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◆111111HIT〜
600000HIT 朔夜×日向1
「本当に?!」

「ああ、本当だ」

何気なく聞いた事に、思わぬ返事が返ってきて思わず朔夜に詰め寄った。
あまり表情の乗らない表情は嘘をついているようには見えず、その言葉に妙な現実感が湧いてきた。

「マジで泳げないの?」

「ああ。何かおかしいか?」

「運動神経良さそうなのに、えー……」

「水に身体が浮かないからな」

ずいっと突き出された腕は大半が硬質化しており、人の組織よりずっと密度が高い。
つまり重い。
身体自体も筋肉質で体脂肪率もかなり低そうだ。

「そういやそうか、これで浮く方が不思議な構造してるもんな」

「一族では泳げるというのは恥になる。弱いと明言しているようなものだからな」

「じゃあ朝日も無理?」

「おそらくな。……泳ぎたいのか?」

「うん」

物凄く暑いわけでは無いが、軽く汗ばむ位には暑い。
シャワー状の入浴設備はあるけれど、どうせなら冷たい水に浸りたい。

「場所さえ判れば1人で行って来るけど」

「駄目だ、日向1人で行かせるのは不安すぎる」

「どれだけ俺は出来ない子なんだよ」

「……自覚がないのが1番怖い」

そりゃあ多少は人よりも鈍くさい所はあるけれど、それでも常識の範囲内だ。……多分。
納得したわけでは無いようだが、軽くため息をついて朔夜が頷く。

「一緒には泳げないが俺も同行しよう。なにかあった時に対応が遅れるから朝日は預けていく」

「じゃあ医者に頼もうかな。あ、アイツなら浮きそうだし一緒に……」

「行かない」

「即答かよ」

他の人とより朔夜は医者と仲がいい。
本人はそんな素振りを見せないし、医者も何かを言うわけではない。

でも判る。

ごく親しい人のみに見せる独特の空気が2人の間にはある。
恋愛感情の無い家族に見せる愛情のような、上手く言葉にする事は出来ない何か。

(朔夜が隠したい事だとすりゃ、聞くのもなんだしな。でもコイツ、言うのを忘れてる可能性もありそうなんだよなぁ)

「信頼はしているが、信用はしてない」

「俺に危害加えるとか?」

「攻撃はしないだろうけど、……手は出しそうだ」

ほんの少し、ほんの少しだけ朔夜がむすっとしたのがわかる。
敵わないと思ってる対象に対するコンプレックス。
力なら圧倒的、体格でも地位でも上。
それなのに、朔夜は医者にどこかで敵わないと思っている。
だからこそ警戒し、恐れ、慕い、気にする。

(きっと医者の方は負けているのを判っているけど気にしていない。気にするのは後ろが気になる勝者の方か、面白いなぁ)

非常識までに強く、人という立場から見れば残酷にすら見えるこの一族も、長く付き合っていく内にそれぞれの個性や人間味がわかってくる。

朔夜は意外と子供っぽいのかもしれない。

「日向?」

「ん、じゃあ2人で行こうか」

そう言って朔夜の頭を撫でると、少しだけ不思議そうな顔をして嬉しそうに笑う。
口の端をほんの少しあげただけ、でも朔夜が喜んでいるのがわかった。



「うわー、凄い透明度。底まで結構あるのにクリアに見えてるし」

「水源が近いから多少温度が低い、あまり長く入り過ぎるな」

「了解」

軽く準備運動をして、服を脱ぐ。
勿論水着なんて無いから下着で代用する予定だ。

「……?」

妙な気配を感じ振り返ると、朔夜がジッとこちらを見ていて何となく着替え難い。

「な、なんでこっち見てるんだよ」

「いきなり脱ぎ始めたからどういうつもりなのかと思ってな」

「いや、普通に泳ぐつもりだけど……」

「痕が一杯付いていてその格好もいいな」

痕………………、?!

「……っ! 見るなっ!」

脱いだ服を朔夜に投げつけて、慌てて水の中に入る。
言っていた通り少し水温は低く、暖まっていた身体から一気に熱が奪われていく。
長くは入っていられないけれど、水から出たら身体に付けられた痕……、キスマークを舐めるような視線で見られると思うと上がり辛い。

俺は嫌だと言っても朔夜は痕を付けたがる、所有の証が欲しいといわんばかりに全身に。
少し見ただけでも胸元、二の腕、足。
見えないだけでもっときわどい場所にも付いているだろう。

「隅々まで見た間柄なのにまだ恥かしいのか?」

「見てないし見せてないっ!」

挑発するような朔夜の口振りに反射的に言葉を返す。
そうすれば少し色気の含んだ表情で笑い、

「じゃあ、もっと見せてもらわないとな」

俺は墓穴を掘った事に気付く。

(水の中にいる間は手を出せない、はず)

でもこの水温では長く居られない。

水の中は危険、水の外では獣が舌なめずり。
さて、どっちが危ないのでしょう?


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あきゅろす。
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