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◆111111HIT〜
999999HIT 捕食者-人間トーク2
「そういえばこれからここでどうするか決めたのか?」

「そうですね……、力仕事では邪魔にしかならないので自分の出来そうな事からやってみようかと思ってます」

「っていうと?」

首を傾げた俺にわかりやすいよう、志波が幾つかの物を机の上に並べた。

「種?」

「はい。母が趣味で家庭菜園をしていたのですが、いつの間にかエスカレートして色んな種類を作り始めたので家にたくさんあったんです」

「持ってきたのか?」

「いつか先輩と会えて一緒に暮らせるようになった時、植えられたらいいなと思って」

朗らかに答える志波の前向きさが眩しい。
もしかしたら殺されるかもしれないと判っていたはずなのに、その状況でも希望を捨てない。

(だからこそ医者は志波を選んだんだろうな……)

自分には持てない強さに憧れる。
うん、ちょっとだけ判る。

「生態系を崩さないようにちょっと離れた場所に少しづつ作ってみようかなと思ってます」

「いいと思う。ここの奴らはあんまり菜食の奴が居ないから野菜に関しては種類が少ないし、俺は凄く助かる」

「ベジタリアンでしたか?」

「そうじゃないけど肉ばっかり食ってる種族だから、見てるだけで胸焼けしそうになるんだよ」

食文化や体質の違いだから仕方が無い。
仕方が無いが、どうしても偶にはさっぱりした物が食べたくなる。

「あ、そうだ。志波さんはつり餌の作り方知ってる?」

「はい、わかりますよ」

「じゃあいけるかな?」

「釣りするんですか?」

「竿の作り方は大体わかるんだけど、エサの作り方がわからなくてさ。俺は研究ばっかで釣りどころか殆ど外に出てないし、唯一知ってるエサは……触りたくなくてな」

「ああ……」

こう、うねうね、ぞわぞわして気持ちが悪い。
結構色んなものが平気だが、これだけはどうしても生理的に無理、駄目。

「餌がわからなくて頓挫しててさ。一族の中には泳げる奴もいて魚を獲ってくれる奴もいるんだけど、基本は肉だから量が少ないんだ」

「ああ、フジでも少し沈みそうですからね」

「家の2人は確実に沈む」

「硬質化部分多いですもんね」

朔夜は水を怖がっては居ないようだが、朝日は確実に苦手意識を持っている。
一族の中でも恐怖心を持っている者も少なくはなく、魚は稀少なのだ。

「俺も釣りでも出来ればちょっとは役に立てる気がしてさ」

「そうですか?」

「やる前から否定してくれるなよ」

「あ、いえ、そういう意味ではなく。逆に今も周りから凄く慕われている気がしますし、頼られて見えたので」

「そうか?」

正直に言えば志波ほど生活に根付いた何かを持っている訳でもなければ、朔夜みたいに力が強いわけでもなく、医者のように専門知識を役立てる機会もない。
いつか子供に手が掛からなくなったら、完全にお荷物になるんじゃないかと今から心配している位なのだが。

「俺もそれほど人の気持ちに敏いほうではないのですが、なんて言えばいいのかな……、安心? してる気がするんです」

「はぁ?」

「一族の人は普段もどこかピリッとした空気で緊張感があるんです。でも不破さんと話している時はその緊張が解れるというか、柔らかい雰囲気になっている気がします。先輩もですけど嬉しそうに見えるんです」

「俺は和ませる系統の性格じゃないと思うけど……」

「一族の人に合う性格なんじゃないですか? 俺にはそう見えます」

そうなのだろうか?
もしそうなら一族に馴染めて居るという事が嬉しい。

「……自分より能力低いのを見て安心しているだけだったりしてな」

照れ隠しに呟いた言葉に志波が笑う。

「それなら俺もそのうち好かれますね」

顔を見合わせ笑い合う。
志波が追加してくれたコーヒーを味わいながら、久しぶりに話す人間同士の会話は楽しかった。



「あ、と……、そろそろ先輩も帰ってくるかな?」

「じゃあ俺もそろそろお暇するかな」

「会っていかないんですか?」

「別に今更珍しい顔でもないし、それに……」

「???」

「さっきからイライラした気配が漂っててな」

「へ???」

志波は善人で、人の悪意や害意に疎い。
それはとてもいい環境で育った証拠で長所だろう。

だがそれを理解しない奴も確実にいるわけで。

「来てたんなら声くらいかけろよ」

扉の向こうに居る男に悪態をつくが返事はない。
きっとこうやってイライラしてしまう自分にも多少の嫌悪感を抱いているのだろう。

(しょうがない奴)

ため息を吐きつつも、こうやって迎えに来てくれた事は嬉しいので黙っておく事にした。

「んじゃまたな、コーヒーご馳走様」

「あ、いえ。また来て下さい、今度は皆さんご一緒に」

志波に軽く手を振って扉を開けた。
すぐに大きな手の平が俺を引き寄せて、形を確認するように俺の頬をなぞり、性急に唇を近づける。

「今苦いぞ、俺の口」

「日向の味ならかまわない」

唇が重なり舌が口内を貪る感触に息が奪われていく。

「ん……ぅ、ふ……」

乱暴な仕草に多少息苦しさを感じながら、朔夜の身体に腕を回しあやすように撫でた。
本当にどうしようもなく嫉妬深い、……可愛い夫。

「……苦い」

「我慢しろ」

癖のある方が記憶に残るというものだ。



ゆいか様リクエストありがとうございました!
楽しんで頂けたら嬉しいです。

人間同士の会話は思っていたより弾んで、書いていて楽しかったです。
志波の敬語は崩れないみたいなのでこのままで行こうと思います、とはいえ私の敬語が崩壊しているのでエセ敬語ですが。


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あきゅろす。
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