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◆111111HIT〜

700000HIT イルサがクロードにヤキモチ1
風呂上がりの濡れたクロードの髪の毛を、陽の匂いのしみこんだタオルで拭きながらいつものようにその日あった出来事を話し合う。
仕事で一緒に居られる時間が少ない俺達には大事なコミュニケーション手段だ。
普段なら仕事で行った場所の話や出会った人、明日の予定などを話すのだが、この日は少しだけ様子が違った。

「パーティ?」

「ああ、どうしても行かなければならないんだ」

眉根を寄せたクロードが苦虫を噛み潰すように言葉を吐き出した。
俺の想像するパーティは楽しいイメージなのだが、クロードが行くパーティはおそらく仕事絡みで楽しくないのだろう。

「大変だな」

労いの意味もこめて頭を撫でると、その手を握りムスッとした声でクロードが呟いた。

「パートナー同伴だと」

「パートナー?」

「……イルサの事だぞ?」

「俺?! ……無理だろ」

クロードが行くパーティなんて上流階級の集まりで、奴隷でもおかしくない身分の俺が行けるわけが無い。
連れて行けばクロードの評価が低くなってしまう。

「俺のパートナーはイルサだけだ」

優しく囁き、擽るように腕に尻尾を絡めるクロードは卑怯だ。
そんな風に甘えられたらつい許してしまう。

「……どうなったって知らないからな」

なんだかちょっと悔しくて、嬉しそうにピクピク動くクロードの耳を少しだけ引っ張った。



「うわ……、すごい」

華美すぎるほどギラギラと輝く明かりに、季節の美しい花が飾られたエントランス、そして何よりも様々な種族の獣人が集まるそこは俺にとって目新しい物ばかりだ。
嫉妬深い獣人は配偶者を隠す習性があり、俺のパートナーであるクロードも例外ではなく俺を屋敷に閉じ込めておきたがり、その所為で屋敷の中以外は殆ど出た事が無いのだ。

屋敷に勤める獣人は、屋敷の主であるクロードが猫科の獣人な所為なのか猫科の獣人が多く、次いで鳥の獣人、他の獣人は数えるほどしか居なかった。
だけどここに居る獣人は、犬、蛇、熊……、数は少ないが水生生物の獣人も居るようだ。

「楽しそうだな」

「うん、初めて見る種族の人も居るし楽しいよ」

「他の奴に攫われないように気をつけろ。俺も出来るだけ気をつけるが……」

周りを軽く睨みつけ警戒するクロードに少しだけ笑ってしまう。
人間だというだけで避ける人が多いのに、わざわざクロードと敵対してまで俺を攫う人もいないだろう。

「こんな味噌っかす好きになるのはクロード位だから大丈夫だって」

軽く背中を叩いて安心させようとするけれど、クロードは表情が硬く周囲に軽く威嚇をして見せる。
普段は冷静なクロードがこんな風になってしまうのに驚きつつも、好かれているのがわかって嬉しい。

軽く腕を引いて会場の中に入ると、エントランスとは違った華やかさで彩られていた。
しかし何よりも目を引くのはその料理の数々である。

「美味そ……」

「食べさせていないみたいな事を言うな」

「だって普段肉が多いからさ、野菜見るとどうしても反応するんだよ」

クロードは肉食獣の獣人だから仕方が無いのだけれど、元々農夫として野菜をバリバリ食べていた俺からすれば肉だらけの生活はちょっと辛い。
そしてちょっと太った気がする。

「あまりがっつかないようにな」

「そんな恥ずかしい事しねぇよ!」

「違う。そんな可愛い所を見せてはいけない」

「可愛っ?!」

わからない。
一緒に暮らし始めてそれなりの時間が経ったがクロードの可愛いの基準が全くわからない。
凄く好きだし愛してると思うけど、目は腐ってると思う。



瑞々しいレタスと宝石のように赤いプチトマト、輪切りにされたピーマンに、香りの良いクレソン。
皿に綺麗に盛り付けて、数種類あるドレッシングの中から素材の味を消さない味の薄めの物を選びトロリとかけた。
刻まれたバジルの新鮮な香りが鼻腔を擽り、ジュワリと口内にヨダレが溜まる。

(クロードはなにか食べるかな?)

草食の獣人の為に野菜が用意されているように、肉食の獣人の為に肉や魚も用意されている。
聞いてみようと思い立ち、あたりを見回した。

金色の髪で目立つクロードは沢山の人の中でもすぐに見つかったけれど、俺はなぜかその場を動けなかった。

なぜかなんて曖昧な言い方しなくても原因は自分でもわかっている。
クロードの傍には俺から見ても綺麗な女性の獣人が数人囲んで、にこやかに談笑していたからだ。
背もクロードと並んで丁度良いし、美しい毛並みの尻尾は大型猫科の獣人だろう。

(お似合い……)

クロードの隣に立ってなんて絵になるのだろう。
まるで彼女がクロードの隣にいるのが正しいかのように思えてくる。
貧相で可愛さもない俺よりも、ずっと相応しく見えた。

ズクリ…と胸元が痛み、息が苦しい。
意味も無く切なくて、持っていた皿をテーブルに置くと、クロードにばれないようにコッソリと会場を抜け出した。

どうしても他の人に笑いかけるクロードを見ていられなかった。

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あきゅろす。
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