いてる。

「どうしよう…」

あれは大切な毬だ。
何しろ王様が命じて作らせた世界にたった一つしか無い金色の毬。無くしたと言えば王様はお怒りになるか、大層悲しむに違いない。
それどころか井戸に落とすなどと危ないと言って庭で遊ばせてくれないかもしれない。
困った様に眉を寄せて再び井戸を覗き込む王子の耳に聞き慣れない声が聴こえて来た。

「あのぅ…」

「えっ?」

小首を傾げる王子。
その仕草さえ何とも言えない程愛らしいのだが、それはさておき。

この庭に入る事を許されているのは庭師とお付きの侍女と育ての乳母だけ。その庭師も自分が庭にいる時は入る事を禁じられているし、出入り口を守っている衛兵も中には入る事はおろか、声を掛けてきた事すら無い。
ならばこの低い男の声は誰の物なのか。

「あの、えっと…こっち、こっちです」

声を頼りに顔を向けますが誰もいない。
動いている物と言ったら花の間を飛び交う鮮やかな蝶と、井戸の縁にちょこんといる緑のカエルくらい。
そのカエルが一つ飛び跳ねると口を開いて――

「あの、私が取ってきて差し上げましょうか…?」

「え…」

王子は美しい瞳を大きく見開いてまじまじとカエルを見つめた。
見た所少し大きめだが、ただの普通の緑色のカエル。

「い、今…カエルが…」

「はい。王子様。私が喋っています」

良く見てみるとカエルは赤い瞳をしていた。

――こんな目の色のカエルだから喋れるのだろうか…。

そんな事を思っていると、カエルは一つ跳ねて言葉を続ける。

「落としてしまった毬…。大切な物…なんですよね?私なら取って来れると思います」

「え、ほんと?」

「はい…ただ…」

申し出にぱぁっと顔を輝かせた王子を見上げ、カエルは赤色の目を動かしながら小首を傾げると

「その代りに私の…お嫁さんになってくれませんか?」

「………は…?」

思わずあられもない声が出かかったが、口を慌てて噤む王子。
緑の皮膚で良くわからないが、カエルはほんのりと頬を染めている様に見えた。

「花、嫁、さん…?」

「はい」

「僕、は男だけど…」

「良いんです。ね、お嫁さんになってくれませんか?」

うっとりと頷くカエルに王子は顔を微かに引き攣らせた。

花嫁も何も相手はカエル。
それも指の関節一つ分の大きさの様な小さなカエルでは無く、大人の手の平半分は埋めてしまいそうな大きさ。王子の手では3分の2は埋まってしまうかもしれない。
ぬらぬらと濡れた緑色の皮膚に、ぐりぐり動く赤色の目。潰れた様な形のそれは美しいと言える姿では無い。むしろ醜いと言っても良い物だった。

けれどカエルの様子では条件を飲まなければ毬を取って来て貰えそうに無い。
乳母にも侍女にもきっと毬は取れないだろうし、衛兵に頼んだら王様の耳に入ってしまうかもしれない…。

「…花嫁になったら毬を取ってくれるの…?」

「はい、勿論」

「……なら…なっても良いよ、僕」

交わすのはただの口約束。毬を取って貰った後はどうにでも出来るだろう。
たかがカエルに何も出来まい。
王子はそう考えるとカエルの条件に頷いた。

「本当ですか…!なら直ぐに毬を取って来ますね、待っててください」

カエルは嬉しそうに飛び跳ねると、井戸の中に飛び込んだ。
トポーン…という音がして数分、井戸の縁からポンと金の毬が飛び出て来る。

「よい、しょっと…王子様、取って来まし―――」

その後から顔を覗かせたカエルが言葉を全て言い終わる前に、なんと王子は傍にあった木の枝でカエルを再び井戸に突き落とし、立てかけてあった板で井戸に蓋をしてしまった。
落ちたカエルが何か言った気がしたが、蓋越しでくぐもって何を言っているのか分からない。

そうして王子は金の毬を拾い上げると振り返りもせずにお城の中へ戻って行った。


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あきゅろす。
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