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◆10万HIT CLEAR
永久機関続編
トラが来てからというもの、静寂に包まれていたはずの城はバタバタと慌ただしく騒がしい。
それが嫌ではないのは、私もこの静か過ぎる生活に多少寂しさを感じていたのだろうか?

ソファーで書類を確認している私の前に座ると、当たり前のように足を組んで踏ん反りかえる勇者は、偉そうな態度で城の主である私に命じる。

「アマート、茶ぁくれ」

「自分で出来る癖になぜ自分でしないんだよ、トラ」

「自分で淹れたのなんか味気ないだろ、茶」

まるで暴君のように振舞うトラに、ため息をつきながらも私は知っていた。
彼は本当に私が忙しい時にこうやって命じたりしない。
これは彼なりの甘え方なのだと思えば、うん……。

「可愛い?」

「あ゛?」

いや、あんまり可愛くはない。

それでも不思議と嫌ではないのだ。
これも勇者の人徳のなせる業なのだろうか?

まあいい、私もそろそろ休憩するのにいい頃合だろう。

(あれ……?)

もしかして、休憩を促す為に……?
気付かれないようにトラを見てみるけれど、彼の表情からはなにも読み取れない。
考えすぎ……なのだろうか?

考えてもわからない事を考えるのを止め、私はお茶を淹れる為に立ちあがった。



アマートが部屋から出たのを確認して、俺は深くため息をついた。

「根つめ過ぎだろ……」

みんなから好かれる魔王様は、勤勉で、実直で、誠実で、なんというかまあ、無理をする。

おそらく無理したって耐えられる体力とそれを補って余りある魔力のおかげで、アマートは500年も魔王として君臨してこれたのだろうけれど、眉根を寄せて書類を睨み何時間も働き続ける彼に耐えられないのは俺だ。

優れているからこそ誰もアマートの事を心配などしない。
魔王様は大丈夫、魔王様は優秀だ、魔王様に任せて置けば安心だ。
彼もそれを当たり前として受け入れている。

ただ俺が彼だけが苦しむ今の状況を許せないだけだ。

(生贄みてぇ……)

平和の為に犠牲にされる魔王。
まるで安い小説のように矛盾だらけの言葉に自嘲の笑いが零れた。

俺がしている事はアマートに嫌われるだけの我儘にしかならないだろう。
理解して貰いたいとは思わない。
むしろ理解などしてもらっては困る。

恨まれて嫌われてもいいけれど、俺が彼の事を想っているなんて知られたら恥かしくて傍になんか居られない。

ああ、くそ、初恋という呪いはなんて厄介なんだろう。
補正がかかって煌いて見えていたのならまだなんとかなっただろうに、現実に会ったらなお一層綺麗だなんて捉えられて離れ難い。

(嫌われていたいのに好かれたいなんて、馬鹿か俺は)

アマートほどでは無いが文武両道で、勇者の地位にまで上り詰めた俺が、こうも振り回されるこの感情。
わずらわしいと思う癖に、この感情が愛おしくてたまらない。

「トラ? どうした、顔が赤いぞ?」

「なんでもねぇよ」

いつの間にか戻ってきていたアマートから渡されたカップを受け取ると、照れる気持ちと一緒に熱いお茶を飲み込んだ。
計ったように適度な温度のお茶が喉を焼くことは無かったけれど、俺が飲み込んだ言葉が焦燥を生み、体内で燻っているのが判る。

好きだと言いたい。
言えない
言いたくない。

言われたい。

「……美味い」

「そうか、それは良かった」

柔らかく笑むアマートに、飲み込んだ言葉を吐き出してぶつけてしまいたい衝動に駆られるのをぐっと堪える。

彼は魔王の癖に善人だ。
俺が思いを伝えれば、なんとなくでも答えてしまいそうで怖い。

俺は同情やなんとなくで好きだなんて言われたくない。
心の底から愛されたい。

「……我儘だな」

「は?」

「なんでもない。それより今日は茶菓子付きか」

皿に用意されたクッキーを攫い、口に放り込む。
ほのかな甘みとさくさくの歯ごたえが、口中に心地よさ感じさせる。

「少し私ものんびりしようかと思ってね」

含みを持ったアマートの言葉に内心のギクリとした気持ちを圧しこめる。
気付いた訳ではない、大丈夫。

「ふぅん、珍しい事で」

「ふふ……」

極上の笑顔で笑む彼はいつもより上機嫌に見えた。
反面座りの悪さを感じる俺は、彼から目をそらしクッキーを乱暴に口に放り込む。
あれほど心地よく感じたはずのクッキーの味がしない、くそ。

それでも彼の笑顔を見ながら飲むお茶は美味しくて、幸せな味がするのだ。



従者と剣士様リクエストありがとうございました!
続編の希望だったので、まだエロイ展開には入らなかったのですが、これからちょこちょこ書いていく事でお許しいただければと。

トラが乙女チックで書いていて、おま……となったのは秘密。


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