[携帯モード] [URL送信]

短編
最高のプレゼント





誕生日なんて、昔からどうでもよかった。この世界に生まれてきたことがおめでたいと思える程、俺は出来た人間じゃないし、寧ろこんななにもかもが汚れた世界に生まれてきたことを後悔さえしている。だから誕生日なんて恨みこそしても、祝うものだとは到底思えない。
祝われるはずの本人でさえこんな風に考えているんだ、俺の誕生日を知っている奴なんて、もういないんじゃないのかと本気で思っていた。

だから、来島達にこの日学校に呼び出されたときは、別に何とも思わなかった。
当然だ、俺はこの日を他と変わらない夏休みの中の一日としか認識していなかったんだから。

「先輩っ、お久しぶりッス」

学校に到着すると、相変わらずの制服姿と俺には眩し過ぎる程の笑顔を装備して、来島が近寄って来た。
人の笑顔にはたいてい裏があるから嫌いだったが、こいつのそれは悪くないと思う。
こんな風にあからさまに好意を態度に出してくる奴なんて初めてだったから少し戸惑うけど、それでも嫌いじゃない。

「で?今日はどうかしたのか?」

一度外していた視線を来島にやると、こいつはさっきよりいっそう楽しそうな、それでいて嬉しそうな満面の笑みを俺にくれた。

「来ればわかるッス!」

そうして熱い手に腕を掴まれたから、俺は訳がわからないながらも来島の後について行った。
こうやって触られるのも昔は嫌だったが、なんの下心も無い、無邪気で子供みたいな触られ方は、嫌いじゃないと思う。

休みだというのに部活の為登校していた生徒達の声を聞きながら、俺は来島の半歩後ろを歩いた。
相変わらず腕は掴まれたままだが、いつも以上にキラキラしたオーラを出しているこいつにはなにも言えずにいる。
結局終始無言だった俺は、自分のクラスである3Zに連れて来られた。
……別に教室でやることなんてないはずなんだが。

不思議に思って来島を見ても、やっぱりこいつは眩し過ぎる笑顔をくれるだけだ。

「とにかく入ってみて欲しいッス」

そしてやっぱり何がなんだかわからないまま、俺は教室の扉を開けた。
見えたのはよくパーティーなんかするときの飾り付けと、机にでかでかと置かれたケーキ。そして万斉と武市、似蔵の姿だった。

一体これが何を意味しているのかわからなくて、俺は中にいた万斉に視線をやる。すると万斉は、サングラス越しにでもわかるくらい柔らかく微笑した。
よく見ると、来島はもちろんだが他の奴らも心なしか笑ってる気がする。

「誕生日おめでとうでござる、晋助」

嗚呼、と思った。こいつらは、俺なんかの為にこんな表情をしてくれるのか。
自分でさえ忘れていた俺の誕生日を、こんな表情で祝ってくれるのか。

「どうッスか?驚いてくれたッスか?」

期待に満ちた表情で俺を見る来島をまともに見ていられなくて、俺は視線を外しながら呟いていた。

「……馬鹿じゃねぇの」

嬉しくなかったッスか?と騒いでいる来島の声をバックに、俺はもう一度装飾の施された教室を見回した。

本当に、もう誕生日なんて誰にも知られず、ずっと一人で過ごすんだと思ってた。それは哀しいことだと、誰かに言われた気もするが、そんな風に思える程俺はまともな思考をしていなかった。……はずなのに。
こんなことをされたら、来年の今日、一人で過ごすのが嫌になりそうだ。また誰かと一緒にいたいと思ってしまう。
でも、この思いに悪い気はしなかった。
そしてこいつらは、自惚れじゃなくまた来年も祝ってくれるんだろう。

「……ありがとな」

自分でも気付かぬうちに、そんな言葉と笑顔が漏れていた。
誕生日なんてどうでもよかったが、こんな誕生日は悪くないと思う。





最高のプレゼント
(今日という日に)(おまえらと一緒にいられることが)





[*前へ][次へ#]

13/46ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!