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短編
素直じゃないけど





「ほんとおまえって素直じゃねぇよな」

静かな声で言われた言葉に、深く傷付いた、だなんて言う資格は俺にはない。


―――――――
―――――


俺はもともと口下手な方で、この目つきのせいかほとんどの奴らは近付くことすらせず、それに拍車をかけるようにますますしゃべらなくなった。
幕府の上の者には機械的にマニュアル通り話せば問題なかったし、隊士達には自分の気持ちではなく作戦だけを伝えればいいので、俺はなんとかやってこれた。
近藤さんは俺が相槌のうちやすいように話し掛けてくれたし、総悟に至っては考えるより先に口が開いてくれるのでそのことに関してだけはある意味苦労しない。

だけど、こいつには、銀時には通用しなかった。
当たり前なんだ。俺はただでさえ女のように柔らかい身体も豊富な胸も持っていない。おまけに俺には銀時よりも護らなきゃいけない人がいる。こいつのために俺は死んでやれねぇ。

でも、わかってたんだ。こいつが無理していたことくらい。
いつもいつも、俺といるときは他の奴らに見せる笑顔も浮かべなけりゃ視線もあまり合わせない。
告白したのは俺からで、だからこいつは優しいから同情で付き合ってくれていた。
そんなことを全部わかっていて、それでもこいつと一緒にいられるならそれでも構わないと、そんな自分を偽るような付き合いを始めたのは俺なのだ。
だから俺には、傷付く権利なんて無い。傷付くなんて、身勝手すぎる。

「……テメェに言われなくてもわかってんだよ」

ほらまた、意志とは関係なく口から捻くれた言葉が吐き出される。本当は、こんなこと言いたくないのに。本当は、好きだと、もう一度だけでいいから言いたいだけなのに。

でも、自分が素直じゃないことも、本当にわかっているから。
素直じゃなくて、大事な奴も護れねぇような弱い人間で、誰かがいないと立っていられないような、そんな人間だと、わかってしまっているから。
それでも好きになって欲しいと、望むことはそれだけで。
……でも、ムリなのはわかっているから。
銀時にとって俺が重荷になっていることくらいわかっているから。

「なんだよそれ。だいたい付き合ってくれって言い出したのはそっちじゃねぇか」

尤もなことを言う銀時の顔を見れず、俺は俯いた。
たしかに、俺が言い出した。おまえは同情して付き合ってくれた。
……でも。

嘘でもその手の優しさに触れてしまったから!!その温かさを知ってしまったから!!
もう離せないんだ。離したくなんかないんだよ……!!

「おい、聞いてるかって……土方?」

銀時に俯いた顔を覗き込まれて、ありえないとわかっていながらその瞳が優しさを含んでいると勘違いして、思わず目の前の男に縋っていた。

「俺には命に代えてでも護らなきゃいけねぇ人がいて、そいつは俺に居場所をくれた尊敬する親友で仲間で上司で!!
だからおまえには命も忠誠も心も俺の1番もやれねぇ。それでも!!それでも俺にはテメェが必要なんだよ!!例え嘘でもおまえに愛されたいんだよ!!少しくらい察しろよこのクソ天パ!!」

俺の精一杯の言葉に、銀時は一瞬呆然として、それからムカつく程大笑いしやがった。その笑い声はまるで馬鹿にしてるみたいで酷く傷付く。けれど、それには気付かないフリ。
だって、もし本当に愛されていなくても、こいつの笑顔を見ていられるなら自分のことなんてどうでもいいと思ってしまっている自分がたしかにいるのだから。
しかし、ふと笑い声をおさめた銀時がほんの少しの哀しみと、たくさんの愛情が篭った目で俺を見る。
……なんでこんな目するんだよ。また、期待しちまうじゃねぇか。また、好きになっちまうじゃねぇか。

「……ごめんね。銀さん間違ってたわ。土方君が素直じゃないなんて嘘。土方君は、本当はすごく素直で、可愛くて、優しくて、銀さんにすんごく愛されてる幸せ者、わかった?」

「!!」

銀時は、唇に一つ触れるだけの優しいキスを落として、俺をぎゅっと抱きしめた。

その瞬間、俺は悟ってしまった。もしこの言葉が嘘だったとしても、俺はきっと、一生だってこの男を憎めない。
そうして俺の身体は、この言葉が嘘なんかじゃないと、力いっぱい叫んでいる。
俺が銀時の項に強く額を押し付けて必死に頷くと、こいつから小さく笑った気配がして、俺は思わずつられて笑ってしまった。その振動で涙が零れたのは、悔しいから俺だけの秘密だ。





素直じゃないけど
(それでも俺には)(おまえが必要なんだ)





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あきゅろす。
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