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布団に籠ってると夏は本当暑くてしんどい。けどぶっちゃけ俺の五感はうまく働いてないようでなんだか寒い気さえする。開け放した障子の向こうがゆらゆら揺れてんのは陽炎か、それとももうすぐ死ぬからか。
別に死にたいわけじゃねぇけど意味も無くダラダラ生きるくらいならパッと死んじまった方がいっそ楽かもしんねぇ。

そういう風に考えを巡らす時、決まって俺はチャイナのことを思い出す。生命力に溢れたあの子ども。日差しに弱い癖にあいつからはいつも夏のにおいがした。にかっと笑う顔が今の俺には眩しい。

チャイナと会わなくなって幾日も経つ。会いたいとは思わなかったし、本当言うと会いたくもなかった。

俺はもうあの頃の俺じゃねぇから。


チャイナだって大概白いが俺の腕はなんかもう気持ち悪いくらい白くなったし多分もう昔みたいにふざけたりなんかできないだろう。
今会ったら、「お前と会えてよかった」なんて馬鹿みたいなセリフを口走っちまいそうで怖い。



チャイナには俺を覚えていてほしかった。だから会わないと決めた。
いつまでも初夏のままの、クソ生意気な俺を覚えていて欲しかったから。
お前に会えてよかっただの、元気でやれよだの。そんな終止符を打ってさっぱり別れたくなんかねぇ。おぼろげでいい、遠くでいいから、チャイナの頭ん中でくらいどうしようもねぇ俺でいさせろィ。


死んだらみんな良い奴になるだなんて人は言うけど、どう転んだって俺は良い奴になんかなれねえよ。
でも今俺はいろんな人を思い出して、みんな良い奴だったなぁなんて柄にもなく思ってて、変に穏やかな気持ちになってて、なんかもう俺が俺じゃねぇみたい。俺今すげーいい奴。


耳鳴りみてぇに蝉が鳴く。今なら俺の思いも全部、うまく隠してくれるだろうか。



「……かぐら、」



呟いた言葉はじわりじわりと鳴き声に消えた。窓の外は群青に晴れて布団の上に濃い影を落とす。この箱庭みてぇな小さな部屋で俺は思いに蓋をするのだ。俺が俺であるために。


――なぁ神楽、ずっとお前が好きだった。
これは墓場まで持っていく秘密。







(目蓋の奥を夕日が暮れる)









あきゅろす。
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