[携帯モード] [URL送信]

長編
1.残酷な笑顔


どんなに強い雨でも、歩けると思ってた。


―――――――
―――――


きらびやかなネオンが目に痛かった。夜だというのに街は眠る気配すら見せず、寧ろ活発に動いている。何故かと問われれば簡単だ。答えはここが、花街だから。
情報収集の一つとして、時々通うそこ。
俺は他の奴らに比べたら顔がいいらしいので、副長とはいえ行かない訳にはいかなかった。
決して女を抱く訳ではない。ただ情報を聞き出す為に酒を飲み話をするだけ。けれど俺はそもそもここの雰囲気が苦手なのだ。一刻も早く帰りたいがために迎えの車を待つ間も苛々して、煙草の本数は減るばかり。
俺が紫煙を吐き出すと同時に深く溜息も吐き出したとき、聞き覚えのある笑い声がした。
誰だろうと気になり視線をそちらにやる。そして俺が視界に捕らえたのは、顔に傷はあるが間違いなく綺麗だと形容されるような女と、銀髪の男、銀時だった。

俺も銀時も間違いなく男だが、俺らは言ってみれば恋人という関係にいる。総悟は気付いているが、他の奴らは誰も、近藤さんも知らないはずだ。総悟にだって知られたくはなかったが、どうしてもミツバのことがあったから、あいつにだけは知らせなくてはならないと思ったのだ。
ふざけるなと罵られることも、気持ち悪いと軽蔑されることも覚悟していた。
けれどその覚悟を全て裏切って、総悟は滅多に見せない姉譲りの笑顔で言い切ったのだ。

知っていやした。

あの姉弟の強さはどこから来ているんだろう。どうしてここまで強く在れるんだろう。
あの時俺は、強くそう思った。それと同時に何もかも許すような総悟の言葉に、その夜俺は初めて銀時に涙を見せたのだ。

そんな風に始まった関係。だけど視線の先には綺麗な女に屈託のない、俺には見せたことのない笑顔を向ける銀時。こんなところにいるのだから、嫌でもたどり着く答えは一つしかなかった。なによりその笑顔が、全てを物語っていた。

胸が、痛い。苦しい。息さえできない。
それでも裏切られたなんて、そんな傲慢なことは言えなかった。
だって俺は、手を繋いで歩くことも、デートをすることもできないのだから。
そんな相手より、綺麗で一緒に出歩ける相手、なにより女の方がいいなんてこと、初めからわかっていたではないか。俺なんかを選んでくれる訳ないと、そんなこと知っていたではないか。

いつの間にか落としていた煙草を踏み付け、火を消した。新しい煙草を取り出す必要はない。タイミングが良いのか悪いのか、迎えの車が来てしまったから。
正直今は一人になりたかったが、これから報告もあるのでそれはできない。公私混同は絶対にしないと、それだけは江戸に来た頃決めていた。
それに、銀時がいなくても大丈夫。あいつに会うまでは一人が普通だったんだ。それがまた、元に戻っただけ。だから、問題なんて一つもない。
無理矢理言い聞かせる言葉は、自身の傷をえぐっていくものでしかなかった。
もう少し銀時を好きじゃなかったら、もっと一緒にいられただろうか。たった一度の浮気なんて、なんでもないと許せただろうか。

もう無駄だと思えるようなことをぼーっと考えながら車に乗り込む。見えなくなった銀色が目の前にちらついて、酷く落ち着かない気分だ。

「どうかしましたか?」

明らかに様子のおかしい俺を気遣う部下の言葉には、首を振って否定した。口を開いたら、何を言ってしまうかわからない。

本当は、わかっていたんだ。気付かないふりをしていただけなんだ。どんなに近くにいたとしても、その距離が随分と遠かったことにも、銀時が、俺を見てくれたことなんて、一度もなかったことにも。

だからせめて最後くらいは笑顔でいたいと、そう思うのにどうしてこんなに苦しいんだろう。
……なあ、上手く笑えそうになくても、最後くらいは俺だけを見ていて欲しいんだ。



残酷な笑顔
(それは現実を突き付けるおまえのものか)(諦めしかない俺のものか)



Next

[*前へ][次へ#]

2/6ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!