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777777HIT フェデルタがセルヴァを看病1
「風邪だな」
「風邪? 悪魔は風邪をひくのか?」
「私が知るわけないだろう。だが現にお前の悪魔は風邪をひいて寝込んでいる。人間の世界が合わないのか、身体が弱ったのかは知らないが、ただの風邪だ」
珍しく真剣な表情の正義に急に連れ出されたかと思えば、熱を出した悪魔の診察をさせられて、何故だかわからないが怒鳴られる。
理不尽だ。
「……じゃあしばらく寝ていれば治るのか?」
「ああ、ちゃんと栄養を取って、きちんと休めば治るだろう。普通の薬は効かないだろうし長引くかもしれんが、もともとの体力があるから心配はいらない」
深くついたため息は安堵の証で、この男にしては非常に珍しい事に軽く震えているようだ。
まだ青く血の気が引いたような硬い表情のまま私に向きかえり礼をいう。
「怒鳴ってすまない、……ありがとう」
「かまわない。それより正義、会社に行かなくてもいいのか?」
「セルヴァがこんな状態なのに置いては行けないし、連絡して休みを貰うよ」
悩む事もなくはっきりと言い切った正義に、セルヴァが正気になった時の落胆を想像する。
おそらくだが、自分の所為で正義が会社にいけなかった事を悔やんで落ち込むだろうし、風邪だと診断した俺の咎をせめるだろう。
自分の事には無頓着だが、主の事になるとセルヴァは目の色を変える。
「私が看病していようか?」
「フェデルタが? だけどセルヴァが起きたら……」
「アイツも不本意だろうが、お前が休むよりは受け入れるだろう。それにまあ、殺されはしないだろう」
難しい顔をして口元を押さえしばらく視線を泳がせた正義は、何かを思いついたように顔を挙げ、申し訳なさそうに俺に礼を言った。
「なるべく早く帰ってくるから、お願いできるかな?」
「ああ、わかった」
あわただしく着替えて苦しそうに息をする悪魔の額を心配そうに撫で、家主は後ろ髪を惹かれる思いで仕事に出かけていった。
寝ているセルヴァの額に手をあて、大体の体調を確認する。
おそらく熱は38℃台後半、熱が酷いタイプの風邪だからなのか咳はまったく出ていない。
元が丈夫な為、体調の不良は起こり難く、だからこそ内側から冒されるのにも弱いのだろう、かなり辛そうだ。
「う゛、く、……お前、か」
「悪いな、私で。だが正義が休むよりはいいだろう?」
「…………」
無言で視線をそらし眉間に深い皺を刻んだのは、具合の悪さばかりではないだろう。
しかし以前私が犯しそうになった罪を思えばそれも当然に思えた。
どうやら嫌われているようだが、実の所私はこの悪魔が嫌いではない。
以前は悪魔は自分の為だけに生き、人間に害をなすだけの生き物だと思い込んでいた。
実際に会い話してみれば、悪魔にもいい所があるし、人にも天使や悪魔なんて比べ物にならないほどの強さがある事を知った。
私の知る世界の狭さがとんでもない過ちを犯しそうになっていたのを、強引にではあるがセルヴァは止めてくれたのだから。
「食事は摂れそうか?」
「毒でも仕込むつもりか……」
弱ったこの状態のセルヴァでも、全く勝てる気がしない。
本気で殺そうと思ったのなら、おそらく次の瞬間に私の命は終わっているだろう。
だがそれなりの時間付き合ってきて、対処法もかなりわかってきた。
「お前がよくならないと正義が悲しむぞ」
「っ!」
「食べやすい物を用意する」
ギュッと布団を握り悔しそうにしながらも、セルヴァはコクンと頷いた。
まるで魔法の言葉のようだ。
まあ、私もセルヴァの事を言えないのだが。
「おかゆにしてみた、食べやすいように漬物と梅干、昆布なんかも用意してみたが……」
「おい」
「熱いか?」
「自分で食べられる!」
口元に近づけたレンゲを避けるセルヴァをおってレンゲを動かすが、何が嫌なのか食べようとしない。
「だが今は力の調節が難しいだろう? レンゲが折れるか、おかゆを零す」
「……その方がマシだ」
嫌そうにしながらも私が引く気がないのを理解したセルヴァが、しぶしぶといった体で口を開く。
おかゆを乗せたレンゲがセルヴァの口に入り、煮込まれた米を押しつぶすように唇が動いた。
「ん……、ぐっ」
咳き込みそうになった背中を摩り身体を支える。
比類なき強さに比べて身体は細く、風邪で弱っているのも合わさって、頼りなく感じさせた。
「大丈夫か? 無理そうなら食べなくても……」
咳き込みそうになったのを押さえたせいか涙目のセルヴァは、フルフルと首を振り拒否してレンゲを口に運んだ。
「食べる…っ」
セルヴァを見ていると思う、本当に人を愛する事が出来るのは天使ではなく悪魔なのではないかと。
献身で一途。
勿論それ以外の者がいるのも知っているが、感情を殺している天使に比べたらずっとマシな気がした。
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