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短編
巡る季節


同じ缶ジュースも飲めない俺らは、ずっと友達のまま過ごす気がした。


―――――――
―――――


教室の窓から見える景色はうっすらとしか雪が被さっておらず、もうすぐ春なんだと漠然と思った。後ろで馬鹿みたいにはしゃいでいる奴らとは違うクラスになるかもしれない。離れたくない、だなんて女じゃないから言わないけれど、それでも一年間、すごく楽しかった。
クラスが違うといくら仲が良くても結局話さなくなる。そんな少し苦い経験を何度かしてきたから、ずっと友達、なんて陳腐な言葉も吐かない。

「なーにやってんの土方ァ」

ふとからかうような調子で俺の名前を呼ぶ声がした。親が外国の人なのか、綺麗でふわふわの銀髪にいつもは死んだ魚のような、けれどいざというときにはキラキラ輝いて見える赤い瞳を持つ男。クラス、いや学校の人気者で明るくて話しやすくて女子にもモテる、名前は坂田銀時。
最初はちゃらちゃらしてるように見えたから、俺はこいつが大嫌いだった。昔から剣道をやってるせいか、俺は責任感のない奴や礼儀がなってない奴は苦手だったから。
けれど思考回路が似ているせいかしょっちゅう絡まれ、俺もそれを黙って受け流せる程大人でもなかったからついそれに応えてしまっていた。そうしているうちに話す機会も増え、いつの間にやら周りからは親友と呼ばれる関係になっていた。

それなのに俺は、それと共にこいつの背中を目で追っていた。男同士だから、とか、こいつは俺のことなんか友達としか思ってない、とか、そうやって何度も想いを止めようとしたのに、それは結局無駄なあがきでしかなかった。
やっぱり、どうしても好きで、だからこそもう近寄って欲しくない。これ以上、好きになりたくないんだ。これ以上、この気持ちを抑えられる自信なんてないんだ。

「あぁ?うるせーどっか行けよ」

「うっわ、最近冷たいじゃーん」

いくら悪態を吐いても軽い調子でさらりと流すこいつ、銀時が今だけは憎い。
そんな俺の心情を知ってか知らずか、銀時は俺が見ている窓の隣の手摺りに背中から寄り掛かるようにして肘をかけ、俺をちらりと横目で見て嫌な笑みを浮かべた。
なんだかその動作のいちいちが無性に苛立つ。

「あーもうさっさと消えろいますぐに!」

「……最近苛々してるけどなんかあったのか?」

ふざけていたかと思えば急に真面目な声を出すからこっちは心臓がもたない。俺が苛々してるのは、自分の勝手なエゴだというのに、それすら気にかける。こいつは本当に、底無しのお人よしだ。

なんて返そうか悩みながら何の気無しに窓を開けると、少し冷たいが春の匂いを乗せた風が教室に入って来て、なんだか悩んでいる自分があほらしくなった。
例えばここでこいつに拒絶されてもされなくても、季節は俺に関係なく巡っていく。そんな、小さい頃は当たり前だったのに今まで忘れていたことを思い出し、馬鹿みたいに常識も規則も自分次第で変えられると思っていた頃に戻りたくなったのだ。馬鹿みたいだとは思うが、俺はこう見えてそんな考えが嫌いじゃなかったりする。

「……好きな奴ができた」

本当になにも考えず、頭に浮かんで来た言葉だけ吐き出すと、銀時は何故だか変な風に空気を吸い込んだらしく激しく咳込んでいた。
意外に辛いよな、なんて他人事のように思いつつ、しばらく横目でそれを見ていると、よほど苦しかったのか涙目になりながらも銀時はこっちを見て来た。

「だ、誰!?どんな子!?てゆーかこのクラス!?」

いきなりの質問攻めに首を傾げつつ、俺は手摺り頬づえをついていない方の手で、銀時を指差した。都合のいいことにカーテンがあるので俺らの様子は他の奴らには見えない。

一方指を差された銀時は、俺の想像とは全く違う反応を見せていた。
最初こそ驚いていたものの、俺が本気だとわかるとあーだのうーだの真っ赤な顔をして唸っていた。

ちょっと、いや、かなり期待してしまう。こんな反応されたら誰だってそうなると思う、けど。
そんなことを思いつつ返事を待っていると、銀時は相変わらず赤い顔のまま嬉しそうに、けれど少し恥ずかしそうに笑っていた。

「俺も、好き」

俺にも春が来たかな、なんて、そんな中学生みたいなことを考えて赤くなる俺の頬を、まだ冷たい風が優しく撫でていった。
ああ、でももしガキみたいになれたから上手くいったのだとしたら、もう少しガキのままでいたいな、等という馬鹿なことを思ったのはきっと、もうすぐ春が来るからだ。



巡る季節
(別れの季節に)(俺達の一歩は始まりました)




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