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長編




それを俺が知ったのは、その日から一週間くらい経ってからのことだった。
今お付き合いというものをしている土方の幼なじみで、俺の高校のときからの後輩でもある沖田君と何気なく話しているときに、それは発覚したのだ。

「そういえば旦那、あの人と五日一緒に過ごさなくても良かったんですかィ?」

「は?何で五日?」

「あれ、聞いてないんで?あの人、今月の五日が誕生日だったんでさァ」

「聞いてねぇよそんなこと!」

なぜ教えてくれなかったんだろうとか、なぜそんな大事なことを訊いておかなかったんだろうとか、色々なことが頭を駆け巡ったが、その中でも一番大きかったのは、怒りよりも悲しみだった。
俺は土方の誕生日を祝うことも許されないのか。誕生日を知らせる必要なんてないほど、土方にとっては取るに足らない存在なのか。
それなら俺は、お前にとって何なんだ。

「旦那ぁ、ちょうど土方さんがやって来ましたぜィ」

せいぜい頑張ってくだせェ、なんてそんなこと微塵も思っていなさそうな声でそれだけ言うと、沖田君はいつもの無表情を貼り付けてこの場から去っていってしまった。
残されたのは先程驚愕の事実を知らされた俺とタイミングの悪い土方。
相変わらずの黒を基調とした大人しい服装は、彼によく似合っている。それはもう、俺らの隣を歩く女たちが一度は振り返るくらいに。

「土方はかっこいいから誕生日を祝ってくれる女なんてたくさんいるもんな」

思わず八つ当たりめいた言葉が口から飛び出してきたのはしょうがないことだと思う。
だって俺は、それくらい傷付いたんだ。土方にしてみれば誕生日ごときで、って思うかもしれないけど、俺には大切なことなんだ。大切な人の大切な日を祝いたいと思うのは普通だろう。

「何言ってんだお前」

案の定わかっていないような表情で聞き返してくる土方に、今日ばかりは苛立ちが募る。

「べっつにー。まあ大事なことを何も言わない奴よりは余計なことを言う方がなんぼかマシだとは思うけどね」

「ああ!?だから意味わかんねぇよ!」

その瞬間、俺の高ぶっていた感情が一気に冷めていくのを感じた。
きっとこいつには、何を言っても俺の気持ちは届かないのだろう。俺が何も知らされず、まるで誕生日を祝う権利さえないとでも言われたような気持ちになったことも、理解できないのだろう。
だったらもう、何を言っても無駄だ。

「……次講義入ってるから、またな」

本当は講義なんて入っていなかったけれど、これ以上こいつと話すことはできそうになかった。
だから離れようとしたのに。
それを引き留めたのは他でもない、土方のひんやりとした細い指だった。
女のように綺麗で白いそれは、俺の手首を弱々しく掴む。

「……おまえ、いつもこの時間は空いてるじゃねぇか」

行くなとも、ごめんとも言われていない。
それでも俺をそうやって気にかけてくれているだなんて、そんな勘違いをしてしまいそうになる。同時に、それだけで機嫌が良くなってくる自分を我ながら単純だと思う。

「とりあえず場所変えようぜ」

ここでは目立つだろうと、やんわり土方の相変わらず冷えた指を離すと、こいつは酷く傷付いた顔をした。
なぜ土方がそんな顔をするのかもわからない俺もこいつの気持ちを理解していないのだから、怒る権利はないのかもしれない。
よく似ていると言われるくせに、心は何一つ似ていなくて理解し合えないことを、こんなにもどかしく思ったのは初めてのことだった。


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